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鮭とイクラの親子丼


 石狩鍋に舌鼓をうった次の日。


 今日の昼飯が、鮭とイクラの親子丼だと思うと仕事にも気合が入る。


 久しぶりにポセイドンも一泊して、朝から畑や果樹園のお手伝い。


「シロツメ草さん、少しだけ我慢してね」


 ロナルディが雑草の若芽に呟くのを、皆で見てる。


「さすがエルフの棟梁の家系だな。地球の植物でも直ぐに対応出来るとは」


 ノーフォーク農法ってのをやるんだと。


 その為に必要な畑を作ってるんだけど、生えてる雑草同士が大地の栄養を奪い合う事が無いように、それぞれ分けてバランス良く植えて変えてるとこらしい。


「ノーフォークってなら、ポセイどんは手伝えないよな……フォーク使っちゃダメなんだろ?」


 なんだコイツ? なんて顔して俺を見てくるポセイドン……


「なあ爆釣。ノーフォーク農法とは、フォークを使わないんじゃなくて、イングランドのノーフォーク地方で始まった農法の事を言うだんぞ?」


 何それ……恥ずかしい……


「四輪作法だっけ? 日本風に言うと」


 めっちゃ恥ずかしい…………


「休耕地を置かない事で、収穫量が増えるんですよ」


「農業の事は全くわからん。任せたロナルディ」


 気合い十分だったけど……やっぱり俺は漁業だな。




 そんなこんなで1人で政島の東側、鮭が登ってくる川を見に来た。


「すげえ……」何千匹って鮭が体をぶつけ合って産卵してるとこでさ……


 1人で唖然としてたら、地上の事は苦手なポセイドンも逃げて来たみたい。


「どうだ爆釣。命とは激しく美しい物だろう?」


 産卵して力尽きて動かなくなっていく鮭達。


 次に命を繋いで、川の流れに押し流されて海へと戻って行く……


「一生に1度だけ、種族の繁栄を願って全ての力を使って産卵するんだ。死した後は、それまで貪った命への償いに己の体を捧げる」


 流れて来る死んだ鮭に小さい甲殻類や魚が群れてる。

 ポセイドンの作ってくれた海底トンネルを歩きながら、命って物を考えるいい時間になった。


「人間が奪っていい物なのかな……」


 川を登る直前にさ……


「人間だって自然の一部だ。それを忘れずに居てくれるなら、何も問題無い」


 忘れないようにしようって、沢山の小さな蟹に食べられてる鮭を見ながら思ったんだ。


「殆どの食料を時給自足で賄えるようになれば、続々と移住者が来るぞ。今のうちに簡単で良いから法律等も整備しておけ」


 うげぇ……面倒くさ。


「中学や高校の歴史の授業で習っただろう、昔の日本を参考にすれば十分さ」


 覚えてるわけねえだろ……


「そんなこと言ったって、中学とか高校の時の俺の成績って知ってっか?」


「お前の資料は読んだから、だいたいの事は把握してる。俺ならスマホで調べて良さそうなのだけ採用するぞ」


 しゃーねぇ……明日から頑張ろ。



 ポセイドンとボチボチ歩きながら家に帰る途中、スマホで昔の日本の法律を軽く調べたんだけど、ポセイドンから少しアドバイスしてもらった。


「生類憐みの令の、代が変わって廃止にならなかった部分だけは採用してくれ。アレは素晴らしい法だから」


 そう言われて調べたんだ。


「子供は皆で保護しようか……こりゃ採用しなきゃだな」


 犬を助ける決まり事だと思ってたけど、全然そんな事は無くて……


「学校で教えて貰った事って、何の役にも立ってないのな……」


「集団生活を学んだろ? それだけで十分さ」


 そんなもんなんかな?




 もうすぐ正午になろうかってくらいに帰宅、ポムが冷蔵庫の前でソワソワしてて、ロナルディもリスティールさんも、炊けたご飯を気にしてる。


「鮭とイクラの親子丼だからすぐ出来るよ」


 乗せるだけで食べられるように準備してあるし。


「鮭もイクラもてんこ盛りで。お代りしに来るのが面倒いから、全部持って来て」


 冷蔵庫の中から、醤油漬けにしてたイクラが入ってる巨大タッパーを取り出して、チルド室から鮭の刺身を取り出して……


「爆釣、今日は俺の特製醤油も大盤振る舞いだ」


 おお、普段はケチケチ使うポセ醤油が……


「ワサビ味を出してやる」


 昼からこんなに贅沢して良いんだろうか?


 そんな昼飯が始まったんだ。




 デカいどんぶりにご飯をよそって、刻んだ大葉をまぶしたら……


「こんなもんだろ」「もうちょっと」


 刺身は2種類、脂の乗ったお腹の部分と背中の部分を交互に乗せてく。ご飯が隠れるくらいに。


「爆釣、ケチケチしないでドバーっと!」


 それでも大きなどんぶりだから、まだ深さは2cmくらい残ってて、ひたひたになるまでイクラを乗せたんだけどポムは満足してないみたい。


「衝立になるように大葉でかさを上げて……はい、もうちょっと乗せて」


 トラックの荷台とかをコンパネで嵩上げして沢山荷物を乗せてるのを見た事が無いかな? あんな感じにイクラを乗せろって催促してくる。


「お代りすりゃ良いじゃねえか、とりあえず食べようぜ」


 リスティールさんもどんぶりはデカい。


 俺とポセイドンは普通サイズ。ロナルディは……


「僕は……イクラは少しで……」


 魚卵が苦手なんだって……


 食欲の秋ってのは間違ってないと実感する味。


 とにかく美味い。プチプチと口の中で弾けるイクラも、脂の乗った鮭の刺身も、米も新米だから美味い。


 ポセ醤油の少し出汁の味がするワサビ味も、大葉のスッキリした味も全部が丼の中で混ざりあって……


「うめえ……もう一杯食おうかな」


 昼から落ち鮎漁をするつもりで、川に入るからあんまり食べるつもりは無かったけど……そんな事言ってられないくらい美味いんだ。


「食べなくちゃいけませんかね?」


 リスティールさんもポムも無言で2杯目に手を出してるのに、ロナルディだけ一口も食べてない。


「苦手過ぎるなら食わなくてもいいんだぞ、種族的に食えない物だってあるだろ」


 ポセイドンから言われた事が、何か琴線に触れたらしい、小さな声で……


「種族の壁を超えないと……」


 なんて呟いて、匙に乗ったイクラとご飯を口に突っ込んだんだ……


「……………………あれ?」


 最初は嫌そうな顔をしてたけど、噛めば噛むほど表情が和らいでいって。


「美味しい……」


 二口目は刺身とイクラとご飯を同時に……


「美味しいです……」


 ロナルディでも食べられるようにって、生臭さが出ない絶妙なタイミングをポセイドンが見計らってくれてたんだ。


「うっし!」「これは良い特産品になるぞ、エルフが美味いと言った魚卵なんて、このイクラが初めてじゃないか?」


 味付けや作り方はポセイドンから細かく指導して貰って俺も覚えた。

 来年からは移住して来る誰かに教えられるように。


「もう少しだけ頂いて良いでしょうか? この量じゃ昼からお腹が減りますし」


「勿論だとも」そう答えたポセイドンの影で、リスティールさんの目が、すごく優しい目付きになってたのが印象的だった。





「白子と卵は塩漬けにするんだろ? 今なら刺身でも行けそうじゃね?」


 昼から大量にとってきた落ち鮎の話、風呂に入りながらどうやって食べるか決めてるとこ。


「燻した物も作りたいな、アレは美味い保存食になる」


 俺とポセイドンが何を作るか相談してる間、ずっとロナルディは何かを考えてたんだけど。


「なんで親子丼と言うのですか?」


「そりゃ鮭とイクラを、親と子を同時に食うからだな。鶏肉と卵でも親子丼だ」


 なるほどって呟いたロナルディだったんだけど……


「親と子ですか……」


 やっぱり結婚を母親に反対されてたのが引っかかってるんだろうな。


「ポセイドン様、僕は種族の壁を越えられてますかね?」


 あっ、それは俺も気になる。ポセイドンの評価はどんな感じなんだろ?


「お前の父親は鬼の見た目に反して草食だろ? 母親も同じくエルフで草食だ」


 鬼なんて人肉でもバリバリやって食ってるイメージだけどな……


「食の面だけでも、既に種族の壁は超えてるじゃないか、そこは自信を持っていい」


 少し晴れやかな顔になってやんの。

 ポセイドンに言われた事が相当に嬉しそうだ。


「鮎も親子丼にしてみては?」


 なんて言うもんだから、夜飯はロナルディのだけ親子丼にしてやった。


「これは……」


「川魚はヤバいだろ? だから塩漬けにするんだよ」


 

 不味くても残すなよww




読んで貰えて感謝です。

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