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22話

お読み下さりありがとうございます





 目が覚めるとまだ辺りは薄暗く、眠りが浅かったのだろうか珍しく早起きをしてしまった。


 隣でまだスヤスヤと寝息を立てているルキを起こさないように、ベットからゆっくり下りると音を立てないよう静かにバルコニーに出た。


 両手を空に掲げ伸びをすると、遠くに見える山の頭から太陽の光が見え始める。朝のひんやり冷たい風がサラリと髪を揺らすと、ブルリと体が震えた。


 昨日の出来事を思い出すが、まだ実感が湧かない。


 私には前世の記憶もあり、弟も一緒にこの世界に転生していた。そして、この世界で2人は生きている。

 昨夜のルキの話を思い出しクスッと笑ってしまう。



 昨夜、マティレクス殿下と一緒にルキに転生者であることを明かした。

 帰りの馬車の中で、マティレクス殿下とマキシ、私の3人で相談し合った。これからのことを考えると後から話すより、すぐの方が違和感を与えなくていいのではないか?ということになったのだ。

 私も、ルキに隠し事はしたくないのでマティレクス殿下も了承してくれたし、胸のつっかえがなくなった。


 そのため、マティレクス殿下がベルトア伯爵邸の別邸を出る時間が遅くなってしまった。

 彼も、色々な思いを抱いて今まで生きてきただろう。肩の荷が下りたためか、帰り際のマティレクス殿下の顔が晴れやかに見えた気がした。


 マティレクス殿下が話している間ずっと静かに聞いていたルキはというと、彼の話が終わると眉をひそめ大きなため息をひとつ吐く。


「はぁー。前世とか今世だとか···。簡単に言うと、前世で生まれ生の続きが今世だったというだけの話だな。どちらにしても、マティーはリュシーの弟になるわけだ」


「誰にでも過去は何かしらある。過去は過去、今は今。生きてる今このときを謳歌したらいい」


「話は以上か?···ったく、さっさと帰ってこないからリュシーとの時間が減ってしまったではないか」


「もう夜も遅い、早く帰れ」



 さすがルキだ。その通りだ。ただ、私たちの過去には前世があっただけで、何も変わらず続けて今を生きている。

「今、私はここにいる」口に出して言ってみればまたクスッと笑いが洩れた。


「リュシー、こんなところにいたのか。起きたら隣にいないからビックリしたぞ」


 いつの間にバルコニーに出てきていたのか?後ろから突然フワリと抱きしめられる。ルキの体はとても温かくて、その体温で私は幸せを感じた。


「ファイニールは王都と違って寒い地方なのだから、薄い寝着のままで外の風にあたってはいけないよ。ほら、体が冷えてる。どれだけバルコニーにいたんだい?風邪を引いてしまうから中に入ろう」


 ルキは、額に唇を落とした後でスルリと横抱きにして私を抱え上げた。彼のアクアブルーの澄んだ瞳を見つめて「ルキ、愛してる」と伝える。


 ルキはみるみる頬を赤くさせ、しまいには耳まで真っ赤にし私から目を反らすと「無理だ」ポツリと呟き、満足そうに口角を上げた。


···えっとー、無理って?

···私の告白の返事なわけ?



 そして、抱き抱えられるまま部屋へ入るとスタスタとベットに運ばれた。

 私は眉間にしわを寄せ、彼の顔をジッと見つめる。


「ルキ?何が無理なの?」


「はぁー?何を言っている?理性を保つのが無理なんだ。···リュシーから誘ってきたんだからな」


 少し不服そうな表情を浮かべたルキは、私の寝着を一瞬にして脱がした。私が口をパクパクしながら呆気にとられていると、気がつけば全裸になった美醜を放つルキが覆いかぶさってきた。ヤバい、見惚れている場合ではない。


「冷えた体を温めてやる」


 とろけるような視線で見つめながら唇を重ねられると長い時間貪られ、ルキの熱い体が私の体の体温を一気に押し上げた。





 午後からは、明日出席する結婚披露宴の準備で忙しい時間を過ごすこととなった。ファイニール辺境伯であるラファイエ様と、ドゥルッセン公爵令嬢のフローレンス嬢ことレンの結婚披露宴だ。ルキは、新公爵としての初めての大きな催しに出席するため、出席準備を念入りにすることになったのだ。


 前回レンと会ったときに、披露宴ではサプライズがあるといっていた。何をやらかしてくれるのだろうか、明日が待ち遠しい。


 侍女らに、サイズの調整のため明日の披露宴に着ていくドレスを着せられる。

 薄い水色のドレスはレースの布地が何枚か重なっていて、デコルテにも空きがなく首までレースで覆われているタイプのものだ。腰には金色のレースで作られた紐を垂れ下げ、紐を留める金具にはアメジストがふんだんにあしらわれている。

 体のラインに沿って作られたドレスは、少しでも体型が変わると直しが必要になるらしい。


 髪をアップにしてほしいとルキからの要望があったが、私はドレスに合わせたハーフアップを侍女らに頼む。侍女らはにこやかに笑みを浮かべ、サイドの髪を何本か三つ編みにしワイヤーを入れて後頭部で蝶々の形にし、レースで作られた花のカタチの髪留めを差して柔らかな印象を与える髪型を作ってくれた。


 そして、ブルーダイヤを縦型にカットしたイヤリングを耳に下げ、首元にはパールのネックレスのヘッドトップにブルーダイヤをぶら下げたものを付ける。


 姿見の前で着飾った自分の姿に満足しながら確認していると、着替え終わったルキが入室してきた。


 ルキの装いは、ブルーの布地に金色の刺繍があしらわれたものだった。瞬きも忘れて小さな声を漏らす「···神様ありがとう」見慣れない色を纏っている優雅な彼の姿に目を奪われた。私の婚約者は世界一カッコいいと、胸の中でガッツポーズをする。


「ダメだ。リュシーが美し過ぎる。···明日はリュシーの髪型をアップにしてくれ。私がそばを離れた瞬間、男共の餌食になる」


 この国では、婚礼後に髪をアップにする習慣があるのだが、髪を下ろしている女性は未婚の象徴であり、まだ婚礼前の男性が髪型を見て誘ってくることがあるのだ。


「イルキス様、リュシエル様はまだ婚礼前なのですよ。無理に今からアップにしなくてもよろしいかと――」


 侍女頭のミネルバさんが顎に手を添えながらルキを一瞥すると、


「いや、ダメだ。リュシーの容姿をお前たちは分かっていない。毎回集まりの場において、俺がちょっとでも離れると一瞬で取り囲まれてる。それに、今回は初めて合う貴族らも少なくない。狼の中に兎が一匹の状態にでもなったら大変だろう」


 せっかく可愛くセットして貰った自分の容姿が、ダメ出しくらうなんてと不服を申し立てたい。

 しかし、侍女らが複雑な表情を浮かべているのを見ると、明日の髪型を覆すことはできないのだと悟り、少し残念に思った。






 披露宴会場となったファイニール辺境城の大広間では、煌びやかな装いの招待客で溢れかえっていた。


 馬車から下りた私たちは、受付に向かって歩き出す。受付では、正装に身を包んだファウルドが招待客に挨拶をしている姿があった。


「カリュザイール公爵当主、イルキス・カリュザイール様と御婚約様のリュシエル・ガトゥーラ様。本日は、父と義母の結婚披露宴にお越しくださりありがとうございます」


 いつもとは違う賢さを感じさせるファウルドは、上位貴族らしいマナーで出迎えてくれ、用意された席まで私たちを案内してくれた。


 ファウルドが満面の笑みで「こちらです」テーブルの椅子を引き、座るように促した場所で私は固まった。


···ここ?王族の席ですよね?

···ファウルドー、やってくれたわね



「イルキス様に、周りを気にせずゆっくり出来る席を用意するように言われたのです」


 笑みを浮かべながら小声で耳打ちすると、ファウルドは涼しい顔で踵を返し戻っていった。



「リュシエル姉様!今日の姉様も、とても美しいです。私の隣の席も空いていますよ」


 王太子となった第三王子の隣になんか座れるわけないだろう。会場中の注目を浴びせられて、ヒクヒクと引きつった笑顔しか出てこない。

 向かいの席に座っている王弟殿下と、その隣に並んで座っている妃殿下に挨拶をしたあとで席に座るように促され、その場に着席した。

 先に隣に座っていたルキが一度立ち、自分の椅子を私の椅子にくっつけてから座り直す。その様子に「あらあら、あのイルキス様が···」目を見開いてからプッと吹き出した妃殿下が、後ほど猛獣のしつけかたを伝授してほしいとクスリと笑う。

 私はその言葉に、静かに扇を開き真っ赤になった顔を隠した。


 すると、妃殿下はピタリと笑いを止めて「その扇はどちらでお買い求めになったのでしょうか?」と穏やかな表情で扇を見つめる。開いた扇は白から水色へのグラデーションがとても上品で、金のフチが柔らかな色合いを引き締め、止め金から下がっているアメジストが気品をかもし出している。


「こちらですか?この扇はルキがデザインしたものを作っていただいたのですが――」


「イルキス様が?デザインを?」


 信じられない言葉を耳にしたことだろう。皆さん、時が止まったかのように口を開けたままルキを凝視している。


「ん?···私のリュシーが身に付けるものは、夫である私が彼女に合うものを考えて着飾ってますが。デザイン画を頼んだところで彼女を最高に表現出来るものが少ないので、私がデザインしているんですよ」


···ウンウン。普通、引くよね

···私も引いてるから

···更に、サラリと夫って言ってるし



 壇上では、ファイニール辺境伯のラファイエ様が挨拶をすると、王弟殿下が先日行われた婚姻の認証書を掲げ婚姻の式が滞りなくなされたことを告げた。


 楽団の演奏が始まると、魔法で作られた桃色の花弁が、会場にフワリフワリと宙を漂い本日の主役であるラファイエ様とレンが煌びやかなホールの中央までやってくる。2人が最初のダンスを踊りだし、披露宴の幕が上がる。


 その2人の姿に、何故か涙が込み上げてきた。

 何年もの長い時間をかけて勝ち取ったレンの恋心の集大成の場で、私は歓喜を上げた。





投稿が遅くなり申し訳ありませんでした。


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