社員その① 小隅(男性)[1/2]
事細かにお伝えすると気持ちが限りなく沈んでしまうから、これ以上掘り下げなくていいかもしれない。ある程度の人となりはわかっただろうし。小隅さんも浮かばれないだろうし。
小隅さんは年齢こそふたつ下になるが入社五年目で私の先輩にあたる、一応。前職が某有名自動車メーカーの工場勤務とあって、長身かつ細身の体躯からは想像できない繊細さで黙々と作業を遂行できる。アルバイトの方に送るダイレクトメールの送付状を折っているだけなのに、蜻蛉眼鏡がゴーグルに見えてしまうから滑稽だ。
前職で確立してしまったその作業脳のせいか優先順位を考えずに没頭してしまうため、さっきみたく楊井主任の逆鱗に触れることが多い。「重箱の隅を楊枝でほじくる」なんて言葉は彼らのためにあるような慣用句だ。失笑すら覚える。
いつものように主任にこってり絞られた小隅さんは顔面蒼白で向かいのデスクに戻ってきた。顔全体がパソコンの上から覗き見るように出ているから、はじめのうちは落ち着かなかった。慣れてもそれはそれで嫌なのだが。
「小隅さん」
声をかけると、死んだ魚のような目が私に向く。
「またメール送信の件で怒られていたんですか?」
「あ、うん……そうだね。またメール送信の件で怒られたね」
相変わらず要領を得ない話し方だ。こちらが質問してもオウム返しするだけで話が進まない。
「なんで怒られたんすか?」
「いや、その……」
先輩だが間延びした喋り方に時々腹が立つ。
「昨日僕がメールを送った会員さんに、また今日同じ文章のメールを送ってしまって……それがクレームになったみたいで……はあ」
はあ、とため息つきたくなるのはこっちだよ。馬鹿かこいつは。もう何回目だ。




