焼き海苔と味付け海苔
。
海苔の養殖もそこそこ上手く行き始めた今日この頃、最初に出荷する製品が完成したから、端切れや形の悪い物を島の皆で試食会。
なんだけど、ここに至るまで様々な事があった。
島に住人を受け入れだいたい2年くらい、種族間で色々な問題が起きてさ……
「ゴーヤを緑のうちに食うなんてアホか?」
なんて言うのはダークエルフさん達、地球人と同じでゴーヤは緑の時に食うらしい。
「これだからダークエルフは、黄色いゴーヤは甘いんだぞ」
苦い物でも苦いなりに美味しく頂くダークエルフさんと、普通のエルフさんの争いな。
「どっちも食えばいいじゃんよ。くだらない争いなんかしてないで、もっとこう……大事な事を話し合う場所だろ?」
種族間定例会議と名付けた飲み会、種族毎に代表者を週1選んで送り出し貰ってる。年齢関係なくな。
「ポム様の持っておられた苦プリンこそ至高」
ダークエルフさんが言えば……
「何を言うとるエルフども、ポム様の持っておられる食い物で最も尊い物は、 骨まで食えるアジの南蛮漬けだ」
獣人さんが叫んだり。
「バランス良く色々食べないとダメだよ」
人間の子供が、メッってして、皆でホッコリして……
ドワーフさん達は全部美味いなんて言いながら酒を呷ってる。
会議ってなんなんだろうな……
大切な話し合いなんて何時も「爆釣に任せる」で終わってしまって、今週食べた物から始まって、ポムが隠し持ってる食べ物に至って、中野の爺さんが……
「海苔巻いた握り飯が至高で究極だ。訳分からん事を言うておらんと食え!」
一喝してみんな黙って握り飯を食うまでがワンセット。
海藻の色艶、味、栄養なんかは海だけじゃなくて、流れ込む川も、その川が始まる山も通る大地も全部が良くないと最高の物は出来ないんだと。
んで結局……
「混ぜ込みワカメご飯を焼き海苔で巻いた物が究極」
「炊きたての白飯を味付け海苔で巻いた物が至高」
なんて真っ二つに別れて、山岡さんと海原さんの争いみたいになって……
「いででででで……止めてくれ婆さんや」
「みんなに迷惑掛けてんじゃ無いよ! ダラダラ呑んで無いで、決める事決めたらさっさと帰って来な!」
1人じゃ寂しいからって、自分でポセイドンの兄ちゃんと交渉して奥さんを呼び寄せた中野の爺さん。
海苔巻いた握り飯をみんなで〆に食った直後にドヤ顔しそうになるんだけど、毎回直前で奥さんに耳を掴まれて強制的に帰宅していく。
「ふぁ〜今日も疲れたぁ〜」「お疲れ様、はいレタス」
俺とポムがこの2年でどうなったか、なんにも変わってない。
元々が「熟年夫婦か」なんて言われるくらい馴れ合ってたから、そのまんま。
「明日はポセイどんも来て製品チェックもしてくれるし、海苔の出荷が始まったら、いよいよ本格的に島の拡張も始めないとな」
「あんまり無理しちゃダメだよ。最近良く疲れたって言うようになったでしょ?」
頭脳労働は苦手なんだよ。体は何とも無いけど、頭はフラフラになる気がするんだ。
「軽く食べる物作ってくれよ、会議中につまんだだけだから全然腹に溜まってないし」
ちょっとした物はポムが作ってくれるようになった。
最近は出荷するのに品質が足りてない海苔を使って何か作る事が多いかな。
「海苔を挟んだ卵焼きとおにぎりでいい?」
「うん。おにぎりは2個にして欲しい」
魚料理を作る時は毎回俺がやってるよ「そこは爆釣に任せてますから」だってさ。
飯食いながらマップを見てると、色々と頑張った2年を褒めてやりたくなる。
「やっと明日で北大西洋と同じ大きさだな」
「ずいぶん海は広くなったよね」
海を拡張するのは、陸を拡張するよりずっと安くて、ポセイドンの持ってる三又のフォークを、早く大きくしてやりたくて島より優先的に拡張中。
最近の三又のフォークは、パスタを取り分ける時に使う大き目のフォークくらいになったぜ。
「このまま拡張していくなら10年も有れば元の大きさに戻りそうだな」
なんて嬉しそうに言ってたのが印象的。
んで土曜の夕方。
「なるほど、この品質なら俺が太鼓判を押してやろうじゃないか。で、端切れはどうした? 俺の所で端切れを買い取りたいんだが」
ポセイドンが板前だって知った中野の爺さん、褒められて当然なんて顔をしてるけど、俺には分かる、内心ほくそ笑んでる。
「端切れは島の皆で分けるから売らんぞ。買うなら製品を買ってくれ」
島の皆で自給自足生活だもんな。
種族毎に得意な事をやってるから労働力は少しあまり気味。
その分、休みは多く取ってる。働き方なんて改革しなくても大丈夫なくらいな。
でもちょっとだけ問題が……
人間の家族の事なんだけど、何しても他の種族の人達よりも劣ってて、コレと言った特技が無いんだ。
でも何をしてもソツなくこなすから、手の足りない所で色々な手伝いをして貰ってる。
でも、他種族の子供達から、人間の子供達は……
「下働きの子供」なんて言われて可哀想……
そのうち道徳の授業とかしなくちゃかもな。
「爆釣。また来週だな」「おうっ、疲れない程度に頑張って来いよ」
ポセイドンは、なんか知らないけど、いきなり長期休暇を切り上げて地球で仕事を始めた。
今は毎週土曜の夜から日曜の夕方までエデンで過ごして、平日は地球に帰ってる。
「ポセイドン様、明日は寒ブリ祭りですから楽しみにしててくださいね」
ロナルディの言った寒ブリ祭り、全種族が寒ブリに舌鼓を打つ日って決めて、去年から開催してるんだ。
「それは勿論だとも。脂の乗った天然ブリを使った美味い物を楽しみにしておくさ」
なんて言って、食うだけのつもりだったりして……
「お前も釣るのを手伝うんだよ。群れを誘導するか、群れの場所を教えてくれよ」
「なっ! 爆釣は休日の神までこき使おうと言うのか!」
なんて笑いながらサムズアップ、キラっと光る歯がイラッとする。
ポセイドンに太鼓判を押して貰った板海苔は来週から自動販売機の転移門を使ってポム達の世界に出荷される、どれくらいの値段が付くか楽しみ。
「なあ爆釣、諫早湾の様にしてくれるなよ」
中野の爺さんに良く言われる事、それをポセイドンに聞いてみると……
「アレは陸の生き物との連携を密にしていなかった俺の責任だ。海を生業にする者や、陸で働く者達、誰のせいでもない、足りてなかった俺の責任だ」
なんて言ってさ……そんな事は無いと思うんだよ。
「農業も漁業も、どっちも幸せになれるやり方ってのがあったんじゃ無いかな?」
なんて言うポムの疑問に。
「今の文明が亡びて、次の文明が生まれた時には、何もかも手探りだが模索してみようと思う。良い大地が良い海を作る、良い海が良い大地を育てる、だろ?」
なんて言うんだ。
「今の文明で出来ないのか?」
俺の疑問には……
「だから嫌な仕事を頑張ってるんだよ、バカンスを切り上げてな」
としか答えてくれないんだ。
「そんな事より明日の予定を教えてくれないか? 海に入るのは久々なんだよ、楽しみでたまらないんだ」
「地球の海は部下に任せても大丈夫だ」とか「エデンの海に問題なんてある訳ないだろ」なんて言って、ここ2年くらい海に入ってないポセイドン。
「海の神様が海に居ないってどうなんだよ?」
なんて俺の質問に。
「社長が毎日部下に細かく指示を出す大企業があると思うか? 社長なんて社長室で引きこもってるくらいで、何かあった時に責任を取るだけで良いんだよ」
だとさ。
んで日曜日の朝。真冬の朝は6時でも真っ暗でブリ漁の準備が全部終わって日が出たら出航するって状態。
島の皆で小政島の北端に作った桟橋から釣政丸で沢山の木船を引いて行くんだ。
「ポセイどん頼んだぞ」
「勿論だとも、ワラサはリリースだからな。10kg超えてなきゃ寒ブリとは認めんぞ」
全島民合わせて180人くらい。
皆で海苔巻いた握り飯食いながら、寒ブリ祭りが始まった。
ラストエピソードに入ります。
読んで貰えて感謝です。




