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君の嫌いな煙草の火が消える前に  作者: 有下駄 游
2/2

後悔


気持ち悪い春風を感じたあの日の夜から半年が過ぎた。あの春風も、今は寒さの目立った秋風なのか冬風なのかはっきりしない冷たい風に変わった。しかし、この冷たい風は嫌いではなく、孤独も前ほどは感じずに、毎日のように遊び歩いていた。典型的な別れのその後だ。

煙草の火を消し、飽きない夜の景色を眺めていた。なんともない、何も変わらないいつものベランダから見る景色。時間がただ流れゆき、変わっていくのは自分だけなのではないかと思うと少し寂しかった。ただ今となっても、頭の中には、変わらない彩花の姿がはっきりと脳裏に住みついている。

いつになったら、今までの記憶を思い出に変えることができるだろうか。もうとっくに終わっているのに自分の中では、また二人の時間が動き出すのを期待してしまっている。

彩花の嫌いな煙草を吸い始めて、他のどうでもいい女の子たちと遊び、友達と朝まで呑んでは家に帰る。こんな生活を続けていることを知ったら、二人の時間が動き出すどころか彩花にとっての綺麗な思い出まで汚してしまうであろう。気持ちとは裏腹の行動に出てしまうのは、つきまとう孤独から目を背けるしか今の自分にできることがわからないからだ。


そろそろ寒さが限界に近づいていたので部屋に入ろうとすると携帯から通知音がした。どうせまた友達からの呑みの誘いかと思い、メッセージを開くとそうではなかった。バイト先が同じ二つ年下の杏からのメッセージだった。驚きと疑問が重なって内容を見ると、どうも大学の課題が進まないそうで手伝って欲しいとのことであった。

「いや、大学も学部も違うのにどう手伝うんだよ」

ぽつりとつぶやきはしたが、メッセージにはいいよと返事を送った。


どこにでもあるとんかつ屋で二ヶ月前から始めたバイト。決めた理由は家が近いから。その近さは驚きの徒歩2分圏内である。そこまで近いのに最近は週1,2回しかいっていない。思ったよりも忙しかったためである。自分のペースを乱されるのは嫌いだった。しかし、その中でも杏とはバイトの時間がよく被っていたので自然と話す機会も多かった。先日も急に連絡先を交換しようといわれ、少しいい感じに思われているのではないかと思ったが、交換してから特に連絡はなかった。その最初のメッセージでこの絡み方はどういうことなんだろうと思った矢先に着信音が鳴った。もちろん杏からの電話である。

『……もしもし?』

驚きで変な声がでていたかもしれない。

『手嶋優さんの番号でお間違いないですかね。』

深夜だというのに嫌にテンションが高い。二つしか歳が離れていないがこれが若さというものだろうか。

『アプリから電話かけてるのに間違いとか無いだろ。』

『そうだよね。あ、優くん。あのさ明日カフェでもいって課題手伝ってくれない?』

テンションが高く、いつも通りの元気な声だが少し緊張しているのが電話越しにも伝わった。

『いいけど、俺役立つかわかんないよ』

『ほんと少しだけでいいから。よろしくね。時間と場所後でメッセージで送っとくね。』

要件だけ言い渡してすぐ電話が切れた。短い時間で事が進んでしまったため、すべてを理解しきれていないない自分がいた。これがやはり若さというものなんだろう。

ベットに入り、少し高揚していた自分に気づいた。杏とはただバイト先が同じ、バイト仲間としか思っていないが、男というのは実に単純である。さっきまで元彼女に想いを馳せていたとは思えない心の移り変わりに自分でも飽き飽きした。


閉めた網戸から、冷たい風が吹き込んでいた。やはりこのチクリと刺さる風は嫌いではない。

窓は閉めずに、静かに目を閉じた。


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