4人の願い
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風呂場で衰弱死するんだっけ……
杏を連れて行かれて丸1日、次の日の正午くらい。
昨日の昼も夜も今朝も食べたのは、作り置きして冷凍してたヤツをチンして食べただけ。
こんな時でも腹は減るのが少し悔しい。
「ポセイドン様、帰って来ないですね」
「そろそろ帰って来て良いんだけどな」
ポムもリスティールさんも時計を見てソワソワしてる。
「地球とは時間の流れが違うんだよな?」
前にポセイドンが言ってた気がする。
「早く結果を知りたいんですけどね」
杏がどうなったか、俺達の知りたい事なんてただそれだけ。
噂をすればなんとやらってやつだな。
突然現れた海パンいっちょのポセイドンが血相変えて飛び掛ってきたし。
「お前達は何をした! 杏に何をしたんだ!」
行く時は悲壮感漂う顔だったのに、今はほころんでる。
ポセイドンの顔を見て、俺達4人は成功したって確信したんだ。
「やっぱり杏は賢い子です」
「杏ちゃん良くやった!」
ロナルディとリスティールさんは抱き合って喜んでるし。
「ぶぇぇぇ……よがったぁぁぁぁ」
ポムは大号泣してるし……
「誰が神頼みなんてするか! ざまあみろ!」
唖然とするポセイドンをしり目に、俺は今までの人生で1番のガッツポーズ。
「なあ、お前達……何をしたんだ……」
そりゃ色々とな。
俺達が何をしたか教える前に、杏がどうなったかをポセイドンに教えて貰った。
「風呂場から出てくるなと親にキツく言われて、親に絶対逆らえない杏は風呂場から出ることも無くそのまま衰弱死する予定だったんだ。なのに何故杏が外に出る?」
虐待を受けて、親の言うことは絶対に逆らうなと教えこまれていた杏だったけど……
「大人だって間違う事もあって、ごめんなさいしなきゃいけないって教えただろ?」
ポセイドンにわざわざ頭を下げて貰ったもんな。
「教えたが……何故に全身が虐待を受けて動かない程に怪我をしていて歩けるのだ!」
それは……
「苦くても食べれただろ?」
「その為に色々と苦労しましたもんね」
苦いと聞いて何かを察したポセイドン。
「日々野菜を美味しく食べて貰う努力をしておいて良かったです」
「そのまま食べたら苦いだけの世界樹も食べれるようになってましたもんね」
ポセイドンの顔色が変わったな……
「世界樹をどうやって杏に届けた!」
届けた? そんな事してないぞ。
「お前の兄ちゃんが、それくらいなら構わんって言ったんだろ?」
「ポセイドン様、届けてませんよ。持って行かせたんです」
そう、持って行かせたんだ。
「御守りって袋になってて、普通だと中になんか入ってるでしょ?」
「神頼みなんか誰がするかっつーの。中にレタスの欠片を入れてたんだ」
体が痛い時は、御守りの中に薬が入ってるから、ちゃんと噛んで飲み込みなさいって教えといた。
「はしゃぎ回って転んだ後に、自分で御守りを開けて中に入ってる世界樹の乾燥片を食べるように、この3日何回も教えましたからね」
3日間何も考えずに5人ではしゃぎ回ってた訳じゃ無いんだ。
転んで怪我する度に、御守りの中身を食べるように教えてた。
「お前達……」
立ってた場所にへたり込んだポセイドン、目に涙をいっぱい溜めてやんの。
「ちゃんと看板も読めたんだろ?」
そこも何回もスマホの画面を見せて教えた。
「ああ……1人で外に出て、ちゃんと子供110番の看板を見つけて助けを求めたさ……」
「流石です杏。やっぱり私の杏は賢い子でした」
一緒に漢字の勉強をしてたリスティールさんが飛び跳ねてる。
「私の教え方良かったんだよ! きっとそう」
ポムなんか凄いドヤ顔。
「怪我は治っても衰弱した体は治らないから心配だったんだよ」
「なあ、お前達……」
ポセイドンに声を掛けられて4人がポセイドンを注目した瞬間……
「最高かよ!」なんてデカい声で叫びながら抱き着いてきた。
「半裸の男に抱き着かれる趣味はないんだよ」
俺は避けて……
「それはちょっと……」「びちょ濡れのままでは……」
ロナルディとリスティールさんにも避けられて……
「鉄山靠」ポムに吹っ飛ばされて地面に転がったポセイドンは大笑いしてた。
「冥王を欺くとか、お前達最高か!」
なんて言いながら。
結局の所、杏がどうなったか。
風呂場で目覚めた杏は、体が痛いから御守りから世界樹の乾燥片を出して食べて、怪我が治った後に風呂場から出て、そのまま玄関を開けて外に出た。
アパートの階段を降りて、アパートの敷地を出たらすぐ近くに子供110番ってシールが貼ってある家があって、そこまで歩いて行って中に向かって叫んだみたい。
「助けて下さい」ってな。
スマホのマップで検索しまくって、ストリートビューで何回も見せたから覚えてくれてたみたいだ。
杏の魂を体に戻した直後に、それを確認してポセイドンの兄ちゃんは自分の居場所に帰って行ったらしくて、その後を見てたのはポセイドンだけだったらしい。
「生者を無理矢理死者にすることなんて兄ちゃんは絶対にやらんよ、そこはクソ真面目だからな」
だってさ。
杏の過ごした部屋はそのまま残しときたいからって、俺とポムが住むコンテナハウスは新しく買った。
コンテナハウスの周りを囲むゴーヤはロナルディが毎日手入れしてくれるってさ。
部屋の掃除は毎回皆で一緒にやろうって決めた。
「俺は日本で少しやりたい事が出来た。地獄に来る頻度は減ると思うが気にするな」
そんな事を言ってソワソワしてたポセイドン。
「週1くらい顔を出せよ」
居なきゃ居ないで心配なんだよ、神様を心配するってどうなのか? なんて思うけどさ。
「週3くらいで顔は出すぞ」
ちっ……心配して損した。
「それにしても、何時から考えてたんだ?」
「そんなの連れて来た時からだよ」
楽しい思い出ひとつってポセイドンに言われて、何時か日本に帰さないといけない時が来るんだろうなって思ってた。
「爆釣から子供を助けてくれる場所が近くにあるって聞いてたから、そこを自分で探せるように勉強させないとって思ったの」
杏の物を一つ一つ丁寧にしまっていく俺達、服とかぬいぐるみとか、布団とか……
スケッチブックとか……
「ほんとヘタクソな絵だよな……」
「まだ7歳ですからね、これからですよ」
杏にはこれからなんて無かったはずなんだ、でも今は違う。
「そうだね、これから色々出来るんだもんね」
「これからを作ったのはお前達4人のおかげだ。俺には何一つ思い浮かばなかったからな」
ポセイドンのヤツ、卑屈になってんな。
「お前が連れて来てくれたから、何か出来たんだ。1番気合い入ってたのはお前だろ? 戦争とか仕掛けようとしてたじゃん」
「戦争なんてしてる場合じゃないな……海の財力を舐めるなよ、国と交渉して保護された子供達を守る法を整備させよう」
ふんすっなんて気合い入れてやんの。
「凹んだ顔してるより、ふてぶてしい顔の方がポセイどんらしくて良いと思うぞ」
「しかしポセイドン様。地上に手を出して大丈夫なのですか?」
あっそれは俺も思った。
「ふっ。トライデントは兄ちゃんの手の中だからな。あれが無ければ俺は海の神じゃなくなる。だから地上で何をしても問題無いんだよ。とは言っても神としての力の殆どが使えないんだけどな」
やっぱり大切な物だったみたい……
「どうすんだよ? 大事にしてたんだろ?」
「そりゃな、アレは海の力を宿した海その物だったんだ。だけどな……海は地獄にもあるだろ?」
島の周りはぐるっと海だな……
「我が手に集まれ海よ!」
突然ポセイドンが海に向かって叫んだら……
ボワッと光る何かがポセイドンの手に集まって来た。
「これを濃縮すればトライデントになるんだよ。海さえあればいくらでも作り出す事が出来るんだ。1本くらい預けて居ても問題なんて皆無さ」
笑顔でこっちを見ながら光を纏めていくポセイドンなんだけど……
「なあ……それがあのヤスと同じなんか?」
ポセイドンの手に握られてるのは……
「爆釣! 今すぐ海を拡張してくれ! こんなのじゃ嫌だ!」
先が3つに別れてる銀色のフォークで……
「あっ! 何となく夜はパスタが食べたくなった」
「シーフードパスタが良い!」
「ポセイドン様、お気を確かに。私はカルボナーラで」
「僕はバジルを効かせたパスタが良いなあ……」
それを見た俺達の反応はそんな感じで……
「コレはフォークじゃなくてトライデントなんだよ、コレでパスタは食べないぞ!」
海の範囲を拡げたいけど、数日遊び惚けてたからポイント残高不足なんだよ。
「そのうち海も拡張するよ」
読んで貰えて感謝です。




