社員その③ 八幡(男性)
「ヤバいっすよ。このままじゃ小隅さんいつか絶対クビになりますって」
出た。八幡さんの「気まぐれ格づけタイム」だ。それは昼休憩で私と二人きりなると前触れもなく話し出す。今日のテーマは小隅さんのようだ。
「えー小隅さんがー? なんでですかー?」
あたかも興味がありますよという体で訊き返す。正直、怠い。
「だってメール送信業務もこれで失敗するの何回目ですか? 数えたらキリがないですよ。僕よりここで働いている年数は長いのに、小隅さんが受け持つ仕事内容はいまだに単純作業ばかりですし。あ、佐倉さんは社長がたまに向ける哀れみの目を見たことありますか? あれ絶対に小隅さんに対して意気消沈しているんですって、絶対」
「どうなんでしょうねー」
興味ないからわからないっす。
月並みなゴシップネタに目ざとい主婦のように、前のめりになって息を荒だてながら話す。根拠のないよもやま話をなにかと「絶対」と結論づける八幡さんは小隅さんと同様、私の先輩にあたる。仕事は人並みにこなせるし、普通にしていればどこにでもいる人なのだが、思わず苦虫を噛み潰したくなるような特徴がある。
それは自信家ってやつだ。
取り立てて非凡な才能を持ち合わせているわけでないのに、自信だけが油田のように湧き出てくる。自分の中だけで塞き止めておけばいいのに、他人の領域まで侵してくる。私は毎回それをあたり障りなく受け流す。
「小隅さんがしっかりしてくれないから、僕にばっかり主任から重大な仕事を任されるんですよ。もう毎日いっぱいいっぱい」
「そうなんですねー」
それは主任から面倒な仕事を押しつけられてるだけですよ。すぐ自分を大きくみせるんだから。
「まあ僕には関係ないですけどね。いつかこんなところ辞めて起業する予定ですし」
「すごいですねー」
それっていつ頃の予定なんでしょうか。かれこれ一年前からずっと聞かされていますけど。具体的なビジョンが全く見えませんけど。
「まあ佐倉さんは大丈夫だと思いますけど、くれぐれも小隅さんみたくならないでくださいね。あ、あと笹川さんとか」
「頑張りますねー」
その笹川さんから聞きましたよ。私以外の社員と二人きりになったら私を含む他の社員の陰口叩いてること。あと酒々井さんからも、色々と。
「そんならば僕は一服して仕事戻りますわ。お疲れ様っすー」
「お疲れ様ですー」
まあおかげさまで愛想笑いがうまくなった気がしますわ。
以上、八幡さんでした。もう彼について私から話すことないっすー。




