社員その④ 酒々井(女性)[3/3]
時を戻そうか。
そんな屑人間であるから前の職場でも下半身の関係を持った人が多数いたそうだ。しかもお小遣いつき。今の時分でいうところのパパ活ってやつだろうか。そしてとうとう八幡さんが生贄となった。でもあんなに自尊心が青天井の人が持久力ゼロと知ると、正直笑える。
嘆息しながら改めて、あのなあと声をかける。前髪を揺らしながら酒々井さんの顔がこちらへと向く。
「そういうことをあまり他人に口外するなよ。コンプレックスと思っている人もいるんだぞ」
「でもねでもね、八幡さん早く出さないためにですね、腰振っている時なに考えているか知ってます? その最中なんと……ずーっとお母さんの顔を思い浮かべているんですってー! やばーい! あたしをお母さんだと想像して疑似近親相姦してたりしてー!」
ここまでだとさすがに気の毒になってくる。誰かこの煩悩チワワにリード繋いでおいてくれ。笹川さんとはまた違った人格だがいずれにせよ好きになれない。こんな上っ面だけ小奇麗で中身はピンクだらけの欲情女。
このままでは前回の二の舞だと思い立ち喫煙所に向かおうとしたところ、また酒々井さんに「あっ、佐倉さん」と呼び止められた。畜生と思いながら目線を投げる。
「一回だけあたしとどうですか? 前にもいったかもしれませんけど佐倉さんって結構遊んできた人かなーってにらんでるんです。あたしのセンサーがビンビコビンに反応しているんですよー。今夜あたり時間ありますか? ふひぃっ」
「ねえよ」
「じゃあ明日!」
「もう予定入ってる」
「じゃあ今度暇な時!」
「金輪際ありません、さようなら」
鼻で笑いながらそう吐き捨ててそそくさとその場を辞去した。閉まりゆくドアの隙間を縫って「なんでなんでー!?」と喚く声が聞こえた。休憩室といえど社内ではお静かに。
エレベーター内ですでに銜えていた煙草に、喫煙所に着くや否や火を灯す。紫煙を空に吐き出すと、心なしか身体に潜んでいた邪念が浄化されていく気がした。短くなった煙草を水に浸した瞬間、綺麗になったはずの心に影が差した。
それが後悔の念に近しいものだと気づかされると煙草をもう一本取り出して火をつけた。結局三本も煙草を灰にした。それにくわえ、酒々井さんのでかくてけしからんお胸で張りに張りまくったストライプシャツに多少欲情し、それを必死に振り払おうとした結果だった。
とどのつまり私も煩悩だらけだ。しかも浄化されていないでござる。ああ、無念なり。




