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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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13-2.隠れた真相 (2)

「それでは、どうぞごゆっくり」

「ありがとう」


 立派な個室に到着し、仁奈はそこでやっと手を離してくれた。

 いつでも逃げ出せるようになったが、どこをどうやって来たのか全く覚えていない。これでは、とても逃げ出しようがなかった。


「どうしたの? 座って?」


 仁奈はすでに腰を下ろしていた。向かいの席を勧められ、菜花は意を決してそこに座る。

 ゆっくりと辺りを見回し、ハァと大きく息を吐き出した。


「緊張してる?」


 仁奈がクスクスと笑っている。菜花はコクリと頷き、また息を吐いた。


「緊張しますよ。こんなところ、一生に一度だって来ることはないはずでしたし。こうして座っているだけで、どれだけお金がかかるのかと思うと……」


 金の話など野暮なこととはわかっているが、口に出さずにいられない。

 正直ね、と仁奈はまた笑い、菜花に安心するよう言った。


「杉原さんはただ楽しめばいいだけ。お金のことは心配しなくて大丈夫」

「でも……」

「杉原さんの送別なんだから、杉原さんに払わせるわけないでしょう?」


 菜花に一銭でも払わせるつもりなら、こんなところへは来ないだろう。

 菜花もようやく覚悟を決め、ありがとうございますと礼を言った。


「それにしても……すごいです。ここって、なんだか政府の偉い人とかが会合とかしそうなお店ですよね」

「そうね。そういうこともあるわよ」

「えっ!?」


 冗談のように言ったのに、肯定されてしまった。

 菜花の慌てように、仁奈がまた笑う。しかし次の瞬間には、彼女の纏う雰囲気がガラリと変わった。まるでこちらに挑んでくるかのような瞳で、菜花を見据えている。


「どうして私がこんな場所に出入りできるか、わかる?」

「……っ」


 目の前にいるのは、菜花の知る高橋仁奈だろうか。

 ほとんどノーメイクに近いナチュラルメイクに、長い髪を後ろに束ねただけの地味な髪型。服装といえば、オーソドックスな形、色のファストファッション。ごくごく地味で、平凡な女。

 しかし今、そんな女はここにはいない。

 姿形はそうでも、纏う雰囲気はまるで違う。そこらに埋もれる女のものではなかった。


「あ……のっ……」

「あら、今更驚くの? 杉原さんは、知っているんでしょう?」

「なっ、何を……」

「そんなに怖がらなくてもいいわ。別に、取って食おうってわけじゃないんだし」


 仁奈は、形のいい唇を緩やかに上げる。口紅の色は目立たない地味なものなのに、妖艶さを醸し出していた。

 ゾクリとする。同性にもかかわらず、誘惑されそうなほどの艶やかさだ。


「知っているんでしょう?」


 もう一度、仁奈が問う。

 菜花が黙りこくっていると、小さく肩を竦め、彼女は言った。


「私が、クラブ・アンジェのユリだってこと」


 菜花は大きく目を見開いた。

 やはりそうだったのだ。高橋仁奈は、ナンバーワンキャバ嬢のユリだった。本人の口から、今それが明かされたのだった。


 *


「失礼いたします」


 その声に、菜花はビクッと身体を震わせた。

 障子が開き、店員が入ってくる。テーブルの上に豪華な料理を並べ始めた。


「こちらのお料理は……」


 一つ一つ丁寧に説明してくれるのだが、そんな声など菜花の耳には入ってこない。


「相変わらず、とても美しいですね。それに美味しそう」

「ありがとうございます」


 すっかり萎縮してしまっている菜花とは違い、仁奈はリラックスムードで店員と楽しげに会話を交わしている。

 料理を出し終えれば、彼女たちは下がってしまう。できることならずっとここにいてもらいたいと思えど、そんなことは無理だとわかっている。菜花の心臓は、今にもはちきれそうだった。


「では、ごゆっくりお楽しみくださいませ」


 そう言って去っていく彼女たちの背に、置いていくなと叫びたいのを必死に堪えながら、菜花は再び仁奈と対峙する。

 思い出せ。自分が望んだのではないか。彼女を知りたい、と。

 菜花は真っ直ぐに仁奈を見つめる。それを受け、仁奈も菜花と視線を合わせる。


「高橋さん……いえ、あえてユリさんと呼ばせていただきます。ユリさんは、水無瀬さんと付き合っていたんですよね? 彼のことを、好きなんですか?」


 その言葉に、仁奈は初めて余裕を失ったように表情を歪めた。

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