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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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13-5.隠れた真相 (5)

「疑惑は晴れたかしら? 他に聞きたいことは?」


 一番聞きたかったのは、水無瀬との関係だった。そこがクリアになれば、他は思いつかない。

 横山が会社の金に手をつけた理由は、借金の返済だった。水無瀬は、専務の娘を手に入れるため。


「水無瀬さんとは、別れるんですか?」


 その答えは、微笑みで返された。

 おそらく、別れるのだろう。付き合う理由はもうない。

 水無瀬は自分で身を持ち崩したのだ。直接手を下したわけではないが、復讐は完了した。


「最後に一つ」

「なにかしら?」


 どうして──


「どうして、ここまで正直に話してくれたんですか?」


 それを問うと、仁奈は呆気に取られたような顔になり、声をあげて笑い出した。


「あはははは! 今更? 話を聞きたがったのは、あなたでしょう?」

「ですが! 高橋さんは拒否することもできたし、無視することもできました!」


 仁奈は笑いを収め、菜花をじっと見つめる。その強い視線に目を逸らしそうになったが、それは逃げのような気がして、菜花はその視線をしっかと受け止める。


「そうね。……どうしてかしら。拒否も無視も、しようとは思わなかった。あなたになら、話してもいいと思ったのかもしれないわね。ううん、妹以外の誰かに、話を聞いてもらいたかったんだわ」

「高橋さん……」

「話したところで、後ろ暗いところなんてない。私がキャバ嬢をやっていたからといって、規則違反でもないし。失恋から立ち直るために、気晴らしでキャバ嬢を始めた。そこで偶然水無瀬と出会い、ちょっとした復讐をしてやろうと考えた。それだけよ」

「はい……」


 仁奈の言うとおりだった。


「さ、辛気臭い話はこれで終わり! 杉原さんが本当に派遣社員なのかはわからないけれど、まさか未成年ってことはないでしょう?」

「え? はい! 成人してます!」

「なら、飲みましょう」


 そう言って、仁奈はワイングラスを手に取った。中に入っているのは、透明の液体。これは日本酒だろう。


「杉原さんの前途を祝して、乾杯」

「か、乾杯」


 ワイングラスで飲む日本酒など、初めてだ。

 液体を喉に少しずつ流し込んでいく。香る匂いはなんとも言えず豊かで、コクがありつつも口当たりはすっきりとしていた。ワイングラスで飲む意味がよくわかる。


「美味しい……」

「ふふ、気に入ってもらえてよかったわ」

「これ、何ていうお酒なんですか?」

獺祭だっさい

「獺祭ですね。覚えました!」

「また飲めるといいわね」

「はい!」


 そこから先は、仕事とは関係のない話。

 会社の中とは違い、仁奈の表情はコロコロとよく変わり、よく笑う。まるで別人のような仁奈は、とても魅力的だった。

 いつかまた、幸せな恋をしてほしい。それを願わずにはいられない。

 来た時の緊張感など忘れたように、菜花は仁奈との時間を思う存分楽しんだのだった。

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