食欲の秋だ鮭を獲ろう
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川を遡って来る鮭より、川を遡ろうとする鮭の方が美味いとポセイドンから聞いて、4人ともやる気を出した日曜日。
ここ最近、あまり帰って来なかったポセイドンも前ほどじゃないけど頻繁に帰って来るようになった。
「しゃけ〜...♪*゜しゃけ〜...♪*゜しゃけぇぇ•*¨*•.¸¸♬︎」
船を出して鮭を獲ろうって決めた時から、ずっとポムはご機嫌モード。
「定置網を見に行くだけだぞ、入って無かったら帰るからな」
「うふふ、入ってない訳が無い。バカだなあ爆釣は」
「そうだそうだ。バカだなあ爆釣は」
落書きは消えたけど、事ある毎にバカって言われるようになって少し嫌な思いをしてる今日この頃なんだ。
「爆釣さん、2人ともテンションが上がり過ぎてて少し変になってるんで大目に見てあげて下さい」
「先週くらいからソワソワしてましたもんね」
ポムは分かるよ、でもポセイドンまで一緒になってはしゃぐのはなんでなんだろ……
「爆釣、エデンに居る鮭は寄生虫の心配が無いんだ。冷凍しなくても刺身でいけるんだぞ」
「マジか? そりゃテンションも上がるや」
鮭には寄生虫がいる事もあって、獲ったら1度冷凍するんだよ、そうすりゃ寄生虫なんて問題無くなるし。
「鮭も生で食べるんですね……」
「生の鮭は初めてなので少し楽しみです」
ロナルディやリスティールさんは火を通した鮭しか食ったことが無いらしいんだ。
「寿司でも刺身でも、煮ても焼いても美味いのが鮭だ。冬に備えて塩鮭にしても良いもんだぞ」
確かに、どんな食い方しても美味いよな鮭って。
「寿司、塩焼き、バター焼き、石狩鍋……他になんかあったっけ?」
「おにぎりの具!」
ウキウキ過ぎんだろポム……船の舳先で飛び跳ねんな!
「鮭とばも作らんとな。アレは最高のツマミになる」
ポセイドンが最高のツマミって言ったら……
「それは素敵! ポセイドン様、作り方を教えて下さい」
リスティールさんまでテンション上がっちゃった……
「キノコや玉ねぎをたっぷり乗せてホイル焼きにすれば飯にも酒にも合うぞ」
「おお! それは素晴らしい」
ロナルディも目が輝き始めたな……
「爆釣、獲れないなんて無いからな。俺がちゃんと群れを誘導しておいた。来年からは俺が居なくても川を登るようになるぞ」
「やっぱり海の事は万能なんだな」
さすポセってやつだな。
(そう言う事は声に出して言ってくれ)
心の中に話し掛けて来んな!
定置網のとこまで船を近付けたら、ポセイドンが海に飛び込んで中にどれくらい入ってるか見てくれた。
「ハハハッ! とんでもない数が入ってるぞ」
日本に売るのはソコソコで良いらしくて、異世界に売った方がお金になるし、異世界の方に大量に出荷してくれってポセイドンに頼まれてるんだ。
「爆釣! 早く早く!」
4人で船のヘリに立って、網の端っこを人力で引っ張る。
「重てえー! なんじゃこりゃ」
力持ちドワーフのリスティールさんの引く勢いが凄い、次に勢い良く網を引いてるのはポムだったりする。
「負けてたまるか! フンガー!」
足を突っ張って思いっ切り網を引くと……
「わあ……ここは天国なんだろうか?」
目を輝かせたポムと、キラキラ光る鱗が見えて……
「ところで、なんで網を引いてるんだ?」
ポセイドンがキョトンとした顔で俺たちを見てる……
「海底に打ち込んだ杭を抜いたから、網ごと船で引いて岸まで持っていけば良いだろ?」
「そんな事は早く言ってくれ!」
定置網の常識を覆すポセイドンだったりした。
んで岸まで船で網ごと引いて持って来て、鮭をタモですくって獲ってるんだけど……
「なあ、この量処理すんのは大変じゃね?」
たぶんだけどさ、1トンは超えてると思う。
「なに、生きたままで売れば良いのさ。食う分だけ確保して海水ごと売却してしまえ」
なるほど、そんなやり方もあるんだな。
イクラも食べたいから雌を選んで……
白子も食べたいから雄も選んで……
塩鮭も作りたいから少し多めに……
「なあ爆釣、何匹確保するつもりだ? 必要になったら獲りに行けば良いだろ?」
冷凍しときゃ良いんだし30匹くらいは確保しとこかな。
「何言ってんのポセどん、余ったら全部鮭フレークにするんだよ。鮭フレークは毎日食べるから沢山作らないとなんだし、どれだけあっても足りないよ!」
「鮭フレークですか……」
ポムの言った鮭フレークに反応したロナルディなんだけど、少しだけ引いてんのな。
でもその気持ちが俺も少し分かる。
ポムが作るプリンの瓶が鮭フレークの瓶だと知るまで、どこで瓶を買うんだろ? なんて思ってた。
スマホを手に入れてから、毎日のように10個くらい鮭フレークを1人で摘み食いしてたらしい……真夜中に。
「網は回収しておけ、取りすぎるのも良くないからな」
定置網なのに……所定の位置に置き続けてるのが定置網なのに……
「まあそうだよな。毎日見に行ける訳じゃ無いし」
他にも色々やる事はあるし、仕方ないか。
鮭づくしの夕飯、ポムはずっとテンションが上がりっぱなしで、尻尾がピーンってなりながら、色んな鮭料理を手当り次第食いまくってるし。
「刺身うめえ……」
冷凍してない生の鮭……美味いよこんなもん。
熟成はポセイドンの不思議パワーで何とかしてもらった。
「お寿司が素晴らしいですね」
もぐもぐと寿司を頬張るリスティールさん、生の鮭が相当にお気に入りみたいだ。
「ホイル焼きが……こんな良い物だったんですね」
ロナルディなんか、鮭の旨みをたっぷり吸ったキノコに夢中。
「さあ! そろそろ鍋も良いぞ」
今日のメインは石狩鍋な。
鮭と味噌のハーモニーに間違いは無いはず。
「杏にも食べさせてあげたかったですね……」
ふと、リスティールさんがそんな事を言ったら……
「ちゃんと国と交渉して杏にも届くようにしておいた。だからどんなに安くても日本側に魚を売るのを辞めないでくれ」
すげえ……国と交渉なんてほんとに出来んのかよ……
「爆釣は何か勘違いしてるようだが、交渉したのは日本国じゃないぞ、大国主と言う日本の神で、あだ名が国なんだよ」
なんじゃそりゃ?
「神様と交渉して、なんで杏に届くんだ?」
「観光地化されてる裏出雲大社に納品されるって話した事は無かったか? そこの主が大国主でな。エデンから納品された分から、ある程度の量を日本全国の児童養護施設なんかに寄付して貰ってるんだ」
ほえぇ〜神様がそんな事してんのか……
「喜んでくれてるかな?」
きっと喜んでくれてるはず。混ぜ込みワカメシリーズでも鮭が1番好きだったし。
「数日前に届けたアジはフライになってたぞ。タルタルソースかウスターソースで悩む顔が可愛かった」
なに!
「杏の事、見に行っても大丈夫なのかよ?」
「見た目は変えてるからな。アバター変化ってやつでな」
結局、何処に居て、どんな感じに成長してなんて話は1つもしてくれなかった。
でも元気な事は間違いないってさ。
「届くのであれば、やる気も出ますね。ポセイドン様、果物や野菜も届けられるのでしょうか?」
「子供服を沢山作って届けてあげたいですね」
「どうなったかを教える事は今以上には出来ないが、寄付する物を届けるくらい面倒見てやる」
そんなポセイドンの言葉で、毎日の仕事に気合いが入る気がした。
「鮭フレーク、沢山作って瓶に詰めるから杏の朝ごはんに持って行って」
あればあっただけ食べるポムが作った鮭フレーク……
瓶詰めされて、エデンの特産品の1つになるなんて、この時は考えてもいなかった。
「明日にはイクラもちょうど良い漬かり具合いになってるだろうから、鮭とイクラの海鮮親子丼でもどうだ?」
おお! それは素晴らしい。
「贅沢にてんこ盛りイクラを乗せたい」
無言で食べ続けてたポムが、瞬時に反応して……
「イクラですか……匂いが……」
ロナルディは顔を顰めてた。
石狩鍋がどうなったかって? そんなもん皆の腹に収まったよ。
言わなくても分かるだろ、めちゃくちゃ美味かったし。
読んで貰えて感謝です。




