表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

46/67

9-2.思わぬ知らせ (2)

 メールの話を兄の怜史さとしにすると、こういう縁は大事にした方がいいと言われた。結翔にも話したのだが、結翔は「菜花が行きたかったら行けば?」とつれない答えだ。

 別にやめろと言われたかったわけではないのだが、興味がないといった返答には若干寂しさを感じてしまう。

 S.P.Y.で仕事を始めてから、結翔とはほぼ毎日連絡を取り合っている。ともすれば、大学の友人たちより頻繁に話をしているのだ。だからこそ、もっと具体的にいろいろ言ってくれてもいいのに、と心のどこかで期待していたらしい。

 菜花は迷いつつも、結局兄の意見に従った。

 一度落ちている会社からもう一度声をかけてもらえるなんて、それこそ縁あってのことだ。

 そう思い、菜花は面接を受けることにした。その旨を会社に連絡すると、早速返事があり、三日後の午前十時に来社してほしいとのことだった。

 その日は此花電機に出社する日だったのだが、午前中だけ休みにしてもらえるよう、まずは金桝に連絡を入れ、その後で金桝の指示に従って横山に連絡する。

 横山にも了承をもらえたので、菜花は面接に備え、その会社の事業内容などを再度頭に叩き込んでいった。

 そうして、菜花は面接の当日を迎えたのだった。


「やっぱり、何回経験しても緊張するな」


 十分前に会社に到着した後、控室に通され、面接は十時きっかりに始まった。

 控室にはすでに数人がいたので、そこそこの人数に声をかけていると思われる。ならば、今回呼ばれたからといって、必ずしも採用が勝ち取れるわけではない。

 以前の自分なら、事前にそう予想はしていても、この現実を見てがっかりしていただろう。声がかかっただけありがたいが、今回もまた椅子取りゲームであることは変わらないのだから。

 だが、今の菜花は違っていた。面接を受けても採用されるとは限らないことを実感した途端、かえって気が楽になったのだ。

 本当は気が進まないのかもしれないと思いつつも、菜花は面接に臨んだ。緊張はしていたが、相手の話はよく聞こえてきた。本気で緊張すると、相手の言うこともよくわからなくなってしまうので、緊張しつつも最低限は落ち着いていたのだろう。

 面接は二十分ほどで終了し、菜花は面接会場となっていた会議室を出た。そして、思わず出た第一声が「やっぱり緊張する」だ。


「疲れた」


 小声で呟きながら、時計を確認する。時刻は十時四十五分。今から家に戻って着替えをして此花電機に向かっても、午後の仕事には十分間に合う。

 そのまま直行できたらいいのだが、リクルートスーツのまま出社するわけにはいかない。


「おはようございまーす! チーター便でーす!」

「はーい」


 会社を出ようとしたところで、宅配業者の男性と鉢合わせた。台車にたくさんの荷物を積んでいたので、出入口が若干塞がっている。

 今通ると邪魔になりそうだったので、菜花はしばらく待っていることにした。

 総務の女性が出てきて、伝票に受け取りのハンコを押していく。荷物がいくつかあったので、それらの伝票全てに判を押さなくてはいけない。

 女性は、ポンポンとリズミカルにスタンプ印を押していた。その様子をぼんやりと眺めていた菜花は、突如ピンと閃く。

 ──これだ!


「ありがとうございまーす!」

「はーい、ご苦労様でーす!」


 宅配業者の男性と総務の女性はお互いに元気よく挨拶し、男性はかなり荷物の減った台車を押しながら出て行き、女性は仕事場に戻って行った。

 菜花は面接の礼を言って会社を出ると、一目散に走り出す。

 一刻も早く此花電機に向かわなければ。そして、自分の考えが正しいかどうか、検証するのだ。

 菜花は、ずっと心に引っ掛かっていたものの正体に、ようやく気付いたのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ