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1-5.S.P.Y.株式会社 (5)

「で、早速次の依頼なんだけど」


 そう言って、金桝がファイルを結翔に手渡す。


「最近、休みなしだなぁ」

「まぁまぁ。この依頼が終わったら少し落ち着くと思うし、長めのお休みも取れると思うよ」

「はーい、わかりましたぁ」


 結翔は口を尖らせながらもファイルを開き、熟読し始める。すると、金桝は菜花に話しかけてきた。


「菜花君、今回も結翔君とコンビでお願いできるかな?」

「えっ」


 ディライト食品の案件が、菜花の初仕事だった。この仕事の契約期間は、大学の夏休みとちょうど重なるいうことで融通もきいたが、もうすぐ学校が始まる。そうなると、週五日きっちり働くことはできないのだが……。


「あの、もうすぐ学校が始まるので難しいと思うんです……」

「あ、そっか! 菜花君は大学生だったよね。じゃあ、前の案件の時のように毎日出勤できないか」

「そうなんです、すみません」


 そう答えながら、菜花は内心ドキドキしていた。

 アルバイトとして入社する際、ここでの仕事内容を聞いた時は吃驚仰天してしまい、自分に務まるのだろうかと不安になった。しかし、何事も経験だ、やってみようということになり、ディライト食品の案件に加わった。大学の夏休み期間いっぱいかかるとされ、それが無事に終わった。だから、これでアルバイト自体も終わりだと思っていたのだ。

 だが、金桝からはそのような空気を一切感じない。しかも、菜花がこの仕事を続けるつもりだと確信しているかのような顔だ。

 するとその時、結翔が顔を上げ、菜花を呼んだ。


「菜花」

「え?」


 結翔は、持っていたファイルを押し付けてくる。


「結翔君?」

「読んで。今回の仕事、一人はきつい。菜花も入って」

「え……」


 菜花は、結翔にも事情を説明してくれと金桝を見つめる。だが、金桝は優しい微笑みを浮かべながら背を向け、そして何を思ったか、いきなりパン、と勢いよく手を叩いた。


「よし! じゃあ、週三にしよう!」

「へ?」


 くるりと振り返った金桝は、それはそれは美しく艶やかな笑みでこう言った。


「派遣だから、そういう契約にもできるし! 週三ならいいよね? 入れるよね? 単位はもう足りてるって言ってたよね?」

「えっと……」

「い・い・よ・ねっ?」


 そう言いながら、これでもかと整った顔を近づけてくる。

 菜花は別にイケメンに弱いわけではない。だが、イケメンに迫られるとどうすればいいのかわからなくなる。いやいや、それはイケメンに限らずだ。ぐいぐいこられると弱い。簡単に折れてしまう。

 菜花は思い切り眉を下げ、結翔の方を見た。結翔はさりげなく横を向き、知らん顔をする。

 ……間違いない。強引に出れば菜花は折れる、そう金桝に入れ知恵したのは結翔だ。


「な・の・か・君!」

「ひっ!」


 菜花は仰け反る。

 どこまで近づいてくるつもりだ、この超絶イケメンは!

 どうしよう。受けるべきか、断るべきか。しかしこれはもう、受ける前提で話が進んでいるような……。

 迷いに迷い、あれこれと考え、菜花は結局こう答えた。


「わかり……ました」

「やったー!」

「よし、菜花! 急いでファイルの内容を頭に叩き込め!」


 金桝と結翔は嬉々としている。それを横目で見ながら、菜花はやれやれとファイルに目を落とす。しかし、心の中では密かにニヤついていた。


「実は、もうちょっとやってみたいかなって気持ちもあったんだよね……」


 二人には聞こえないように小さく呟き、菜花はファイルに集中していった。

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