変化
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ロナルディの中で何か変化があったんだろうなって思う今日この頃、普段なら落ち着いてるリスティールさんも少しソワソワしてるんだ。
ロナルディの変化なんだけど、最近自己主張をするようになった。
エルフだけじゃなくて人間が食べても、ドワーフが食べても、獣人が食べても、神様が食べても美味しい物を夜ご飯にお願いしますとかさ。
今日だって昆布出汁の煮染めを作って欲しいとか言って、献立に口を挟んで来たし……
「秋野菜と山菜とキノコたっぷりの煮染めを夜に食べたいです、お酒は日本酒で」
何故かリスティールさんが、ポセイドンから料理を教わるようになった。
「ロナが1日一生懸命仕事して、帰って来たら美味しい夜ご飯が待ってる食卓を想像すると、ロナは喜んでくれるでしょうし、ロナが嬉しいと私も嬉しいんです」
なんてノロケながらさ。
ポセイドンが言うには「腹を決めたみたいだな」だってさ。
そんなある日、ポムはロナルディやリスティールさんとキノコ採取に行っちゃって、俺とポセイドンだけ海に来た。
「爆釣、ロナルディやリスティールが居なくなったらどうする?」
そんな事を聞かれた。
「理由にもよるけどな。いい事で居なくなるなら応援するよ。悪い事で居なくなるなら、何があっても引き止めるけどな」
「そうか……それなら無事を祈ってやってくれ」
2人でカツオを釣りながら、そんな事を話してた。
んで夜飯の時間。
「へ〜。ウナギの産卵場所って異世界なのかよ。そりゃ何処を探しても見つからないわけだ」
ポセイドンにウナギの秘密を教えてやろうか? なんて言われて聞いた事は、日本に住んでたら絶対信じられないような事だけど、今だとすんなりと信じられる話で。
「異世界で産まれたウナギは転移門を通って地球にやって来る、地球である程度の大きさまで育ったら、自分の故郷に帰って産卵して死んで行くんだよ」
そんな中で地球に居着いたのが、食卓に上がるウナギらしい。
「んじゃ、どれだけ研究してもウナギの産卵場所って不明のまんまなん?」
「地球に居着いたウナギ達は、そのうち最適な環境を見付けて産卵場所を決めるだろうよ、それまでは不明で在り続けるだろうがな」
そんな俺とポセイドンの話をロナルディは興味深そうに聞いてるんだ、そして……
「何故に魚の産卵場所を知りたいのですか?」
「養殖する為だよ」「食べる為かなぁ」
そんな事を聞いて来た。
「野菜や果物を作るのと同じ事だ。自然の恵だけでは生きて行けないだろう?」
「食べる為に育てるですか……」
その日の夜飯の後から、ロナルディは地球の食糧事情を調べるようになった。
「カツオは美味しいよね、秋刀魚も良いけどカツオは偉い」
ポムと2人、並んで寝てる今日この頃。
最近少し慣れてきたから、ポムの寝息を聞いても悶々しなくなってきた……嘘だよ。
「やっぱりかつお節って大好きなん?」
「生節だったら何本でも食べられそうかな。削ってくれたら延々とつまんでそう」
もう夜は随分と肌寒くなってきて、厚手の毛布を掛けて寝てるんだけど、横になって俺の方を向いてるポムの腰のくびれがハッキリと見えててさ……
食べ物の話をなんかしてても、気がまぎれなさそうだったから、ポムにも聞いてみたんだ。
「ロナルディとリスティールさん、帰っちゃうのかな?」
あの二人なら、何処でも生きて行けそうな気がするもんな。
「そりゃ帰るでしょ」
なんて凄い軽く言われたんだ。
「ロナってね、凄くエリートな家系に生まれたのは教えたよね?」
頷いといた。超セレブだって聞いた事あるし。
「ロナのお爺さんって、私の上司の偉い神様の右腕みたいな人なんだ。世界中に沢山居るエルフの中で最も有名な人を上げろって言われたら真っ先に出てくる様なさ」
凄いな……
「そんなお爺さんが、自分の全てを教えこんだ跡継ぎ候補なんだよ。ロナはレーサーだったなんて言うけど、エルフが出来ることは一通り教えこまれてるんだもん」
やっぱり帰っちゃうんだな……
「リスティールさんもなんかあんのか?」
「勿論。リティはリティで神の指って言われてる祖父母から才能を見出されて、幼い頃から英才教育を受けてたんでしょ。ドワーフの一族の中でも相当な技術者だもん帰って来る事を期待されてるはずだよ」
2人とも帰る場所があるんだもんな……
「ポムはどうすんだ? ずっとここに居るのか?」
「爆釣がずっと養ってくれないと困るんですけど。いまさら野生には帰りたくないしだし……」
俺も……居なくなられたら困るかも。
うしっ! 腹をくくるか。
「なあポム……俺ってさ、お前の事が好きなんだ……ずっと傍に居てく…………って……」
寝てやんの……
「くっ。今がチャンスだと思ったのに……」
煮染めもカツオ料理もたらふく食べて、満足そうに眠るポムの寝顔を見てたらやっぱり悶々する。
次の日の朝飯の時間、最近だと昼は別々で食べる事が多いから、朝のミーティングみたいになってる。
「爆釣さん、ポムさん。大切な話が有るのですが、今からでも大丈夫ですか?」
リスティールさんに、朝飯を食い終わるくらいに聞かれたんだ。
いよいよかって身構えた。
…………………………
「なるほどなあ……プレッシャーに押し潰されそうだったか……」
ロナルディやリスティールさんの話を聞いてると、偉大すぎる一族に生まれた苦悩って言うんだろうか、一般人の俺にはちょっと分からない感覚なんだけど悩んで悩んで、悩み抜いたのがよく分かるんだ。
「でもさ、悩みを表に出さずに良くやって来れたよな」
そんな事は無いなんて言った2人だけど、俺なんかよりずっと前向きでさ……
「そう遠く無いうちに、両方の母親と向き合ってきます」
「分かった。俺が応援してもなんの力にもならないと思うけど、2人の事を応援するよ」
帰らないでくれ……なんて言えなかった。
その日から色々と農業について勉強を始めた。
ロナルディが帰った後は、次のエルフさんが来るまで俺が見て回らないといけないから。
「最良の状態を保とうとはしなくて良いです」
畑の野菜を見ながら色々と教えて貰ってる。
「なんでまた? 何時もツヤツヤしてた方が良いんじゃねえの?」
「植物の生命力に任せても大丈夫です。見て下さい、この子なんか元々枯れそうな苗だったんですよ」
ポムはリスティールさんに土壌の管理を教えて貰ってる。
俺もポムも頭が爆発しそうだけど、文句は言わない。
ポセイドンなんか、はなから諦めモードでロナルディの話をアクションカムで撮影してて、分からなくなったら見れば良いなんて言う。
「生き物を育てる事に正解なんてありません。草も木も森の動物や昆虫達も、それぞれに生きてます。自分で全部管理出来るなんて傲慢にならずに、少しだけ育つお手伝いをしてるって感覚を忘れないでください」
そんな事を言われたんだけど、ずっと頭から離れなくて、忘れちゃダメな事なんだろうなって思った。
「逃げた事に真剣に立ち向かって来るか……」
朝飯の後にロナルディが静かに言った事。
「ロナのお母さんに立ち向かって行こうなんて、2人共勇気あると思うよ」
ベッドに寝転んでポムと2人で話してんだ。
「神々を敵に回してでもリスティールさんと添い遂げるとか気合い入り過ぎだろ?」
「それくらいの覚悟で行かないと。周りは神様ばっかりなんだし」
なんでもポムの地元は神様達のベッドタウンみたいになってて、歩けば神に当たるってくらいに神様が居るんだと。
「良い方向に進んでくれたら良いけどな」
「あの二人が幸せにならない道なんて、私の上司は用意しないから大丈夫」
ポムの上司って凄く偉い神様だったっけ?
「ポセイドンのお兄ちゃんが来た時に一緒に来た日焼けしたオジサンが居たでしょ? あれが私たちの世界の最高神様だよ。頼りになりそうだったでしょ……ふぁぁぁ眠い……」
あれ?…………俺ってさ、今声に出したっけ?
「なあポム……お前もポセイドンと一緒で心を読めたりするの……かって……また寝てる……」
ヤバいだろ読めてたら……
今まで散々ポムの事を、可愛いとか綺麗とかエロいとか考えてたのに……
ロナルディとリスティールさんが帰る前に、心を読まれないようにする術を聞こうって決意した瞬間だった。
読んで貰えて感謝です。




