軽い男
僕のお姉ちゃんを軽率に「すみすみ」と呼びながらこちらに近づくこの軽薄そうな赤髪の男。まあ大層整った顔立ちをしていて、お姉ちゃんの横に並び立つとそれはもう花と鳥。とてもお似合いなお二人である。別にお姉ちゃんは僕のではないことは重々理解している。だが、僕の知らないところで、どこの馬の骨とも知らない野郎とお姉ちゃんが仲睦まじくしていると考えるとなんだか頭が痛くなってくる。頭痛が痛いとつい叫びたくなるほどに…
「ねぇ蒼くん。どうしたの?そんな呆けた顔しちゃって」
そうしてウリウリと言いながら、僕の頬を両手で包みながら上下に動かす。
「ふふっ、これは失礼。話には聞いてたけどホントに仲いいんだね、蓮見姉弟。仲よくしながらも聞いてもらえるかな。僕は蒼くんに話したいことがあってね。あっ…この呼び方はすみすみと被るし止めといた方がきっといいよね。じゃあ弟君とかかな。でもこれからすみすみ抜きで会うことになるかもしれないし微妙だな。まあ蒼真くんとかが丸いかな。では早速本題に入るんだけど―蒼真くんには是非、僕のボードゲーム部に入部してはもらえないかな。―ダメかな?」
男の言葉により一層呆けた顔をしてしまった。え?そんな事なの。てっきり、お付き合いしてますとか、君のお姉ちゃんは僕のだからとか、いい加減姉離れしなよ甘えん坊十五歳児などと僕を不快にさせるような言葉でも投げつけてくるのかと警戒していたのだが、ただの部活動の勧誘である。
「そんなゆるゆるした顔しつつも考え込んでどうし―あっそうか。もしかしてだけど、愛しのお姉ちゃんが取られると思って不安になってた感じかな。僕とすみすみは蒼真くんが心配するような関係じゃないよ。だってほら」
須藤さんがフラフープでも回すかのように腰を捻る。するとひらひらとしたものが―お姉ちゃんが身に着けているものと同じものが目に映る。揺れているのはそうスカートだ。
「須藤さんって女性だったんですね。ごめんなさい。色々と勘違いしてました。ごめんなさい。」
「いいよ―てか、これは羨ましいよすみすみ、僕の愚弟と交換して欲しいものだ」
「いくら須藤さんの頼みだとしても私の蒼くんは渡さないわよ。絶対に―あと弟さんのことをいい加減許してあげたら」
「まあそれは置いといて―」
ムスッとした表情のお姉ちゃんを物を移動させるようなジェスチャーで軽くいなして話を続ける。
「ボドゲ部はどうだい?蒼真くん。君がバイトをしてることは聞いてるから活動日に融通は効かせてるし、君がボードゲームに興味を持っていることもすみすみから聞いてるし結構いいと思うんだよね―あっそろそろ蒼真くんも自分の教室に戻らなくちゃいけない時間だね。是非長考したまえ。ではまた」
「午後からの授業も頑張ってね、蒼くん。じゃあね」
そう二人に見送られ、僕の昼休みが終了する。