ようこそ、パーフェクトマッチへ[3/3]
ここはマッチングサイト「パーフェクトマッチ」を運営する有限会社ホワイトマッチ。
名のある有名企業が軒を連ねるオフィスタワー、の影で隠れてしまいそうな雑居ビルの一角に静々と構えている。社名をとってもサイト名をとっても胡散臭いこと極まれり。業務内容もさることながら、ここに勤める社員はよい意味でも悪い意味でも個性的で一癖ある。従業員数が少ないことも相まって、濡れ衣に近しい被害を喰らうことも多々ある。ポジティブに捉えるなら風通しのいい会社といえるかもしれない。だけど、これでも年商一億円超え。
今日日マッチングサイトの数は、規模の大小を考慮しないなら枚挙に暇がない。人間の持つ性欲を、依存性の高いサービスに体よく変換して提供し、下流にこぼれた汚いお金をうまいこと回収しながら運営をしている。誰かは「日本の性犯罪の抑止力となっているよなあ」と、社会貢献よろしく大仰に提言していたけど、私はそんな物言いを一蹴し、僭越ながらこう考えている。
社会貢献に託けて、性欲に安い付加価値を着せ、金をふんだくる。依存性の高い会員は食欲と睡眠欲を対価にしても、ヴァーチャルの世界へ投資する。血眼で見返りを求め続ける。刹那の期待と性欲を満たすためだけに、狂ったように利用し続ける。
たかが勤続四年目になる一端の社員が思うことがこれだが、たった四年でここまでの印象を植えつけられるほどの仕事だと感心さえしてしまう。このまま定年まで働き続けようなら、定年退職後には聖人にでもなっているかもしれない。まあこの会社が先三十年も生きていられるならの話だが。一般的な企業の生存率を鑑みても、この業界の会社はどこもかしこも泥舟に近しい。
突っこみどころ満載の序章かもしれないが、ここで最大の疑問が生じるのではないかと汲み取り、あえて自ら提起しようと思う。それは微塵の愛社精神をも有していない私がなぜこの会社で働いているのかということだ。もしかしてこの会社こそ働きたいと羨望していたから?
うーん。あたらずといえども遠からずなんだな、これが。
続きを話したいところだけど、さっき受けた電話がまだ終わらないんだ。クレームではないが滑舌が恐ろしく悪いせいで、問い合わせ内容が把握できないんだよ。多分だけど先方は歯がほとんどないと思う。頑張れハチマルニイマル運動。
これが終わり次第続きを話すよ。あ、あとその前にメールを送らせてほしい。そうだな、取り急ぎ二百通くらい。




