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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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10-3.分岐点 (3)

 その後も絡み続ける片倉をなんとかいなし、結翔はS.P.Y.に向かう。

 車で行けばそれほど時間はかからないのでタクシーを使おうとしたが、乗り場には人がそこそこ並んでいた。結翔は車を諦め、電車で向かうことにする。

 ちょうどホームに滑り込んできた電車に乗り、車窓を眺めながら、結翔は片倉の話を思い出していた。


『そんな話があって、少し経ったくらいかなぁ……高橋さんの雰囲気がガラッと変わっちゃって』

『ガラッと?』

『いやもう、別人ってレベルだぜ、あれは。まぁ、元がいいから地味になってもそれなりに綺麗ではあるんだけどさ。いつも女の子らしく清楚で可愛いメイクにファッションって子が、ノーメイクに近い顔に、地味な服装、髪型になればさ……もう別人と言っていいだろ?』


 結翔は現在の仁奈しか知らないので、片倉の言う「女の子らしく清楚で可愛いメイクにファッション」という仁奈が全く想像できない。

 これが本当だとすると、彼女は身なりに気を遣えなくなるほど傷つき、まだその傷は癒えていないということになる。

 実際、水無瀬との仲は今もぎくしゃくしているし、何より仁奈は、他の社員と必要以上に関わろうとしない。元彼と同期の裏切り、絶望、そして水無瀬への恨みがそうさせているのだろうか。

 だが、ふと思う。


「高橋さんは、まだ水無瀬さんを恨んでるのか?」


 水無瀬は、仁奈と大林を引き裂こうと画策した。そしてそれを成功させた。そのせいで、仁奈はどん底に突き落とされてしまったのだから、恨んでいてもおかしくはない。

 しかし、仁奈の普段の仕事ぶりや周りからの評価を鑑みると、それもしっくりこないのだ。

 彼女は聡明である。それは疑いようがない。そんな彼女が、今も水無瀬を恨んでいるものだろうか。

 当時は冷静でなどいられなかったろうし、自分と大林が別れたのは水無瀬のせいだと信じただろう。だが、冷静になってから気付いたのではないだろうか。──大林の本質を。

 水無瀬や彼女の同期が少しちょっかいをかけたくらいで、彼はそちらへ靡いたのだ。大林は仁奈を本気で愛していたわけではない。そんな男と付き合っていても、遅かれ早かれ同じようなことは起こっただろう。

 他人から見れば簡単にわかるそんなことに、冷静になった仁奈がわからないはずはない、と思うのだが。


「恋愛が絡むと、普通が通用しないからな」


 普通なら、普段なら。

 それが全く通用しない。人は簡単に恋や愛に振り回され、思いもかけないことをやってしまうものだ。理屈など、無意味に等しい。

 高橋仁奈は、以前とはガラリと変わってしまった。そして、水無瀬も少なからず変わった。彼の女性関係も、それ以来鳴りを潜めたという。

 それまでは、仕事よりもそちらに比重が置かれていたようだが、以降は仕事に邁進するようになった。元々、それほど懸命にならずともトップを取れるほどの実力を持っていた彼だ。仕事に集中すれば、他と差が開くのは当然のことだった。

 営業部のカリスマともいえる今の水無瀬は、仁奈とのことがあってだ。二人にとって、あの出来事は分岐点だった。

 だからといって、今行っている監察に関係があるのかといえば、そういうわけでもない。

 水無瀬の女性関係、おまけに会社の金を横領している件は、ほぼ黒といえる。だが、仁奈がそれに関わっているとは思えない。システム入力のからくりを知っているなら、彼女はそれを上に相談するなり、告発するなり、何らかの行動を起こしているだろう。彼女が横領に加担するメリットはないのだから。

 だが、結翔はこの二人にとっての分岐点が気になって仕方なかった。

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