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わたくし佐倉は男ですが毎日殿方にラヴメール送ってます  作者: 香井 八輔
社員その⑩ 楊井主任(男性)
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社員その⑩ 楊井主任(男性)

「こずみいぃーーっ!!!!」


 いつもに増してキレッキレの()()()()でなによりです。昨夜は奥さんにセックス断られたのですかね。もしそうなら公私混同しないでほしいっす。


 人の粗探しに長けた一重の小さな目。揶揄することで塗り固められた薄い頭。あれやこれやとこじつけて二枚舌を駆使しまくるおちょぼ口。オフィスにはUSENチャンネルの音楽が絶えず流れているが、それが機能しなくなるくらいの罵倒振りだ。一周回って頭が下がる思いでいっぱいになる。


 ただし、誰彼構わず毒突くのではない。誰かひとりにターゲットを絞り、見せしめのように吊るしあげる。やっていることはいじめっ子と同じ。子どもがそのまま大きくなった、それが楊井主任という人間だ。たまにただだんまりとして不機嫌になることもあるし。


 手前味噌かもしれないが私はどちらかといえば世渡り上手であるため、幸か不幸か主任とは妙に馬が合った。その分どうでもいい会話で仕事を妨害される。そして休憩中にもその振る舞いは変わらない。


「なあ佐倉。傍からみれば俺って嫌なやつに見えるだろ?」


 私は箸でつまんだおかずを宙に浮かせ、乾のバカのように口をだらしなく開けたまま主任を見た。おかずを戻してひとつ咳払いをし、答える。


「そうでしょうか。私にはそうお見受けしません。誰よりも会社のことを慮って、厳しくも温かいご指導を常日頃より賜り、困った時は親身になってお力添えをいただいていると思っておりますが」


 思ってもないことばかり口から出てくる。私も知らずのうちに二枚舌を使っているかもしれない。


「そうか」

「はい」

「まあ小隅に対して厳しいのもわざとなんだけどな」

「はあ」


 なにいってんだこの人。


「会社にはひとりくらい目の上のたんこぶ的な存在が必要なんだ。仲良しクラブみたくだべるのも会社の在り方としてはいいかもしれないが、常に緊張感と責任感をもって仕事を遂行した方が社益に繋がるんだよ。つまり、俺みたいな人間が必要不可欠ってこと、わかるか?」

「わかります」


 いや、意味がわかりません。


「やっぱり佐倉は物わかりがいいな」

「恐縮です」

「じゃあ俺は先に戻るわ。あ、そうだ。休憩終わってからでいいから債権回収部に提出する今月締めのブラックリストを抽出しといてくれ。今月は少し数が多そうだから漏れがないようにな」

「承知いたしました」


 そういう面倒なことは八幡さんに回せばいいのにと心の中で毒づいた。


「作成したら臼木係長に提出すればいいですか? それとも内海(うつみ)課長ですかね?」

「課長でいいよ。係長に見せてもざるだから。一応チェックするから提出前に俺に声をかけてくれ。じゃあ頼んだぞ」


 煙草を片手に主任は休憩室を出ていった。また面倒臭い仕事を押しつけられたもんだ。


 ひとり休憩室に残される。椅子に深く座り、先ほどの主任の言葉を頭の中で反芻した。意味がわからないと感じたが、てんで的外れなことをいってはいないと改めて思った。


 なんだかんだパーフェクトマッチ創設時に在籍していたメンバーであるから、生半可な気持ちで仕事に取り組んでいるのではないだろう。なんて、たまにはよいしょしてみたりする。でも部下である私の前で臼木係長の文句を垂れるのはやめてください。反応に困るから、本当に。


 貴重な休憩時間を不毛な妄想で費やしたことを後悔しながら、眼前の弁当を掻きこんだ。休憩室を出、オフィスに通じるセキュリティロックの扉を気怠げに開く。オフィスに足を踏み入れた瞬間だった。


「こずみいぃーーっ!!!!」


 哀れな目を向ける。小隅さんにではなく、主任に対して。時代に合わせた指導方法を考慮されてはどうですかと進言したくなる。


 そしてこういう時こそ仲裁役として入るべきなのが臼木係長あなたではないのですかとも心の中で進言した。

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