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君の嫌いな煙草の火が消える前に  作者: 有下駄 游
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後悔


02:35

おもむろにベランダに出て煙草に火をつけた。10月末というのにもはや気温は冬のようである。秋など顔も出さずに通り過ぎてしまったようだ。特に意識を向けることもなく携帯を操作し、彼女のSNSを見た。何日も更新されることない彼女の投稿をただ見つめているのは恐らく自分だけだろうと思いながら、ストーカーチックな行為に嫌気がさした。

「女々しい男だなぁ。」

煙草の煙が肌寒い自分の体を包む。1本吸うだけと薄手のパジャマで出てきたが、滞在時間に関わらず寒いものは寒い。

きっと君は今頃すやすや寝ている頃に違いない。僕のことなんて気にもとめず毎日楽しく過ごしているのだろうか。あの日の夜に別れてから半年が過ぎた。2年弱付き合った関係としては実にあっけない最後であった。夜空に消えていく煙を見ながら懐かしい記憶がふと頭の中によぎった。


大学3年になった4月。早めに家事を済まし、少し仲のいい女友達と楽しくメッセージで話していた。大学進学と同時に上京して始めた一人暮らし。三年目になるとそれなりに要領もよくなったが、自分以外誰もいない部屋の孤独には未だに慣れてはいなかった。地元に帰ったら会いたいねというメッセージを見ていた時に、着信が鳴った。少し焦りながらも電話に出た。

「どうしたの?」

普段電話はよくするが、一言もなくかけてくるのは珍しい。胸が少しだけざわついていた。

「急で悪いんだけど……私、優と少し距離置きたい。」

電話越しに、少し申し訳なさそうな、少し泣いているかのような彼女の声が響く。

「なんで……?そもそも最近会っていないのに距離置くって何?」

すれ違うことが増え、会うことも少なくなってしまっていた。お互いに冷め切っていることを感じ始めてからは、いつ、どのように別れようか考えてはいたものの、まさか彼女から別れを切り出してくるとは思わなかった。

「彩花はどうしたいの?」

立て続けに言葉を続けた。自分でも勝手に、最後の言葉を待っているようだった。

「別れたい……かも。」

ああ。別れるのか。ずっとこうなると思っていたが、あまりにも急だったので言葉にしがたい感情に駆られる。

「そっか。お互い最近そんな感じだったもんね。今までありがとう。」

なんとか振り絞って言葉にしたが、正直もうどうでもよかった。

「うん。こちらこそ。ほんと急でごめんね。」

本当にごめんと思ってるのかと言いそうになったが、今はその気力もでない。最後に中身のない別れ際のお決まりの台詞をお互いに並べ合い、気がづいた時には電話が切れていた。


女友達とのメッセージ画面に戻り、既読をつけてメッセージ履歴ごと削除した。

どうして、こうなってしまったのか。涙どころかため息すら出てこない。現実が嫌になりベットに入った。さっきまでなんとなく感じていただけの孤独がいつにもまして降りかかっている気がした。

ベランダから網戸越しに春の夜風が吹き込む。気持ちいいはずなのに、気持ちが悪かった。


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