社員その⑨ 石毛(女性)[1/2]
死ね、死ね、死ね、死ね、死ね。
掠れ声を振り絞りながら手に持っているボールペンで殴るように書き続けている。
よりによってインクの余裕がある時に盗ってしまった。苛立ちが巡り巡って頭はさらに熱くなる。握りしめすぎて爪が食いこんでも、手がしびれてきてもそれをやめることはできない。
佐倉さんは、あたしのもの。あたしのものなんだから――
ホワイトマッチが有する九階の倉庫。奥まったところに位置しているからか、ここに入ると絶えず陰鬱な空気と埃が肺を満たす。雑多なもので溢れかえっている中、隅に放置されたデスクの上でボールペンの命を無心で削っていた。誤植のために廃棄される予定のハンドブックの切れ端には自由気ままに怨念が籠った曲線が幾重にも描かれていた。
何回目かの「死ね」を繰り返したところで、黒い線が途絶えた。一仕事終えて一服といわんばかりに立ち上がると、微かに火照った身体を冷ますため窓を開けた。
無垢で真新しい空気が口から入り、血液に乗って手先足先まで循環する。自分の中にある毒素が流れ出るような気がした。達成感と恍惚感で頭と股あたりに熱が生まれ、濁った夜の空を眺めたまましばらくの間動くことができなかった。
街の喧騒がかすかに聴こえる中、ぱきり、とかわいた音が倉庫の中でいやに長く響き渡る。それと同時に、握りしめた右手からぽたぽたと、なにかが滴るのを感じた。




