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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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14.エピローグ

「菜花―っ!」


 友人たちの声に振り返る。

 それぞれに講義を終えた彼女たちが、菜花に向かって手を振っていた。菜花もそれに応えながら、彼女たちが近づいてくるのを待つ。


「お疲れー」

「ほんと疲れたぁ! 佐伯教授の授業、めちゃくちゃハードなんだもん。失敗したぁ」

「イケメンだからって飛びついたのが運の尽きだね」

「ひどーいっ!」


 皆と一緒に菜花も笑う。すると、その中の一人が菜花の腕をちょんちょんとつついてきた。


「菜花、セカンドチャンスで受けた会社、蹴ったんだって?」


 彼女の言葉に、菜花は苦笑しながら頷く。

 そうなのだ。

 欠員が出たことにより再度採用を始めた会社から連絡がきて、菜花は面接を受けに行った。菜花のような人間は大勢いたので、今度も無理だろうと思っていた。しかし、何故か採用通知が届いたのだ。

 その通知を見た時は、不思議な気持ちになった。あれほど欲しかった採用通知。それを目の当たりにしているというのに、全く嬉しくない。だがその理由を、菜花はすでに理解していた。


「アルバイトしている会社での仕事にやりがいを感じてるんだ。だから、そこで正社員になれるよう、頑張ってみようと思って」

「えーっ、アルバイトでしょ? 正社員なんかにしてもらえないって」

「難しいと思うよ?」

「どんな仕事してるんだっけ?」


 皆はいろいろ言ってくるけれど、気持ちはもう固まっている。何と言われても揺るがない。


「難しいかもしれないけど、頑張ってみたいんだ。仮に、採用もらったところに勤めたとしても、後悔して続かないような気がするから」


 いつもの菜花なら、ここで不安そうな顔になる。

 しかし、いやにすっきりしている菜花の顔を見て、皆はしょうがないという風に笑った。納得してくれたようだ。


「ほんとにもう。いつもフラフラしてるけど、菜花はこうと決めたら意外と頑固だもんね」

「そうそう」

「まぁ、頑張りな」


 渋々ながらも応援してくれる友人たちに、菜花は満面の笑みを見せる。

 自分は皆のように、はっきりとした進路は決まっていない。だが、道は見えている。だから、引け目に感じたり、仲間外れのように疎外感を感じたりすることはもうない。


「ありがとう、頑張る!」


 菜花の言葉に、皆が明るく笑った。


 *


「惇さん、お話があります。聞いていただけますか?」


 大学の授業が終わった後、菜花はその足でS.P.Y.の事務所に向かった。そしてすぐさま、金桝の前に立つ。金桝は驚いたように、目をパチパチとさせていた。


「え? なに? なんか怖い」

「お時間ありますか?」

「あるけど……」


 菜花の迫力に、金桝がビクビクしている。そんな金桝を見て、菜花は初めてここへ来た日のことを思い出した。


 ゆらゆらと視界が揺れている。

 大通りにはたくさんの車が先を急ぐように走っていた。時折大きなクラクションが鳴る。

 ぐらりと身体が傾き、倒れる、と思った。その直前、人の顔らしきものがぼんやりと目に映る。

 その顔は、恐ろしく整っていた。目、鼻、口、どのパーツもこれ以上なく美しい形をし、それが計ったかのように配置されてる。

 一瞬だというのに、その美しさに見惚れてしまった。しかし、ハッとする。

 このままだと衝突する!

 危ない、と叫ぼうとした。倒れる間際、他の人のことなど構っている余裕はない。それでも、他人様を巻き添えになどできない。申し訳なさすぎる。


「避けて……」


 だが、その言葉は声にはならなかった。

 そして、意識はブラックアウトする。


 軽い熱中症に倒れてしまった菜花は、金桝によって事務所内へ運ばれた。

 気が付くとソファに寝かされていて、とんでもない美青年が菜花の顔を見つめていたことに死ぬほど驚き、大声で叫び……たかったが、肝心の声が出ずにそのまま力尽きた。

 オロオロする金桝を結翔が落ち着かせ、美沙央が菜花を介抱してくれた。

 あれは、今思い出しても笑ってしまう。

 その後、今いる場所がアルバイト先であるS.P.Y.株式会社であり、菜花を助けたのは、ここで社長を務める金桝惇であること、仕事内容は派遣業だが、かなり特殊であることなどが説明された。

 最初は、絶対に無理だと思った。菜花には務まらないと。

 しかし、金桝はどうしてだか菜花を熱心に説得し始め、それにつられるように結翔もフォローに回る。

 二人の話を聞き、そして美沙央の「この二人に任せておけば間違いはないから」という言葉に後押しされ、菜花はここで働くことを決めた。面接に来たというのに、これでは立場が逆だ。

 家に帰って落ち着いた後、思い出して笑いが止まらなくなった。

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