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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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12-2.監察完了 (2)

 ちょうどその頃、金桝は此花電機の応接室にいた。

 向かいにいるのは、人事部長の大澤だ。スポーツで鍛えた筋肉質の身体、そして身長も高く、それだけで威圧感がある。彼が、金桝に水無瀬の監察を依頼してきた張本人である。

 すでに報告を終えているにもかかわらず、再びこの場に金桝がいるのには理由があった。


「先日、横山と水無瀬の両名に聴取を行いました」

「そうですか。それではぜひ、そのお話をお聞かせ願えますか」

「承知いたしました」


 監察報告を終えた時点で、本来は依頼完了である。

 だが、今回の件ではよくわからない部分が残っていた。直接二人と話ができればいいのだが、残念ながらそうはいかない。

 金桝は、理由のはっきりしない点を大澤に明かし、二人の聴取が終わった後で、それを教えてもらえないかと願い出ていた。

 水無瀬の女性関係だけでなく、横領のことまで突き止めたS.P.Y.の仕事に感謝していた大澤は、他の役員を説得し、金桝の要望を聞き入れてくれたのだ。 

 そして今日、この場に呼ばれたというわけだった。


 二人が行っていた横領の手口は、金桝たちが予想したとおりだった。

 水無瀬は、自分の担当する取引先五社の請求書と支払い依頼書を偽造し、経理部に回していた。そして、横山がシステムの数字を改ざんし、過剰請求されていた分を、架空の口座に振り込んでいた。

 水無瀬が偽造していた取引先の五社を特定したのは、結翔だ。菜花が支払いシステムを扱うようになった初日、すでに仁奈が登録していた請求一覧を写真に収めていたのが功を奏した。

 結翔が水無瀬の取引先全ての毎月の請求を洗い出したところ、システムの数字と差異のあった会社が五社見つかった。それぞれ十万円ずつで、計五十万円。これは、菜花が見つけた佐野電産という架空の会社の請求金額と同じだった。つまり、二人は毎月五十万円もの金を着服していたというわけだ。


 気になるのは、その金を二人がどうしていたのかということだった。

 まず金桝は、横山と水無瀬に横領の疑いが出始めてからすぐ、二人の背景について洗った。

 横山は、普段は真面目で几帳面な性格であり、羽目など外さないしっかり者なのだが、アルコールが入ると人が変わってしまうタイプだった。

 人の目をとにかく気にしていて、つい良い人を演じてしまう。それが会社だけならまだしも、家庭でもそうだったのだからストレスも溜まるだろう。その捌け口として、最初はアルコールに溺れ、次にギャンブルに溺れた。

 そうなると、毎月与えられる小遣いだけでは追いつかなくなった。家計は妻に任せているので、横山の自由になる金などたかが知れている。横山は、当然のように消費者金融に手を出した。

 最初は少額だったが、段々と増えていった。そうなると返済は滞り、更に別の消費者金融に金を借りて返すようになる。借金は膨らむばかりだった。

 横山は、横領した金を借金の返済に充てていたのだった。


 しかし、問題は水無瀬の方だった。

 金桝が水無瀬の背景をいくら調べても、横山のように借金をしているといったこともなく、綺麗なものだった。

 付き合っている女に貢いでいるのかと思いきや、そういった様子もない。水無瀬がユリに高価な品物を贈っているという事実は出てこなかった。いや、全くないわけではない。ただ、貢ぐというほどでもなかった。

 当初、金桝はあの高級マンションは、水無瀬がユリに買い与えたものだと思っていたのだが、そうではなかった。あのマンションは、キャバ嬢で稼げるようになってからすぐに、ユリ、つまりは、高橋仁奈自身が購入したものだったのだ。そして、支払いはすでに終えていた。


 そして驚くべきことは、横山と水無瀬の取り分は半々ではなかった。

 横山が三十五万、水無瀬は十五万。役職や年齢は横山の方が上だが、横領にそんなものは関係ないだろう。

 何故、水無瀬はこの取り分だったのか。

 この横領は、水無瀬が請求書を偽造できることで成り立っていたというのに。最終的に横山の承認は必要だが、横山は借金を抱えている分だけ立場は弱い。

 にもかかわらず、どうして? そして、水無瀬は毎月十五万の金を、どこで消費していたのか?

 水無瀬の生活は、華やかではあるが、収入以上のものではなかった。とすると、ただ溜め込んでいるだけなのだろうか。

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