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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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7.接近

 水無瀬には婚約者以外に親しい女性がいる、その疑惑が濃厚となってきた。金桝と結翔が連携を取り、内に外にといろいろ動いているようだ。

 菜花の方はといえば、社内で水無瀬と接触する機会はほぼないので、気になる高橋仁奈と親しくなることを当面の目標としている。

 その甲斐もあり、今では菜花に対する仁奈の態度は軟化し、敬語は取れていた。昼食も、偶にだが一緒に食べるようになった。毎回でないのは、あまり急激に距離を詰めすぎると警戒されるかもしれないという心配があったからだ。

 懐かない猫に接している感じだ。慎重に、さりげなく、静かに、決して驚かせてはいけない。一定の距離を保ちつつも、じりじりと詰めていく。


 仁奈と昼食を取る時は、菜花も弁当を持参していた。眠い目を擦りながら、前の日のおかずの残り物やら冷凍食品の世話になりながら、自分で用意している。


「本当は、おばあちゃんが作ってくれるともっといい感じになるんだけどなぁ」


 菜花の弁当は、ただ米と惣菜を詰め込んだだけの素っ気ないものだ。料理上手な祖母が作れば、彩りも美しく、美味しい弁当が出来上がるだろう。だが、祖母はそこまで菜花を甘やかしてはくれないし、菜花も甘えてはいけないと思っている。

 ただ、兄の怜史さとしは「俺が作ってやろうか?」などと言ってきたので、菜花は慌てた。怜史はとても過保護なのだ。

 両親が健在の時もとにかく可愛がってくれていたが、亡くなってからそれに拍車がかかった。とてもありがたいことではあるが、まだ若いのに一家の大黒柱として杉原家を支えている怜史に、こんなことで面倒はかけたくない。ただ断ると萎れるので、自分も料理を頑張ろうと思うのだ、といったように、菜花自身のためという部分を強調して、なんとか怜史を納得させた。ちなみに、怜史はとても器用なこともあり、料理を始めとする家事全般を難なくこなす。


「高橋さんって、お料理上手ですよね。お弁当だって、いつもすごく綺麗で美味しそう」


 今日は、休憩エリアで仁奈とランチだ。

 仁奈は毎日弁当を持参しているのだが、菜花はこれまで手抜き弁当を見たことがない。彼女の弁当はいつも手の込んだものだった。


「そう? ありがとう。そう言ってもらえると嬉しいわ。私、料理がすごく好きなの。食べることって毎日絶対に欠かせないことだから、どうせなら美味しくて見た目も楽しめるものがいいじゃない?」


 そう言って、仁奈が嬉しそうに微笑む。

 確かにそうだが、自分でそれをしようとはなかなか思えない菜花は、純粋に尊敬してしまう。


「でも、作るっていろいろ面倒くさくないですか? 準備も必要だし、切ったり炒めたり揚げたり茹でたり、その後は片付けもあるし」

「片付けはともかく、切ったり炒めたりっていうのは、それが楽しいんじゃない。出来上がりを想像しながらお料理すると、ワクワクするわよ?」

「私もそんな風になれたらなぁ……」

「でも、杉原さんも自分でお弁当作ってるんでしょ? すごいじゃない」

「いや、私のは前の日のおかずとか、冷凍食品ばっかりですし。高橋さんのに比べたら、恥ずかしいです」

「そんなことないわよ」


 こんな風に会話をしていると、彼女がどうして他の社員と距離を取っているのかわからなくなる。人見知りでもないし、会話だって弾む。仕事でわからないことを聞いても、いつも親切に丁寧に教えてくれる。それは、菜花に対してだけではない、他の社員に対してもそうだ。だからこそ、彼女は一歩引いた態度でいても嫌われないのだろう。

 菜花は、以前に聞いた話を思い出す。仁奈が同期に彼氏を奪われてしまったという話だ。

 どうしてその彼は、仁奈ではなく、友だちを裏切るような女性を選んだのだろうか。見る目がないにも程がある。あまり評判がよくなかったということもあるから、結果的にはよかったのかもしれないが、当時は相当傷ついただろう。いや、今もまだその傷は癒えていないのかもしれない。仁奈が他の社員と距離を取る理由がこれであれば、そういうことになる。

 仁奈にも、早くいい人が現れるといいのに。そして、幸せになってほしい。

 仁奈との距離が縮まるにつれて、菜花はそう思わずにはいられなかった。


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