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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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8-7.雑談か密談か (7)

 意味がわからない。だとすると、差し替えられた請求書Bは、正しいものということになる。


「それ、全く意味なくないですか?」


 金桝はニッコリと微笑み、メモ帳をもう一枚破いた。


「そこで、この新しい請求書Cの登場だ」

「請求書C?」


 頭がこんがらがってきた。この請求書Cとは、どういったものなのか。

 菜花はおおいに混乱するが、結翔は納得しているようだ。結翔にはすでに話が見えているのだろう。

 菜花が金桝の方をじっと見つめると、彼は再びニヤリと笑った。


「この請求書Cは、別の取引先なんだよ」

「別の取引先?」


 ますます訳がわからない。

 取引先A社に対し、請求書AとBが存在するだけでもややこしいのに、請求書Cが登場し、おまけにこれはA社のものではない? 金桝は何を言っているのだろうか。


「この請求書Cの支払先は、おそらく架空の会社だ。水増しした金額は、ここに振り込まれる。これは、横領した金をプールしておくために、横山さんと水無瀬さんが用意したものだ」

「ちょ、ちょっと待ってください! 頭の中を整理させてください」


 菜花は、これまでの話を自分のノートにメモ書きしていく。


 水無瀬が担当する取引先A社への支払い処理を行うには、まずA社の請求書を元に支払い依頼書を水無瀬が作成し、営業部の承認を得る。この時の請求書は金額が水増しされた偽物で、仮に十五万円とする。

 それが経理部に回ってきて、チェックが入り、問題がなければ請求システムに請求金額は十五万円と入力される。入力後、担当者が確認印を押し、経理部長補佐の横山がチェック、最終的に部長の小金沢の承認を得てからA社へ正式に十五万円の振り込みがなされる。これが正しいフローだ。


 しかし実際には、月々決まった支払い作業については小金沢までは回っていない。実質、横山が最終的に承認をし、振り込みを完了させている。

 その上で、今度は横山が行っていることを書き出していく。


 請求システムには、実際よりも多い十五万円と入力されている。横山はここで、本物の請求書に記載されている金額に修正する。正しい数字は、仮に十万円としよう。

 この場合の差額は、十五万から十万円を引いた五万円となるが、これを架空の取引先に振り込まれるよう、新たにシステムに入力するのだ。

 請求書は、架空の会社なのでそれらしく見えれば問題なし。本来は支払い依頼書も必要なのだが、上長権限でなしにしているのかもしれない。もしくは、これも偽造しているのか。いずれにせよ、これは自社の書類なので作成は簡単だ。承認印も皆スタンプ印を使っているので、どうとでもなる。

 そうして振り込まれた金、この例では五万円を、横山と水無瀬で分け合っている、というわけか。実際は、もっと大きな金額なのだろうが。


 だがこの方法なら、支払い総額の数字は変わらないので、そうそう怪しまれることはないだろう。システムの一覧を後で確認することはほとんどないし、あったとしても、ここに気付かれることはほぼないと言っていい。

 しかし、ずっと同じ人間がシステム入力をすることは、できれば避けたいところだろう。何かの拍子に気付かれないとも限らない。だから、勤務する期間を調整できる派遣にやらせることにしたのだ。


 それにしても、かなり面倒くさい。効率的でもないと思う。どうせなら、最初にシステムに登録する時からプールする支払先の請求書も紛れ込ませておけばいいのに、と思った。

 それを口に出すと、結翔が呆れた顔をする。


「始めたばかりの菜花はいいとして、高橋さんは経理部でいろいろ仕事を任されている立場でしょ。取引先もある程度把握している可能性がある。そこに見慣れない名前の会社があったら怪しまれるじゃん」

「あ、そうか……」

「でもまぁ、これからはそういう風にしたいのかもね。だから高橋さんを外そうとしている」

「なるほど」


 もしもこれらの推測が当たっていれば、慎重且つ完璧な横領計画と言えるだろう。いや、それはすでに計画ではなく、実行されているのだ。


「私……資料をもう一度丁寧に確認してみます。怪しい取引先がないかとか、支払い依頼書のない請求資料がないかとか」


 架空の会社を洗い出す必要があると思った。それが見つかれば、横領の確固たる証拠となる。


「そうだね。菜花君はそれに集中してくれ。資料整理は菜花君に与えられた仕事だし大丈夫だとは思うけど、少しでも危険を感じたらちゃんと引くこと。これだけは約束してほしい」


 真剣な目で訴える金桝に、菜花は大きく頷いた。

 水無瀬の女性関係、また、仕事での不正がないかの監察だったが、横領という大変な不正が発覚した。まだ確定ではないが、黒に近いグレーだ。

 菜花は素人同然で、プロである二人の足を引っ張るわけにはいかない。


「大丈夫です。私は資料にだけ集中するようにします」

「うん、よろしくね」


 金桝はそう言って、少しの間天井を見上げる。だが、すぐに顔を元に戻し、今度は結翔を見た。


「それじゃ、今度は結翔君の話を聞かせてもらおうか」


 結翔は頷き、ボディバックの中から数枚の写真を取り出してテーブルの上に並べる。

 それらには、煌びやかな衣装を纏った美しい女性が写っていた。

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