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2-3.監察開始 (3)

 監察対象:水無瀬遼、三十三歳。

 此花電機株式会社営業部一課の主任で、営業成績は常にトップを誇っている。容姿の整った所謂イケメンで、性格も明るく気遣いができ、社内でも老若男女に受けがいい。

 同期内では出世頭で、主任になったのも最年少の二十代だった。そして今、水面下で営業部一課長補佐への昇進が上層部内で打診されている。三十代前半でこの役職に就くことは異例らしい。

 それとは別に、此花電機専務取締役の娘との縁談も進んでいる。この話がまとまれば、彼は更に上へ上り詰めることも容易となる。

 しかし、どこからどう見ても完璧な水無瀬が監察対象となったのは何故なのか。


『うわー、こいつ、人生順風満帆! 典型的な勝ち組ー!』

『ちょっと、結翔君。その言い方、なんか僻みっぽい!』

『僻んでないけど、嫌味の一つや二つ言いたくなるじゃん。でも、そんな完璧な人間なんてそうそういないって! ね、惇さん!』


 同意を求めてくる結翔に、金桝は少々面白くなさそうに頷いた。


『まぁね。彼は出世頭で将来有望、おまけにイケメンで優しい。ってことは、女性にモテる。ものすごくモテる。どーーーしようもなくモテる。でも、それが彼の弱点でもあるっ! くぅ~~っ、腹立つっ』

『惇さん、惇さん、落ち着いて! 惇さんもイケメンじゃん! モテないけど』

『うるさいな、結翔君!』


 結翔曰く、金桝も非の打ちどころのない美形だが、その割にモテないらしい。最初は金桝の上辺だけを見て寄ってきても、中身を知るやいなや潮が引くようにいなくなってしまうのだという。少し怖い。

 それは置いておいて、金桝の言うように、水無瀬の近くには常に女性がいる。専務の娘との縁談の前には、社内の女性とも何人か関係があったらしい。もちろん、今はきちんと清算しているとの話だが。

 ただ、水無瀬は学生の頃も複数人と同時に付き合っていたこともあり、はっきり言ってしまえば「女好き」もしくは「女癖が悪い」。なので、現在本当に清廉潔白な身であるかどうかを調査してほしいとのことだった。

 仕事については会社側で把握はできているが、そちらの方も問題がないか調べることになっている。昇進した後で不正などが発覚すれば、上層部や人事部の沽券に関わる。


『要は、素行調査って感じですか?』

『そうそう。だから、社内はもちろん、その後も』

『えええええっ!? それって、探偵とかにお願いした方がよくないですか?』


 その後もということは、仕事が終わった後も調査を続行しなくてはいけないということだ。水無瀬を尾行して全ての行動を把握しなくてはいけないなど、全く想像していなかった。


『あー、それは大丈夫。仕事後の調査は俺がやるから』

『結翔君……』

『どっちかというと、俺はそっちメイン。だから、菜花には社内で目を光らせておいてほしいんだよね』


 社内だけでいいと聞いて菜花はホッとするが、それにしてもなかなかハードな仕事だ。面倒事を嫌がる結翔が、こういった仕事を続けていることに驚いてしまう。


『探偵に別に依頼するよりも、うちに全部頼んだ方が会社も費用を抑えられるし、あちこちに情報渡さなくて済むしで都合がいいんだよ』


 金桝の言葉に、そんなものかと納得する。

 それはそうとして、一社員の素行調査に随分な念の入れようだ。だが、それにも理由はあった。


『専務さん、社内でもかなり力のある人でさ、時期社長の呼び声も高いんだって。そんな人の娘さんと結婚でしょ? それに、専務さんは娘にべた惚れで甘々なんだってさ。大事な娘の相手が浮気男じゃ、目も当てられないからね。絶対にそんなことがあってはならないって、ものすごく慎重になってるらしい』

『ちょうど昇進の話も持ち上がったことだし、社内監察代行の話をどっかから聞きつけて、うちに依頼してきたらしいよ。会社の金でついでに娘婿の素行調査なんて、せこいよね』


 結翔の言葉は身も蓋もないが、菜花も同意してしまう。だが、これくらいでないと上には行けないのかもしれない。

 というわけで、菜花と結翔は本日付けで、S.P.Yours株式会社からの派遣社員として、此花電機へ潜入したのだった。

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