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風速53m


 南風がキツくなってきた夕方、空を見れば雲の流れがめちゃくちゃ早くて台風前だなって感じ。


 時間が経つほどにどんどん風が強くなって来て、コンテナハウスを固定したボブロープが少し心配になってくる。


「僕達は杏博物館を守りに行きますね」


 夜飯食い終わってからロナルディがそんな事を言うもんだから着いて行ったら、ゴーヤが巻きついてるコンテナハウスの前でゴーヤに向かって……


「風と森の挽歌」


 ロナルディが呟いた瞬間、ロナルディの体にゴーヤの蔓や根が巻き付いたんだ。


「ああやって、植物の栄養になってるの。エルフを栄養にした植物はちょっとやそっとじゃ壊せない、とんでもない物に変化するんだよ」


 俺の知らない魔法の知識をポムが補足してくれる。


「これだけじゃ足りないですね、上は強化されましたが下が疎かですし」


 リスティールさんがロナルディの足元まで行って、しゃがみ込んでロナルディの両足に抱き着いたと思ったら……


「岩と土の賛歌」


 体が土気色に変化してリスティールさんの下半身が地面と同化しちゃった。


「それをドワーフが支えたら、邪神でも受け止められる大地の支えになるの」


 自分たちが使ってるコンテナハウスより、杏の思い出が詰まったコンテナの方が大切なんだってさ。


「私と爆釣は、住む所を守らないとね」

「うん……」


 責任重大だな。


 ロナルディとリスティールさんは、魔法を使ってる間は動けないらしい。

 意識はあるから風が弱くなったら元に戻るから心配しなくていいだってさ。


 畑の方を見れば、野菜や果物に添えてある添え木が太い物に変わってて、山の事を聞いたら、動物や虫達に避難所を作ってきましたって言ってた。


「何となくだけど……人間が1番役に立ってない気がするんだよな」


「そんな事無いと思うよ。私なんて安全な所に逃げて、何もかも終わったら帰ってくるつもりだったし。台風対策をちゃんと知ってるだけで十分じゃない?」


 そんなもんなんかな……




 スマホで天気予報を確認したら、台風の移動する速さはそこそこ早くて、1晩くらいで通り過ぎる感じなんだけど、中心気圧が940hPaくらいになって、台風もどんどん大型化していくんだ。


「雨……大丈夫なのかな?」


「あの魔法を使ってる時は自然と一体になってるから、雨なんて気にならないらしいよ」


 凄いなエルフとドワーフ……


 ポムと2人で飛びそうな物は全部倉庫にしてるコンテナにしまったし、風が強くなっても大丈夫だと思いたい。


「平均風速53mか……細かく予報してくれてるんだな」


 瞬間最大風速70mか……車大丈夫かな?


「どんどん風が強くなってくるね」


「停電しないのは助かるよな」


 ポセイドンが用意してくれたコンセントは、どこにも電線が繋がって無いのに電気が来てる不思議コンセントで、災害が起きても停電しないんだって。


「ポセイどんって2日前だっけ? 顔出したの」


「今日あたり帰ってきそうだったんだけど、何かあったのかな?」


 雑談しながら外の様子を伺ってるけど、どんどん雨と風が強くなってくる。


「とりあえず、やること無いし寝るか」


「そだね、明日は朝早くに起きて後片付けしないとだもん」


 外の音はうるさいけど寝れない程じゃないし。


「おやすみ」「うん、おやすみなさい」


 電気を消してウトウトし始めて……


「あっ! 釣政丸!」


 船の事を思い出したんだ。


 何もしてないんだよ、台風対策。


「ちょっと行ってくる!」


「どうしたのこんな時に?」


 ドアを開けたら外は土砂降りで風もキツイけど……

 木製の桟橋に横付けして、ロープもそんなに太くない奴で繋いでるだけだし!


 ポムに答えもせずに桟橋にダッシュ。


 俺の馬鹿野郎……




 横殴りの雨と前に進むのもキツイ風を受けながら桟橋の方に向かって歩いてんだけどさ……

 

「なんだよこれ……ちくしょう」


 体を前に動かすだけで、めちゃくちゃ体力を使うんだ。


 遠目に見える湾は高波で荒れて、飛沫が凄い事になってる……


「ばくちょーーー! ダメだよ! こんな時に海に近づいちゃ」


 そうは言ったって船が流されたら……

 流されるだけならいい……沈んだりしたら……


 顔に当たる雨は痛いし、全身びちょ濡れだけどさ……


「やっと楽しくなって来たとこなんだよ! 沈めてたまるか!」


 ポムに向かって叫んだ後に、左頬に衝撃が来て、すっ転んで風に押されて地面に這いつくばった。


「このバカ! こんな日に海に近付いてどうするんだ!」


 海パンいっちょのポセイドンに殴られたみたい。


「爺ちゃんの船が沈んだらどうすんだよ!」


 ポセイドンを睨みつけて、立ち上がって船に向かおうとしたら肩を掴まれた……


「お前はなんの為に防波堤を作ったんだ! 釣りの為か? 防波堤は何の為にある! ちゃんと思い出せ!」


 防波堤……


「人間が長い時間を掛けて自然に対抗しようと培った技術を舐めるな! 防波堤はなんの為にある! 答えろ!」


「防波堤は波を防ぐため……」


 ああ……そうか……忘れてた……


「小政島や防波堤があるから湾内は大丈夫だ。もしか大丈夫じゃなくても俺が居る!」


 追い付いてきたポムと、少し怒ってるポセイドンに引き摺られるようにコンテナハウスに連れ戻されちまった。




 コンテナハウスに戻って来て、ポムとポセイドンに頭を下げた。


 2人とも気にするなって言ってくれる。


「しかし、何も考えずに暖流を引っ張ったせいで台風がヤバい事になったな」


「ポセどん、こんなの毎年来たら嫌だよ」


 確かに、こんな台風が毎年来るなら大変だろうな。


「台風を発生させないように、南の海の海水温を少し下がるように海流をいじるか」


「そんな事出来んの?」


 海流をいじっただけで台風って出来なくなるんだろうか?


「温かい海水が蒸発する時の気圧の変化で台風ができるんだよ、海水温を28℃程度に抑えれば、台風が出来たとしても小さな物で済む」


「さすが海の神様。ちょっと見直したかも」


「もっと褒めてくれて良いんだぞポムちゃん」


 いい笑顔でサムズアップのポセイドンだけどさ、今日はイラッとしない。


「ちょっと台風の進行速度を早くして来る」なんて言ってポセイドンが出て行って、1時間くらいだろうか、雨も風も止んだんだ。


「爆釣、ほっぺた大丈夫?」


「少し痛いけど、腫れてるか?」


 触ってもあんまり分からない、少し痛いだけだし。


「鏡見てみる?」「だな」


 ポムから渡された手鏡で顔を見たら……


「あんちくしょう! やりやがったな!」


「ぷぷぷっ。やっと気付いたww」


 ほっぺたにバカって書いてあった。




 台風も通り過ぎて、ロナルディとリスティールさんも家に帰って着替えて来た、俺の顔を見て2人が何があったのか聞いてくるんだけど、少し恥ずかしい。


「とりあえず船がどうなったか見に行きますか?」


「それなら心配要らんぞ、ついでだったからインベントリにしまっておいたからな」


 ロナルディに言われて船を見に行こうと思ったら、ポセイドンが帰って来た。


「どんなに大きくても風速30mを超えるような台風はもう来ない。うっかりしてた俺が悪かった」


「なんも悪くないだろ? 相手は自然なんだから」


 俺の方がポムに心配掛けて申し訳ないもんな。


「あちゃ……外トイレ倒れてる……」


 最初の頃に買った生分解エコトイレ……倒れてら。


「うわ……中が酷い……」


「臭いですね……」「これは……」


「爆釣。台風の日に海に近付こうとした罰だ。お前が片付けろ」


 倒れてるエコトイレのドアを開けたら便座が割れてて……


「廃棄かな……」


 そうだ!


「買い取りアプリで買い取ってもらおう」


 買い取りアプリを起動して売却。


「故障してるから廃棄料取られた……」


「あらま、いくら使ったの?」


 明細を見たら、故障中生分解エコトイレ-1500Pって書いてあった……


「1500ポイント取られたし」


「それくらいなら良かったじゃん」


 でももう一度買うのに5万ポイント使うのか、ちょっと悩むな。


「ほっぺにバカって書いてあるのに悩んでるのって、少し滑稽だね」


「消さないんですか?」


 そうだった……


「ハハハッ! 芸術の神の特製インクだから3日は消えずにそのままだぞ」


「まっ! マジか! ふざけんなよ!」


 ポセイドンを追い掛ける俺を見て3人が苦笑い……


 台風が通り過ぎた後の空は、雲1つ無くて青く澄んでて綺麗だった。


 

読んで貰えて感謝です。

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