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2話




そして私は、話したいことがあると言われイルキス殿下に学園の応接室に連れて来られた。


 応接室に入ると、なんと国王陛下、王妃様、更には私の両親まで居るではないか。


 訳が分からないまま瞬時に精一杯の笑顔を作りカーテシーをする。その後、イルキス殿下に促され着席した。


「第二王子のイルキスは学園卒業後に臣籍降下し、カリュザイール公爵の名を授ける。リュシエル·ガトゥーラ嬢、公爵となるイルキスと婚姻して支えてやって下さらんか?」


······な、なんと?聞き間違い?

  

「リュシエル。父の言葉はそのままの解釈だ」 


 困惑して固まっている私をしれっと名で呼びイルキス殿下は申し訳なさそうに覗き込む。


「えっと······イルキス殿下が公爵位になり婚姻するので、今回は失敗しないように、私が見守るってことですよね」


「はっ?」


 イルキス殿下はすっとんきょうな声をあげ、顔を引きつらせて信じられないものを見るような表情を向けてきた。


「リュシー、急な話で戸惑うだろう。イルキス殿下と結婚するのは嫌かい?······箝口令が敷かれた内容は、王家と私とリュシーしか知らないんだ。だからリュシーには、これからの選択肢が2つになってしまった」


「これからの人生が二択?」


 驚きの内容に、陛下の前で地が出てしまった。


 父様の顔は真剣だった。冗談事ではないことだと気がついた。


「······父様、約束が違います!」


 私は、幼少時代から異国の夢を見ることがしばしばあった。

 夢の中で私はレイカと言う名で呼ばれていて、牧場という場所の隣にあるレストランという食事を提供するところで働いていた。

 牧場で採れたミルクを使い、レイカは色々な菓子を作る職人だった。

 中でもレイカの作るアイスクリームはとっても人気で、小さい子供から大人までお店の前に列ができる。みんな並んで自分の順番がくるのを待っているのだ。

 自分の見る夢に憧れ、夢を現実にしたいと思っていた。


 父様も了承してくれたのだ。


 それは、12年間侯爵当主になるために頑張った私へのご褒美だった。


 私は弟が生まれる12歳のときまで、婿をとり女侯爵となるように育てられた。しかし、弟が出来たことで跡取りが代わった。

 幸い?ガトゥーラ侯爵領地には世界一澄んだ湖と呼ばれるタトゥル湖があり、リゾート地として栄えている。その一部では貴族専用のコテージ地域や、タトゥル街限定商品を取り扱う王都で貴族に人気の店などが軒並み出店している商店街、そして色々な食べ物を提供する店も沢山ある。

 私はその中で、スイーツのお店を出店したいと、12年間頑張った褒美として父におねだりしたのだ。何度も何度もしつこくおねだりしたのち、最終的に父様は折れ、私が学園を無事卒業したらと出店の了解を得られたのだ。


······あー、私の人生終わったな


「今日まで、何も知らされませんでした。父様なんか大嫌いです。私の将来の夢を後押ししてくれていたではありませんか。ここにきて、まさかの裏切りですか?信じられません。大好きだったのに······」


 気がつけば、私は大粒の涙がボロボロと溢れでてきて止まらない。


 泣きじゃくる私の頭を隣にいたイルキス殿下が撫でた。そして、ハスキーボイスの心地よい声でイルキス殿下は否定した。


「ガトゥーラ侯爵は約束を破ってはいないよ。そのままでいいので私の話を聞いて欲しい」





「私は、ずっと君が好きだったんだ」


 10歳のときに婚約者候補を決めるお茶会で

のことだ。

 テーブルに座ると同時に次々と押し寄せてくる令嬢たちに嫌気が差し、その場を離れた。

 すると庭園の茂みに座り込んで俯いている子がいた。

 具合が悪いのかと声をかけると、幸せを探してると言った。

 「幸せ?」「そうよ。この草を見て」三枚の葉っぱだが、幸せを運んでくれる葉っぱは四枚だと言う。


 時間を潰すため、一緒に探してあげると言えば、自分で見つけないと幸せになれないと言い

「頑張ったご褒美が幸せなのよ。私は大人になったらお菓子を作って、みんなにプレゼントしたいの。甘いお菓子を食べると幸せな気持ちになるでしょ」こちらを振り向いたそのキラキラ輝いた瞳に心を奪われた。

 その日に集められた令嬢たちは、王子の婚約者になるために、目をギラつかせ我が先にと押し寄せてくる令嬢しかいなかったのに、その子はそっちのけで違う幸せを探しているのだ。


「じゃあ、僕も大人になったら一緒にお菓子をプレゼントしてもいい?」

「いいわよ」

「プレゼントを配るときはいつも一緒だよ?」

「いいわよ」

「いつも一緒だから、僕と結婚すればいつでも一緒に配りにいけるよ?」

「いいわよ」

「大人になるのが楽しみだね。約束だよ」

「うん。約束よ」

 

 そこで母親が迎えに来て「リュシー!探したわよ」その子は連れて行かれた。


 その日の夜に父上に気に入った子はいたか?と聞かれ、リュシーという女の子だと話した。


 しかし、婚約が成立した後、二人での初めてのお茶会で紹介されたのは一つ歳上のリュシエンヌだった。


 違う人だから、父と母に何度も解消をお願いしたが、こちらからの申し出であり無理だと言われた。


 定例の毎月のお茶会では、始めの頃はいつも上目遣いですり寄って来られたが、それが気に入らない私は毎回無表情、無言で過ごした。


 何度目かの茶会のときに、たまたま兄が見に来た。彼女は兄と会話を弾ませていたので、私はその場を去ることにした。席を立ったとき、兄が彼女の腰に腕を回していたのが視界の端に入ってきた。


 それからの茶会は、学園が休みで兄が王宮にいる日を選んだ。彼女と兄はクラスも同じだから話が合うらしく、茶会には毎回兄も参加するようになった。そして、私は陛下に影を付けてもらえるよう進言した。兄の婚約者は他国の王女で、何かあってからでは遅いと直ぐに兄に影を付けてくれた。


 そして、学園に入学する前日のことだ。

 王都からの帰りに私が馬車から降り立つと、丁度宰相が馬車に乗るところだった。「明日から家の娘も学園に入学するので、本日は早目に帰宅させていただきます」と挨拶をされたので、会ったときには挨拶しようと言った後で名前を聞けば「リュシエルです。妻に似てとても可愛いので、リュシーのことはすぐ分かりますよ」と、照れながら言った。


······リュシー?


 踵を返し馬車に乗り込もうとする宰相の腕を掴み、愛称を聞けば「リュシーです」と。

 髪の色は?「銀に薄紫で私と同じ髪色ですよ」瞳の色は?「母親に似た透き通ったアメジストですが?」と。


 やっと、やっと君を見つけることが出来た。


 そして、婚約者はいないと聞いて胸が高鳴った。


 学園に入学してみるとすぐにリュシエルを見つけることが出来た。しかし、何故か髪色も瞳の色もキャラメル色だった。

 宰相に問いただすと、結婚しないから婚約者がいないと言う。そして、少しでも縁談の話が来ないようにと今まで貴族令息令嬢の集りやお茶会等にも参加したことがなく、学園では目立つ容姿を魔法で変えていると。

 事情を聞けば、学園卒業後に自領で店を構えたいとお願いされているという。·····そんな夫人を持つ貴族はいないから結婚はしないと。

 弟が産まれるまで頑張ったのだから、この先は自由に成りたいと言われ、その我が儘が自領の為のものでもあることを口にされたら頷くしかなかったと。


「そして私は宰相に、リュシエルを娶りたいと申し出たんだ」


「必ず合意の上でバインダル公爵令嬢と婚約解消をすることと、宰相と君の約束を尊重する条件付きだったが。私もリュシエルとは約束していたからね」



 宰相との条件は、学園を卒業するまでに整うはずだった。

 しかし、予想外の出来事があった。そう、保健室での出来事だ。

 そのときは、婚約解消が早まると安易に喜んでしまって、事を急いでしまった。

 学園を休学して向かった先はガトゥーラ侯爵領だった。

 保健室での出来事を父上が知ったとしても、直ぐ対応が成されるかは分からない。なので、いつ薬を盛られるかと考えると、直ぐ様王宮を離れることにしたのだ。

 宰相に相談し、父から了承を得た後でそのままガトゥーラ侯爵領の別邸へ向かった。


 それから3週間後、私は一度王宮へ戻る様に言われ、私とマティレクスが父に呼ばれ告げられた言葉は、信じられない内容だった。

 第一王子を廃嫡するにあたって、王太子の椅子が私に回ってきたのだ。


「私には無理です。マティレクスがいるじゃないですか」


 私は、リュシエルと出会った当時、そう、婚約者候補を決める茶会の後『リュシーとの約束』を守るために臣籍降下することを父と母に話していた。そして了承も得ていた。


 なのに父は顔を歪ませた。


「貴族たちの前で、第二王子を飛び越し第三王子を掲げろと言うのか」


「私は言いましたよね。婚約者がバインダル公爵令嬢になったときに、今更覆せないと陛下に言われ、覆せない代わりにひとつだけ望みを聞いて下さると言われたときに」


「はぁ」


「何の為に不出来を何年も演じていたとお思いですか?この為だけに私は鳴りを潜めていたのです。あぁ、しかし覆す方法は一つだけありますね」


「······そ、それは無理だ」


「でしょう?ならば仕方がないでしょう。まぁ、私もそれは望んでいませんから」

「理由なんかどうとでもなるでしょう。出来損ないってことでいいんじゃないですかね。ほとんどの貴族たちは、私のことをかなりの不出来王子と認識していますよ」


 覆す一つの方法とは、リュシエルを王太子妃にすることだった。

 第一王子の婚約者のローズフィレット殿下の国ファームス国は大国で、この婚約の成り立ちには、和平を望んだ我が国が王女を次期王妃として迎えることで成立したのだ。

 なので、リュシエルを王太子妃にすることは出来ないのである。


「では、私が王太子ですね。父上、貴族たちに通達する際は私も同席しますね。心配しなくても大丈夫ですよ、私が説き伏せますから」

「あぁ、それと。留学の件、宜しくお願いしますね。では、私はこれで······」


 マティレクスが父と私を見据えた後、サラリと発言して去っていった。

 まだ12歳の弟は、国外に出て世界を学びたいということで、この後2年間の留学を予定していて3か国をまわることになっていた。


 後になって分かったことだが、マティレクスはリュシエルのスイーツの虜になっていたらしい。


 それは、マティレクスが回廊を歩いているときに宰相が可愛らしい箱を持って前からやってきたときのこと。マティレクスがその箱は?と聞くと、娘の作ったスイーツだった。宰相から娘の将来の夢を聞いたマティレクスは、それから毎回のように宰相の休憩時間には厨房へ行き、シェフと3人でスイーツを食していたと言う。


 宰相は、シェフにスイーツの意見を聞きに。マティレクスは、段々精度が上がってくるスイーツが楽しみで、だそうだ。


「彼女の作るスイーツの中で、ダントツの一位はパンプキンプリンのケーキですね。次にスイートポテトパイでしょうか。平民に親しまれるのは、多分マメパンかキャロットパンだと思います。彼女の作るスイーツやパンは、この国にはない変わったもので、シェフも絶賛するものばかりで素晴らしいです」


「僕の癒しの、そんな彼女のスイーツが食べられなくなるなんてあり得ないのです。なので兄上にはこれからの彼女のスイーツ作りの裏方⋯⋯土台をしっかりキープしていただかないと」


······はぁ?

······私は、一度も口にしたことが無いのに

······何年もの間、弟は食していただと?


 何はともあれ、マティレクスが王位継承する方向になったので、それからは宰相と今後の予定を組んだ。


 私とリュシエルが最高学年になったことから、事を急いだ。初めての夜会、後夜祭での婚約発表から始まり、卒業と同時に新公爵としての御披露目、婚姻、最後に店の開業の予定だ。


 そして、リュシエルの店を支えるカリュザイール公爵領には農業と酪農などが盛んな地域を選び、王領から譲り受けることとなっている。


「······鉱山とかじゃなくて?なぜ農地を求める?」


「主として小麦、牛乳、砂糖、でしょう。ガトゥーラ侯爵領と隣接している場所が好ましいです」


 父は口を開いたまま、訳が分からないと首を左右に振るが「善処する」と了承した。


 そして、私の最低限の条件は満たされた。


 やっと君との約束を叶える準備が整った。



「リュシエル、君と出会ったあの日、君が私の前から去った後で私は幸せのクローバーを見つけたんだ」

「幸せになれるのは、頑張ったご褒美だったよね。······どうだろうか、僕は褒美をもらえるだろうか?」




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