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社内監察代行─S.P.Y.株式会社【書籍版タイトル:S.P.Y.株式会社 社内の不正、お調べします】  作者: 九条 睦月


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2-6.監察開始 (6)

 エレベーターで五階まで下りると、様々な飲食店が軒を連ね、このビルで働いているであろう人々でごった返していた。

 このビルのテナントの関係者は割引がきくということもあり、ここで昼食を済ませる者は多いという。


「和食でもいい? お蕎麦なんだけど」

「はい、大好きです!」

「定食についてくるおいなりさんが美味しいの!」


 寺崎と今宮は、少し奥に入ったところにある蕎麦屋に向かって歩き出す。店によっては行列ができているところもあるが、蕎麦屋にはなんとかすぐに入れそうだ。


「もうちょっと出るのが遅かったら、待たないといけないところだったわね」

「すぐ入れてよかったですね!」


 席に通され、一息つく。周りと見渡すともう席は全部埋まっていて、店員は忙しく動き回っていた。

 寺崎と今宮はもう決まっているらしく、菜花は慌ててメニューを眺めるが、結局二人と同じものを頼む。店員が水を持ってきたタイミングでオーダーを済ませ、三人は改めて顔を見合わせた。


「では改めまして。はじめまして、杉原さん。此花電機へようこそ!」

「はい、よろしくお願いします!」


 そんな挨拶を皮切りに、女子トークが始まる。

 二人はとにかくおしゃべり好きで、話題も豊富なものだから話は尽きない。経理部内についてはもちろん、他部署の内情にまで詳しいようで、菜花はずっと聞き役に回っていた。

 初日ということもあり、名前を出されても誰なのかよくわからないが、寺崎はその人物の特徴も合わせて話してくれるものだから、思ったよりも早く社内の人間を把握できそうだ。

 さすがにメモするわけにもいかないので、菜花は二人の話をとにかく聞き漏らすまいと神経を集中させる。


「そうだ! 営業に入った派遣の吉良さんって、すごく可愛くないですか?」


 今宮が突然そんなことを言い出し、ちょうどお茶を飲んでいた菜花は噴き出しそうになる。ゲホゴホとむせていると、寺崎が背中をさすってくれた。姉御肌なだけあり、面倒見もいい。すみません、と言いながら何とか落ち着くと、再び今宮が話を再開させる。


「イケメンはイケメンだけど、可愛いって感じ! 営業部の女性陣が目を輝かせてましたよね!」

「一課でしょ? あそこは水無瀬君もいるし、ほんとキラキラしてるわよね」

「ですよねー!」


 キラキラしていると思っていたのは、菜花だけではなかったらしい。寺崎のいうように、営業部一課は特に目立つ集団だった。

 あそこで挨拶をしている時は、なんとなく居たたまれないというか、菜花にとっては居心地が悪く、あんな場所にすぐに溶け込んでいる結翔を尊敬したほどだ。


「杉原さんと吉良さんって、同じ派遣会社だよね? でもそれだけじゃなくて、なんとなく知り合いっぽいというか。杉原さんが挨拶してた時の吉良さん、ちょっと心配そうな顔してたし。ね、二人って知り合い? もしかして、付き合っちゃったりなんてしてるの?」


 今宮が興味津々といった様子で聞いてくる。

 結翔が心配そうに見ていたなど全く気付かなかったが、それを周りに気取られるなんて結翔らしくないと思った。それほど菜花が頼りなく見えたのだろうか。……たぶんそうだ。

 あのキラキラ感に圧倒されすぎて、完全に腰が引けていたしなぁ、と項垂れる。だが、すぐに顔を上げて今宮の話を否定した。


「違いますよ! 全然! 全く! 付き合ったりなんてありえないです!」


 あまりに力いっぱい否定したものだから、寺崎も今宮も呆気に取られてポカンとしている。そして、すぐに声をあげて笑い出した。


「いやいやいや、そんな全力で否定しなくても!」

「だ、だって……」

「もう、今宮の悪い癖! 知ってるくせに揶揄うんじゃないの!」

「え……?」


 知っている?

 菜花が目をぱちくりさせていると、今宮が笑いながら種を明かした。


「遠目からこっそり眺めてた私らがわかるんだよ? 営業部女子連中がわからないはずないって。すぐに吉良さんに突撃だよ。「あの子、彼女ですか?」って」

「えええっ!」

「で、吉良さんはサクッと否定。でも、心配そうな顔で杉原さん見てたことを問い詰められて、ようやく吐いたわけですよ」

「何を……?」


 今宮が二ッと笑い、得意げな顔をする。寺崎もやれやれといったように笑っているので、彼女もそれが何なのか知っているのだと思った。


「いとこ、なんだって?」

「!」


 目を大きく見開く。まさか、そこまでバラしているとは思わなかった。

 だが、それも仕方なかったのだと思う。彼女などと誤解される方がよほど厄介だ。いとこなら、妹を心配するようなものだと言い訳もつく。そしてそれは、事実なのだから。

 それにしても、皆たいした観察眼だと思った。怖いくらいだ。ほんの些細なことでもすぐに噂になってしまいそうで、下手なことはできないと冷や汗が流れてくる。昼前のちょっとした出来事がもう経理部の二人にまで回っているなんて、とんでもない情報網だ。

 しかし、結翔がそういうつもりなら、このことで嘘をつかなくてもいいわけで、菜花は少し気が楽になった。

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