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16話

お読み下さりありがとうございます



 これから1週間お世話になる、ラファイエ様が用意して下さったベルトア伯爵邸の別邸に着くと、門の前でベルトア伯爵らが出迎えてくれた。


 リンドオーラの街を出るときに、先にベルトア伯爵邸の別邸に向かってくれたカリュザイール公爵邸の使用人らが扉の前に並んでいる。

 何事もなく、お互い無事に到着できたことを喜んだ。


 そのあと、邸に入ると侍女頭のミネルバさんがルキを叱りだした。


「イルキス様、あれほど言ったではありませんか!公爵の婚約者であらせられるリュシエル様が、素っぴんで他家に御挨拶することがないようにって···リュシエル様が可哀想過ぎます。これから夫となろう貴方がもっとしっかり―――」


「母上、今はそのくらいで許してやってくれ」


 セクレイト様が母上と呼ぶミネルバさんは、ルキの乳母だった方だ。

 ルキが公爵になるにあたり、侍女頭として王宮から離れカリュザイール公爵邸に来てくれたのだ。


 ちなみに、ミネルバさんは「美の巨匠」セクレイト様は「美の女神」。

 王宮騎士団にいる二人のお兄様も通り名が付くほどの美男子だと聞いている。


「はぁー、まったく。本日の夕食は、ベルトア伯爵当主様の本邸にお誘いいただいておりますので、時間がありません。リュシエル様は今すぐご準備を始めますわよ」


 ミネルバさんが予定を言うと同時に、侍女たちに手を引かれた。湯浴みをしながらのメチャクチャ痛いマッサージ。髪を結われながらのお化粧と···短時間で完璧に仕上げられた。


「リュシー·····とても美しい。·····ん?しかし、そんなにデコルテが見えるドレスでは寒いだろう。首まで隠れるドレスにしよう」


「ミネルバ!リュシーのドレスの交換を。胸の谷間を強調しすぎだ。肌が出すぎてる。好奇な目で見られるだろう」


·····貴方の容姿が神すぎて

·····隣にいる私は、霞んで見えませんが?

·····自分の輝きを抑える服に着替えてこいや



「ルキ、寒くないから。それと、肌も出すぎてないし、普通です。·····言っておきますが、私の全てのドレスを、全てデザインして、全て作らせたのはルキですよ」


「·····次からは、肌を見せないドレスをデザインするとしよう。私も、次からは控え目な装いを心がけるから――」


「はいはい。時間がないので行きますよ」





 次の日は、朝早くからの来客があった。


 昨日の夕方、ファイニール辺境のベルトア伯爵の別邸に着いたばかりの私たちは、長旅の疲れを取るために、今日は一日まったり、ゆっくり過ごすことにしていた。のはずが――。


「そうしたら、レンは·····」


「レンが、言うには·····」


「だって、レンが·····」



「···へー。···ふーん。···で?」


 

 これって恋話···だよね?ファウルドは何しに来たんだ?

 「レン」のオンパレードに頭を悩ませることになった。今頃、レンはくしゃみが止まらないだろう。



 隣で起きたばかりのルキが、着替えもせずに応接間までやってきた。かなりお怒りのようだ。


 私を椅子から立たせると、ソファーにドサリと座って、彼の膝の上に乗せられた。


「おい、坊主。こんな朝から何しに来たんだ」


·····ぼ、坊主?

·····坊主はヤバいでしょ



「リュシエル様に、ご挨拶をさせていただいたところです」


「そうか、用が済んだなら、お帰りはあちらだ」


 私付きの侍女らが、お茶を差し出しているそばから、ルキは「帰るから、お茶は出さなくていい」などと、侍女たちはオロオロだ。


「淹れたお茶を出してちょうだい」


 侍女に助け船を出した私を、ルキはジロリと睨んだ。


·····いくら何でも「帰れ」はないよ

·····暴言をラファイエ様に言わないでー

·····坊主が本職なら拝みたい


「俺は·····悪くない」


 そんなルキの膝から降り、ルキが視界に入らないように隣の椅子に座りお茶を飲む。


「ファウルドは、今日は朝早くに来られましたが―――」


「城都に行こう」


「はっ?」


「約束しただろう?だから、早く来たんだ。リュシーも、早く用意して!連れて行きたい場所がたくさんあるからさ」



 そうして、私は城都見物に駆り出され、今はカフェにてチーズケーキを食べている。


「凄く濃厚で甘さも控え目。とても美味しい」


「でしょう!リュシーが来るまでに、あちこちのスイーツを味見したんだ」


「·····ルキも食べればいいのに」


 隣で、脚を組んでこちらを見ない。不愉快極まりないといったところだろう。完全に拗ねている彼は、不機嫌そうにコーヒーを飲みながら、全く会話に入ってこない。


「そうだ。今回、リュシーたちはもっと早くに領地に着くはずだったのに、どうして遅かったの?道中、何かあった?」


「ええと、出発してからすぐ予定を変更したの。私の我が儘なの。リンドオーラという街に行きたくてね」


 少し遠回りをしてしまったが、素敵な出会いもあったし、特産品の豆もたくさん買うことができて有意義だったと話した。


「豆?」


「そうよ。豆をつかった菓子を作りたかったのだけど、王都では保存食の豆が売ってなかったの。だから、豆を探しにね!」


 豆を使った菓子の話をすると、ファウルドはファイニールの特産品の芋でも菓子が出来ないかと聞いてきた。


「芋?ファイニールの特産品なの?」


「うん。冬は野菜が収穫できないから、保存食の芋をみんな食べるんだよ」


 なるほど、リンドオーラも寒かったから保存食にできる豆を冬に備えて作っていたのか。

 王都の冬は、そんなに寒くないから保存食がなかったのね。


「その芋がどんな芋だか分からないから、あとで見てみたいわね」


「じゃあ、今すぐ見に行こう!」


 席を立つと、ルキは無言でスタスタと会計を済ませてきて「ありがとう」といっても、私に視線を合わせず未だ無言だ。


「ルキ?言いたいことがあるなら言ってよ。何も言わないとか、返事もしないとか、すごく嫌なんですけど···」


 店を出ると、無言で私の腕をとるルキ。そして、無言で自分の腕に私の腕を絡めた。


「はぁー。·····話したくないくらい怒っているなら、来なければよかったじゃない」


 そして、私はルキの腕から自分の腕を外してルキに言った。


「一緒にいたくない」






·····喧嘩したくないのに

·····私ってば、最悪だ



「ファウルド」


 先に歩くファウルドを呼び止める。振り返った彼は眉を下げた。


「リュシー、ごめん。無理やり城都に連れ出して。イルキス様と喧嘩させたのは僕のせいだね。芋は、また今度にしよう」


「私の方こそ、ごめんなさいね。ルキってば、どうしちゃったのかしら。よかったら、芋はベルトア伯爵の別邸に送ってもらえるかしら?」


「うん。分かった。明日、届けさせるよ」


 そう約束して、ファウルドとはその場で別れた。


·····ふぅ。私も帰ろう



 といっても、ルキの手を離した手前、彼と一緒は気まずいので、後ろを振り返らずそのまま道をまっすぐ歩く。そして、辻馬車に乗った。


「ベルトア伯爵邸までお願いします」


 護衛の三人も慌てて駆け寄ってきたが、馬車は先に動き出した。


「お嬢さん、後ろから騎士の人が走って追いかけてきていますが、何かやらかしたのなら停めますよ」


 業者は、馬車を走らせながらジロリと後方を見た。


「うちの騎士たちだから大丈夫です。体を動かすのに丁度いい距離でしょうから―――」


「···そ、そうですか」



 ベルトア伯爵邸は城都内にあり、馬車に乗って15分くらいで到着した。


 一人で帰ってきたのを見るなり、侍女らが騒ぎだす。ルキたちは後から帰ってくるからと伝えて、寝室へ入った。


 扉に鍵をかけ、着替えてからベットに横になるとすぐさま扉を開けようとする音がした。


「ドン、ドン」

 続いて扉を叩く音がする。


「リュシエル様、扉を開けて下さいませ」


 侍女が扉の前で言わされたのだろう。彼女らには申し訳ないが無視である。


 少しすると、静かになり諦めたようだった。


 そのまま瞳を閉じると、疲れた体は直ぐ様深い眠りへと導いた。





 瞼を開けば、夕方になっていたのだろうか?昼食も食べずに長々と寝てしまったようだ。


 ゆっくりと体を起こすと、ベットの端に座り俯いているルキの後ろ姿があった。


 合鍵で扉を開けたのだろう。なんともいえず、ベットから降りた私は彼を素通りして私室に向かう。

 

 扉に手をかけたところで、私の手の上に彼の手が添えられた。


 私が、後ろを振り返るとルキの瞳と目が合ったが、瞳を扉に戻し添えられた手はそのままで扉を開けた。


 扉から出ようと足を踏み出すと、添えられていた手が離れたが、その手は私のお腹に置かれ私の体を手繰り寄せた。


「リュシー」


 とても小さな声でささやかれた。聞こえたけれど、返事は返さなかった。


 しばらく無言で、扉の前で二人で立ちつくしたが、今はまだルキとは顔を合わせたくなくて

「離してください」というと、私を手繰り寄せた手の力が緩む。


 私はそれを振りほどき、私室へと歩き出した。




喧嘩話が長くなってしまったので、

次話に続きます。

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