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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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5-5.無茶ぶり (5)

 その日の夜、結翔からメッセージが入った。内容は、今日の無茶ぶりについてだ。


『今日はありがとな。助かった』


 顔文字もスタンプもなく、素っ気ないものだ。でも、こうしてわざわざ連絡してくるということは、よほど感謝しているということか。

 水無瀬の婚約者は、監察の仕事とはあまり関係がない。だが、水無瀬の周辺は徹底的にチェックしておきたいのだろう。思いの外、結翔はS.P.Y.の仕事に熱心だ。


「どういたしまして、っと」


 ちょうどそういうスタンプがあったので、菜花はそれをポンと送る。

 結翔からの連絡で、菜花は水無瀬から見せてもらった写真を思い起こす。

 幸せそうなカップルの写真だった。水無瀬と専務の娘が肩を寄せ合い、微笑んでいた。

 専務は娘を溺愛し、箱入りに育てたらしい。そんな風に周りから聞いていたので、菜花は典型的なお嬢様を想像していた。しかし──


「イメージと違ったよね」


 お嬢様はお嬢様だ。ただ、お嬢様というよりは、女王様の方が近いかもしれない。

 おとなしくて、奥ゆかしくて、そんな大和撫子のような女性を想像していたのだが、水無瀬の隣に写っていた女性はその正反対ともいえた。

 撫子よりは、深紅のバラが似合いそう。そして、着物よりもドレス。

 とにかく華やかな女性だった。だからといって、箱入りじゃないとは言わないが。だがしかし。


「それなりに世間は知り尽くしてる感じだよねぇ。少なくとも、私よりは知ってる」


 そんな風に見えてしまったのだ。

 水無瀬も華やかなので、お似合いといえばお似合い、まるで芸能人カップルのように見えた。

 彼女はどんな人かと尋ねると、水無瀬は「聡明で、明るくて、とても魅力的な人だよ」と答えた。こうもあっさり惚気られると、二人の仲は盤石なのだなと思う。

 というのも、専務の娘が水無瀬に想いを寄せているのは、見るからに明らかだったからだ。写真の彼女は頬を染め、蕩けた顔をしていた。相当水無瀬に入れ込んでいると見た。

 水無瀬の方も惚気るくらいなのだから、彼女に惹かれているのだろう。かなりの美人だし、スタイルも良さそうだ。ケチのつけようがない。


 そんなことを考えていると、菜花のスマートフォンが軽やかな音を立てた。見ると、結翔から電話がかかってきている。


「え? どうしたんだろう……。もしもし?」

『お疲れ。今、大丈夫か?』

「うん、平気。どうしたの?」


 メッセージで済ませられないような用事でもあるのだろうか。

 首を傾げていると、電話の向こうから笑い声が聞こえた。


『悪い悪い。緊急の用とかじゃないんだけどさ』

「そう? ならよかったけど」

『ただ、菜花の意見を聞いてみたくて』

「意見? 私の?」


 菜花は目を丸くする。

 結翔に意見を求められるなど、滅多にないことだ。驚きつつも、なんとなく顔がにやけてくるのを止められない。

 菜花は少し得意げになり、結翔の言葉を待った。


『専務の娘……純奈じゅんなさんって言ったっけ。彼女と水無瀬さんの仲、菜花はどう見た?』


 ちょうどさっきまで考えていた。

 菜花はそれをそのまま結翔に伝える。だが、結翔の反応が鈍い。


「なに? 結翔君は……そう思ってなかったりする?」


 菜花の問いかけに、結翔は唸りながらそうだと答えた。


「え? だって水無瀬さん、すごく褒めてたじゃん」

『そりゃ褒めるだろうよ。表向きはラブラブで通してんだから』

「表向きはって……。本当にラブラブってことじゃないの?」

『はああああ……。やっぱ、菜花に聞いても無駄だった』

「ちょっと! 無駄ってどういう意味!?」


 失礼な話だ。

 純奈のことを話す水無瀬は、ニコニコと幸せそうに笑っていたではないか。

 そのことを結翔にぶつけると、更に大きな溜息を落とされた。


『確かに、水無瀬さんは笑ってたよ。完璧な笑顔だった』

「そうでしょ?」


 何がおかしいというのだろうか。

 不満そうに答える菜花に、結翔はこう言った。


『あれは、()()()()なんだよ。まるで笑顔のお手本だ。うっかり騙されそうになって、一瞬ゾクッとしたね』

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