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宇宙の始まりの話

作者: 七代金平

私は気づけばここにいた。


ここは何もなかった。光もなく、上下左右という概念がなく、おそらく時間という概念もない。ただ何もないが広がっているだけだった。


何もない場所にいる私は、なぜだか何もかもを知っていた。


本来世界には物質があり、それらが互いに作用しあい、さらに新たな物質を作り、珍しいところでは生命体というものがいる。


私には意識しかない。外見というものを客観的に見ることができないため自分を形作るものを認識することができない。おそらく外見なんて概念もないのだろう。


私はこの何もない場所にずっといた。気づけばここにいた。一番古い記憶を呼び起こしても、やはり気づけばここにいた、という以外の表現がない。


私は何もかもを知っている。このような世界は普通ではないと知っている。何もないが異常であると感じている。


そんなことをぼんやりと考えていた。ずっと考えていた。そしてある時ふと思った。


私は何なのだろうか。


今まで自分以外の、外部のことばかり考えていた。結果、何もない異常なせかいであるという結論に至った。


では私とは何なのか。


考えてみた。世界のことを考えるとき、私は私の中にある「普通の世界」を基準に考え、比較し答えを出してきた。


では私について考えるとき、私は何を基準に私を見つめればいいのか。


私がここにこうして意識を持ってから、同じように意識を持った何かとあったことがない。この世界には唯一私のみがあるのだ。


世界に何もないことを認識しているのは私だ。私は何もないを認識することでこの空間を存在させている。


では私を存在させているのはなにか。それは私自身だろう。


この世界には私しかいないのだから。


それはひどく不安定なことなのではないだろうか。世界が私を認識しているのであれば、私と世界が互いに互いの存在の証明をできる。


しかし実際はそうではない。この世界はすべて、私が認識していることで成り立っている。


私の存在を証明するものが必要だと強く感じた。その時、何もない世界に突如光が現れた。


光、は私が知っていたものだったが、実際に見るのは初めてであった。


その光の中には私が今まで考えていたものが入っていた。


原子、分子、それらが合わさってできる物質、時間、空間、あって当たり前だと思っていたものがあふれ出し、拡散されていった。


その拡散のスピードは私の予想を上回る速さで、あっという間に私の頭の中に漠然とあった正常な世界が出来上がった。


私はこうして宇宙にいることを認識した。


しかし、宇宙は私を認識しなかった。宇宙には意識がなかったのだ。


私と同じように意識を持つものが必要だと考えた。でないと、私は私を知らないままだ。


しかし私は何もしなかった。


私は私を証明するものが必要だと強く感じた結果、宇宙が生まれた。


これは偶然ではなく私が願ったために起こったと考えている。つまり、意識を持った何かが次期に私の前に現れるだろうと思った。


私はこの時初めて待ち遠しいという感情を覚えた。私が何者なのかを教えてくれる意識が現れるのを待った。


宇宙中にまき散らされた物質たちはやがて小さな粒子として見えるようになり、互いにぶつかり合いながら大きくなっていった。


やがて全体を見るためには視界を動かさなければならないほど大きくなっていった。


これが星か、と思った。


星は数を増やし、大きくなったり、時には小さくなったりしながら宇宙を漂っていた。


私はそれをただぼうっと眺めていた。


時間という概念ができたはいいが数え方が分からなかった。とにかく宇宙ができてから途方もない時間、私は眺めていた。


しかし私は退屈だった。退屈は苦痛だった。


私は私になって初めて、意識を手放してみることにした。


























ふと自分が揺れていることに気づき意識を取り戻した。


揺れている、ということはつまり自分は物体であることを知った。


意識を取り戻したが目の前にはぼやけた光しかなかった。私が意識を手放している間に何が起こったのかと考えた。


あれだけあった星たちはみんな消えてしまったのだろうか。宇宙という存在は私が退屈のあまり考えだした空想上のものだったのか。光はただそのままの光でしかなかったのか。


「お兄さん、なにしているの?」


音が聞こえた。いや、これは声だ。私はこれが声であると知っている。


私は目を開いた。私には目というものがあり、それでものを見ていたらしい。


目を開くと私は宇宙にいないことに気づいた。正確には、宇宙の中の小さな星の上に乗っかっているのだが、そこは宇宙というにはひどく小さかった。


まず私は自分の姿を確認したかった。目がある、ということは私にも外見という概念が生まれたかもともとあったのか。とにかく自分を知るという当初の目的を果たしたかった。


私は自分を見て驚いた。この姿は人間である。遠い昔、頭の中にあった生命体の具体例の一つの姿になっていた。私は人間だったのか。


次に私は周囲を確認した。そして大いに驚いた。


私の周りには多くの生命体がいた。一面に緑が広がり、その緑たちはすべて意識を持っている。何ならその緑を私は踏んでいる。


慌ててどけようかと思ったが、何せ一面が緑のためどこに足を置いても緑を踏んでしまう。私は緑を踏まないようにすることをあきらめた。


「ねえ、お兄ちゃん、大丈夫?」


声のほうを見るとそこには人間の幼体がいた。メスの幼体だった。


長い髪を二つに結びひらひらした布をまとっている。人間にしては大きめな目で私を見上げている。


「ここはどこだ。」


「ここは恵庭だよ。」


「恵庭?この星は恵庭というのか。」


「違うよ、この星は地球だよ。そんなことも知らないの?」


長らく意識を手放している間に星に名前が付くほどのなっていたらしい。世界のすべてを知っていたはずの私は、今人間の幼体に学ばされている。


「そうか、地球か。この星にはそんな名前がついているのだな。」


「ええ、お兄さん神様みたいなこと言うね。」


幼体はコロコロ笑いながら言った。神様、そうか、私は神なのか。


「して娘、私は何に見える。どのような風貌なのだ、私は何者だ。」


宇宙ができて以来の、いや、それよりも前からの疑問が、今解決されそうになっている。


私は興奮していた。声が震え、目が熱くなり、長く付き合ってきた疑問と遂に別れを告げる時が来たのだ。


娘はしばし悩むそぶりを見せた。


「うーんとねえ、お兄ちゃんって感じ!背が高くて、顔格好良くて、マッチョだし。」


ふむ、私の外見は良いようだ。口調だけで神だと悟られてしまうほどの知性も持ち合わせていると考えていいだろう。


私は宇宙より長く生きている。当たり前なのだ。私は完ぺきな存在だったのだ。


思わずにやけている私を見て娘はむじゃきな顔で言った。


「あ、でもちょっと臭い!ちゃんとお風呂入ってる?」


私は世界を滅ぼした。どうやら私は思ったより短気な神だったらしい。


そして私はもう一度宇宙を作り直した。


何もない世界にあふれる光。その中からは様々な原子、分子、物質とともにバスタブが出てきた。

アドバイスとか誤字脱字の報告超ほしいです。

もし少しでも笑ったら「笑った」だけでも良いので感想ください。

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[良い点] らしくない内容だと思いながら開いたけど、本筋とかは面白いと思う [気になる点] 文末が一定で単調な文に見える [一言] 他の作品を読むかは気分次第
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