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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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13-6.隠れた真相 (6)

 それから二日後、金桝が今回の仕事を労うという形で、打ち上げが行われた。こちらはさすがに料亭とはいかず、居酒屋の完全個室である。

 いつも夕方には上がってしまう美沙央も参加し、菜花の隣に陣取ってあれこれ世話を焼いていた。美沙央は一人っ子で妹が欲しかったらしく、菜花を年の離れた妹として見ているようだ。


「えー! 菜花ちゃん、あの料亭に行ったの? すごい!」

「一生に一度のいい経験になりました」

「送別会に懐石料理だなんて、豪勢ねぇ。その高橋さんって人も、菜花ちゃんのことが好きだったのね」


 あの夜のことを皆に話すと、目をむいて驚かれた。それはそうだ。菜花本人でさえびっくりなのだから。

 あの日、再び駅に戻って仁奈と別れた後、結翔に連絡した。結翔は心配でやきもきしながら待っていたらしく、菜花が電話をかけた途端に「遅い!」と叫んだ。ちょっと話をして終わると思っていたので、せいぜい一時間もすれば連絡があるだろうと思っていたらしい。それが、よもやの送別会。


「それにしても、菜花君には驚かされるね。まさか、高橋仁奈と直接話をするとは思わなかった」


 若干不機嫌なのは、金桝だ。後から聞かされたものだから拗ねているのだ。そんな金桝を、結翔がまぁまぁと宥めている。


「俺だって驚いたよ。でも、事前に惇さんに話したら、絶対反対するでしょ?」

「当たり前でしょ! 何かあったらどうするんだよ!」

「何かって、なんですか?」


 菜花に問われ、金桝がうーんと考え込む。


「例えば……秘密を知ったからには帰せないとか言って、監禁されるとか」

「ないないない」


 結翔と美沙央に速攻で否定され、金桝はいじけてブツブツと文句を言い始める。


「だから、例えばって言ってるじゃん。何があるかわからないじゃないか。そりゃさ、結翔君は事前に相談されてたからそんなこと言えるけど、僕はさ、どうせさ……」

「あああああ、もう! わかった、わかったってば! 菜花、面倒くさいから、これからは惇さんにも相談な!」

「え、あ、うん」


 これから。

 その言葉を聞いて、菜花の心がふわりと温かくなる。

 アルバイトとして働き始めたが、いつの間にか、ここでの仕事にやりがいを感じるようになっていた。

 決して楽しい仕事ではない。監察という仕事は、隠された悪事を暴くことだ。そこには少なからず、人間の悪意というものが存在する。それに触れることは、時に自らを傷つけることにも繋がる。

 だが、深い。人という不可思議な生き物の本質が炙り出されるこの仕事に、菜花はもっと深く関わってみたいと思っていた。


 先ほど、金桝から横山と水無瀬の聴取の結果が共有された。知らなかった事実が明らかとなり、驚いたリ納得したりを繰り返す。

 その後、菜花も仁奈との話を皆に打ち明けたのだが、一番驚かれたのは、仁奈に一卵性の双子の妹がいたことだ。


 菜花としては、横山はともかく、水無瀬が自滅したという結果に、よかったと納得していた。

 水無瀬は最初から最後まで自分の欲望を優先し、他人を傷つけた。仁奈と恋人の間を引き裂くようなことをしたり、専務の娘と婚約したにもかかわらずユリに執着したり。挙句、都合の悪い写真を撮られて脅された。自業自得だ。

 仁奈と妹は、復讐のために水無瀬に近付いたが、少々高価なものを買わせたくらいで他に大したことはしていない。それでも、結果的には彼女たちの望む形になった。


 あと、金桝の話で一つ疑問に思ったことがあった。それは、横山と水無瀬の金の配分だ。

 それについては、本当のところはわからないと前置きしながらも、金桝はこう語った。


「横山さんには借金があった。だから多めに渡したと、聴取では言っていたそうだよ。でもまぁ、そんなことはないだろうね。これは多少突飛な話だけど、専務の娘さんと結婚した後、横領の穴埋めをして証拠を消した上で、横山だけに横領の罪を被せるつもりだったとか。なんにせよ、なにかしら考えていたと思う。そうでないと、あの配分は不公平だからね。水無瀬がそれで納得していたとは思えない」


 水無瀬の顔を思い出し、菜花は頭を振る。

 人は見かけによらない。あれほどの容姿を持ち、人当たりもよくて仕事もでき、手に入らないものなど何もないと思われた。犯罪などとは無縁でいられたはずなのに。

 だが、実際の水無瀬は、何も満たされていなかったのかもしれない。本当に欲しいものは手に入らず、しかもそれが何なのかわからず。

 表に見えているものだけでは、わからないことだらけだ。

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