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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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6-3.広がる綻び (3)

「か……あの、どうせなら店内の方が涼しくないですか?」

「今「金桝さん」って言おうとした!」


 菜花は、それには素知らぬ振りをする。

 大通りのかき氷屋に連れてこられた菜花は、そこで一番人気のマンゴーミルクかき氷を前に、テラス席についていた。

 真夏に比べ、陽射しも少しは和らいでいるが、日中はまだうだるような暑さが続いている。

 店内の席が埋まっているなら仕方ないが、中途半端な時間ということもあり、すいていた。にもかかわらず、金桝はあえてテラス席に座ったのだ。ちなみに、彼は抹茶金時をチョイスしている。


「うまーい!」

「まぁ……美味しいんですけどね」


 ふわふわの氷に、マンゴー果汁たっぷりのシロップがかけられ、おまけにマンゴーの果実までごろごろとデコレーションされている。その上から練乳ミルクがかかっており、これで美味しくないわけがない。一度口にすると、止まらなくなる。しかし、暑いものは暑いのだ。


「テラス席が好きなんですか?」

「そんなことないよ。どちらかというと、中の方がいいかな」


 じゃあなんでだよ! と激しくつっこみたい気持ちを抑えながら、菜花はかき氷をがばっと口にする。一気にたくさん食べてもきーんとしない。美味しい。いや、そうではなく。

 そこでふと気付く。金桝は先ほどから通りの向こう側を注視していた。正確には、向かい側に建っている古びた喫茶店だ。

 いつの間にかかき氷を食べ終えていた金桝が、菜花の方を向く。そして、ニヤリと笑った。


「あ、気が付いちゃった?」

「……さすがに」


 先ほどから、道行く人々の視線がうるさくてしょうがない。

 芸能人かモデルかという見目麗しい男がすぐそこにいるのだ。見るなという方が無理。ましてや、金桝の美貌は度を越している。二度見、三度見していく人間が後を絶たなかった。これではまるで、動物園のパンダ状態だ。

 にもかかわらず、どうしてあえてテラス席を選んだのか。


「見張り、ですか?」

「正解」


 それならそうと、先に言ってほしかった。

 菜花が項垂れると、金桝が菜花の頭をポンと軽く撫でてくる。


「ここが一番見張るのに都合がよかったんだけどさ、男一人じゃ居づらいなと思って。そんな時、菜花君が通う大学が近くにあったことを思い出してね、一か八か行ってみたんだ」

「運、よすぎじゃないですか?」

「まぁね。僕、持ってる人だから」


 確かに、彼は強運の持ち主という感じがする。

 金桝と遭遇したのは、菜花が大学を出てすぐ後のことだ。構内にいれば、会うのにもっと時間がかかっただろう。見張りの最中なのだし、それほど時間はかけられなかったはずだから、菜花が大学を出たところで捕まえられたのは奇跡ともいえる。


「別件の依頼ですか?」


 菜花の問いに、金桝は首を横に振る。


「いや、例の件だよ」


 ということは、水無瀬の案件だ。関係者に怪しい動きがあったのだろうか。


「菜花君」

「はい」


 金桝がこちらをじっと見つめる。菜花を見ているのではない。視線を辿ると、そこにはマンゴーミルクのかき氷。


「え? な、なんですかっ」

「美味しそうだなぁ。いらないなら、もらっちゃおうかなぁ」

「いやいやいや、いりますよ! 食べますっ!」


 菜花は慌てて残ったかき氷をかきこむ。

 イケメンが涎を垂らしそうな顔でマンゴーミルクを見つめる。……怖い。

 取られてなるものかと、菜花はかき氷を食べきった。


「ふぅ……危なかった」

「そこは、美味しかった、じゃないの?」

「……美味しかった、です」


 つい食い意地を張ってしまったが、そもそもこれは金桝の奢りだ。分けてあげてもよかったかもしれない。

 そんなことを思っていると、金桝が素早く席を立った。


「いいタイミング。ターゲットが出てきた」


 菜花も向かいの喫茶店を見る。

 スラリと背の高いサングラスをかけた男と、華奢でありながらもメリハリのついた美しいスタイルの女が、ちょうど店から出てきたところだった。男はアッシュブルーのシャツにテーパードパンツ、女は真っ白なワンピース姿で、いかにもデートといった雰囲気だ。

 あの男は、水無瀬なのだろうか?

 スーツ姿しか見たことがない上、サングラスをかけているものだから、菜花にはどうにも判別がつかない。


「さ、行きますか」

「え? わ、私もっ?」

「このまま帰っても別にいいけど……気にならない?」


 そう言うなり、金桝は二人の後を追って歩き出してしまう。


「えっと、えっと……」


 迷ったのは、ほんの一瞬。気にならないわけがない。

 菜花は思い切って、金桝の後を追いかけた。


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