表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/67

1-4.S.P.Y.株式会社 (4)

「小山さんは残念だけど、解雇ということになるんじゃないかな。でも、会社側は訴えたり、警察に突き出したりはしないって言ってたよ」

「そうですか……」


 小山は、田川が原因で心に鬱憤を溜め、それを爆発させてしまった。パソコンやデータを破壊することは立派な犯罪行為だ。いくら田川に非があるとはいえ、庇うことはできない。そしてそれは、小山自身もわかっていたはずだ。


「こうなってしまう前に、誰かに相談できればよかったんでしょうね」

「まぁね。他の奴らは、仕事終わりに飲み屋で散々愚痴ってたけどさ。小山さんにもそういう仲間がいればね……でもあの人、人付き合いが苦手だったしなぁ」


 結翔は他のシステム課社員の中に入り込み、愚痴の聞き役になっていた。そこで、田川の悪行をこれでもかと聞かされ、いつか大きな問題が起こるのではないかと危惧していたらしい。小山の破壊行動は、その矢先の出来事だった。

 小山の起こした事件が決定的となり、田川の人事措置はすぐにとられたわけだが、もっと早くにどうにかできなかったのか。

 システム課の社員が一丸となって人事に訴えるなどしていれば、小山がああなってしまう前に田川を排除することができたのに。


「菜花君の考えもわかるけど、他の社員だって立ち位置はバラバラで、例えば人事に訴えようと誰かが言ったところで、全員が賛同するとは限らない」


 菜花の気持ちを読み取ったかのような金桝の言葉に、顔を俯ける。

 確かにそうだ。学生よりも会社の中の人間関係の方がずっと複雑で、皆が一丸となるなんて無理なのかもしれない。

 仕事上の人間関係は、好き嫌いで割り切れない。嫌いな人間とも上手くやっていかなくてはいけないし、忖度しなければならないことも多いだろう。

 そう考えると、あと半年もすれば学生でなくなってしまう自分に、一抹の不安と寂しさを感じてしまう。そして、社会人になる煩わしさも。


「菜花、社会人って面倒くさいって思ってるでしょ? そうでもないよ。学生も社会人も変わらない。人間関係なんて情やしがらみだらけで、どんな環境にいたって面倒くさい」

「……まぁ、それもわかるんだけど。でもさ、そんな風に思ってる結翔君が、実際には人付き合いがすごく上手なんて、なんかずるい」

「自分の見せ方を知ってるからね。腹の中で何考えてようが、ニコニコしとけば大概は上手くいく」

「ほんっと、結翔君ってそれでいろいろ乗り切ってるし、得してるよね」


 結翔は自分の容姿をよくわかっている。そしてそれを存分に活用している。

 茶色のふわふわしたくせ毛、大きな丸い瞳はくっきりとした二重、成人男性にしては線が細く、小柄だ。はっきり言って可愛い。愛想よく笑っていれば、誰にでも可愛がられるし、大抵のことは許されるだろう。


 そういえば、結翔は高校時代に学園祭のミスコンで優勝した経験があった。

 そのコンテストは何故か男が女装して参加するものだったが、結翔は女装させても違和感なく、ぶっちぎりでの優勝だった。

 菜花はそのコンテストを友だちと一緒に見に行っていたのだが、友人ともどもあんぐりと口を開けて呆けてしまったものだ。


 そんなどうでもいいことを思い出していると、金桝がデスクの引き出しから一冊のファイルを取り出し、菜花と結翔が座っているデスクの方へやって来た。


 事務所の中では、金桝のデスクだけが他と離れている。社長だからということで、それっぽく見せるためらしい。

 それっぽく、というだけあって、金桝は社長ではあるが、普段それらしくは振舞わない。事務所にじっとしていることも少ない。営業もするし、独自で調査も行う。社員たちと同じように、いや、それ以上に働いている。

 それに、金桝自身が社長という肩書で区別されることを嫌がるのだ。だから、社員には名前の方で呼ばせているし、社員のことも名前で呼ぶ。

 だがそれは、事務所内だけの話。外部に対しては、社長らしく振舞う必要がある。

 依頼はメールや電話で受け、金桝が相手側に出向くことがほとんどだが、ここに客が来ることもなくはない。なので、社長席は少し離れていて、他と比べて立派なのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ