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とりあえず書いてみる

とりあえず書いてみる

作者: 松内 雪

 「小説を書こう」そう思い立ってから数時間。

 いまだに何も書けていない。

 頭に浮かぶ無数の物語。すべてが傑作間違いなしだというのに、真っ白な画面を見ると手が止まる。

 ふとした瞬間に勇者が世界を救う。次の瞬間には、淡い恋愛物語がハッピーエンドを迎える。

 されど、この物語を形にする術がない。

 真っ白な画面に立ち向かう術を持っていないのだ。


 そこで初めて、戦う術を身に付ける。

 文章作法を調べ、キャラクターに息を吹き込むために設定を練りこむ。

 プロットを作り、道しるべを用意する。

 準備万端。これでようやく書くことができる。


 白い画面に改めて向かい合う。

 気合いを入れて最初の一行を書いてみる。しかし、何かが違う。

 最初の一行ですら、自分の思い通りにならない。

 書いては消してを繰り返す。

 どうしてこうなってしまうのだろうか。たかが最初の一行なのに。

 数十万字にも及ぶはずの物語。その最初のたった数十字だというのに。

 何かが違うのだ。自分の中にある理想と離れてしまう。

 たかだか一行に、こんなにも苦しむとは思いもしなかった。


 自分には才能がないのだろうか。今まで何度もそうやって逃げてきた。

 しかし、今回ばかりは逃げるわけにはいかない。

 初めての挑戦だ。今まで消費するばかりで、何も生み出すことがなかった自分にとっての。

 そして、責任もある。

 自分の中にある世界で一番面白い物語たちを消してしまうわけにはいかない。

 だから書く。どうにか書いて証明しなければいけない。


 そして生み出された一文。

 やはり何かが違うように思える。どうしても書けずに消してしまう。

 つまり怖いのだ。自分の中にある傑作たちが、凡作として産み落とされるのが。

 こんなにも面白い物語だというのに、どうしても伝えることができない。

 もどかしい。悔しい。情けない。

 白い画面を見つめて自己嫌悪に陥る。


 ほかの人はどうして書けるのだろうか。

 気分転換に他人の作品を読んでみよう。

 タイトルを見れば意気込みが伝わってくる。あらすじを読めば夢が広がる。

 この人たちも同じように苦しみ書いているのだろうか。

 それとも、楽しく書けているのだろうか。

 分からない。分かるはずもない。同じ土俵にすら立っていないのに。


 書けば分かるだろうか。しかし、書いても良いのだろうか。

 白い画面を見つめて考えた。

 悩んでいても何も始まらない。時間だけが過ぎていく。


 よし、決めた。

 とりあえずこの思いを綴ってみよう。

 小説になるとは思えないが、きっかけぐらいにはなるだろう。

 これから始まる無数の傑作物語の誕生秘話になるかもしれない。

 だから「とりあえず書いてみる」








そして私は、執筆が楽しいことに気付いたのだった。

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