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2.監察開始

「本日からお世話になります、杉原菜花です。月、水、金の週三日勤務ですが、少しでも皆さんのお役に立てるよう、頑張ります。よろしくお願いします」


 そう言って頭を下げると、部署内に拍手が起こった。

 今日は派遣初日。菜花は監察依頼のあった「此花このはな電機株式会社」のオフィスに来ている。菜花に拍手を送っているのは、経理部の社員たちだ。


『結翔君は監察対象が所属する、営業部一課に配属ね。菜花君は経理部だよ』


 金桝からそう言われた時は、頭の中が真っ白になった。てっきり前回のように同じ部署に配属されるものと思っていたので、まさか結翔と部署が離れるとは思ってもみなかったのだ。


『結翔君と一緒じゃないんですか?』

『営業部には庶務担当の女性もいるし、派遣は必要ないらしいんだ。それに、中に入ったらなかなか苦労しそうな感じもあったし、ここは避けておいた方が無難かなと思って』

『苦労?』

『まぁそれは入ってからわかるんじゃないかな。ここもオフィスビルのワンフロアぶち抜きで使ってるから、部署は違っても同じフロア内に結翔君はいるわけだし、大丈夫でしょ』

『はぁ……』

『俺は営業として潜り込むから、あんまりオフィス内にいないと思うけどね』

『えええええーーーっ!』


 入社を迎える今日まで不安な気持ちは拭えなかったが、やると決めたからにはやるしかない。それに、金桝が菜花を経理部に配属したことにもちゃんと理由があるのだ。


「杉原さんには主に書類の整理をお願いするので、書庫で仕事をしてもらうことになります。他の仕事をお願いするのは構わないけど、あの大量の書類をお願いすることもあるし、あまり無理はさせないように。社内のあれこれは……そうだな、高橋さんにお願いしようかな。高橋さん、杉原さんにいろいろ教えてあげてもらえるかな?」


 菜花の直属の上司となる、経理部長補佐の横山が、すぐ近くにいたおとなしそうな女性に声をかけた。

 彼女はわかりましたと頷き、菜花に軽く会釈してくる。それを受け、菜花も慌ててお辞儀した。


「それじゃ、皆仕事に戻って。杉原さん、書庫はこっち」

「はい」


 菜花は経理部長の小金沢に頭を下げ、横山の後を追う。


 経理部のトップはいわずもがな、部長である小金沢である。しかし彼は、大きな案件や新規案件で手がいっぱいということもあり、月々に発生する定期的な経理案件は横山に任せていた。最終決裁も彼に委ねているという話だ。つまり、臨時案件に携わっていない経理部の人間にとっては、横山が部長のようなものである。

 それだけ横山が信頼に足るということなのだろうが、自分のあずかり知らないところで何かあったらどうするのだろうと、菜花などはつい心配してしまう。


「IDカードをここにかざして……」


 横山が扉の横にあるカードリーダーに自分のIDカードをかざすと、ピッと音が鳴ってロックが解除された。


「ちょっと狭くて申し訳ないんだけど、中にデスクを用意したから、いちいち外に出なくてもここで作業できるよ。でも、ずっとここだと息も詰まるだろうし、社内には休憩スペースもあるからいつでも利用して。紙資料が汚れると困るから、飲み物をここへ持ち込む時は、コップじゃなくてペットボトルか蓋のついたタンブラーなんかにしてもらえるかな」

「はい」

「で、杉原さんにお願いしたい書類の整理は……」


 ラックがずらりと並ぶ書庫を案内しながら、横山は書類整理のやり方を菜花に伝えていく。菜花はメモを取りながらそれを聞き、頭に入れていく。

 最近では諸々が電子化されているが、それ以前は紙で処理されている。保管義務のある書類も多く、それらが雑多に段ボールに詰められ、棚に乗せられた状態だという。それを整頓し、ファイリングした後、リスト化するというのが菜花に与えられた仕事だった。

 経理知識の欠片もないのに、経理部に配属など大丈夫かと思っていたのだが、これなら何とかなりそうだ。

 説明を終えた横山が、何かあったら声をかけてねと、優しい笑みを残して書庫を出て行く。

 上司が優しそうな人でよかったと心から安堵し、菜花は早速仕事に取り掛かろうと、一番奥にある古い書類の棚へと向かった。


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