バレた
。
練乳たっぷり掛けて、大量のフルーツを乗せたカキ氷を一気食いして頭がキーン。
ここ最近暑すぎて毎日やってる。
「あぢぃー。なんもやる気が出ねぇー」
とは言っても、ある程度収入が無いと島や海の拡張も出来ないし、明け方だけ働いてるんだけどな。
「ポセおじちゃんって何処に行ったんだろうね?」
海の拠点でかき氷を食べてる俺達だけど、ここ数日ポセイドンが帰って来ない。
「ポセどんも色々やる事があるんだよ。そのうち帰って来るんだし心配しなくて大丈夫だよ」
何も言わずに数日帰って来ないなんて、今まで1回も無かったんだけどな。
「次にどんな魚を連れて来るか色々と探し回っているのでは?」
普段なら長袖長ズボンなロナルディだけど、ここ最近の暑さに負けて半袖ハーパン姿。
イケメンは何を着ても似合うのが少し悔しい。
驚いたのはリスティールさんで、暑いのも寒いのもなんともないらしく、いつも通り長袖と足首まで隠れるスカート姿……
見てるだけで暑い。
「杏、3時のオヤツは何を乗せて食べたい?」
にこやかに今日のパフェの具を聞くリスティールさんと。
「う〜ん……メロン!」
とびっきりの笑顔で答える杏。
子供は暑くても元気だ。
「果肉がオレンジ色のメロンは美味しいですからね、半分に切ってそのまま器にしちゃいましょう」
先日購入したメロンの種が、もう実を付けてんだな……2週間くらいで育つとか日本の農家さんはビックリだよ。
「夜はサッパリしたもん食いてえな、なんかあったっけ?」
ここ最近は毎日昼からダラダラしてるから、仕事終わりのビールってのもやってないな……
「私もサッパリした物が良いかも……南蛮漬けでも作ろうか?」
デカい角氷にバスタオルを巻いて抱いてるポム。
クーラーの効いた部屋でゴロゴロしたいって言ってたのを無理矢理連れ出したんだけど、結局レジャーシートの上で氷を抱いてゴロゴロしてる。
「んじゃちょっと海苔でも見てくるかな、昼は海岸で食べるからおにぎり出してくれよ」
出してくれよって言い終わったとほぼ同時に……
「爆釣! 逃げてくれ!」
声のした方を見たら……顔を腫らしたポセイドンが、大慌てで焦った顔をしながら叫ぶんだ。
俺達5人には何があったかなんて分からないけど、ポセイドンがあんなに焦るなんて杏を連れて来た日以来で、大変な事が起きてるのかな? なんて頭の中をよぎったんだけど……
「何処に逃げると言うのだ、馬鹿を言うんじゃないポセ」
なんとなく雰囲気がポセイドンと似てる、黒髪で短髪のイケメンおじさんと、真っ黒に日焼けした40過ぎくらいのおっちゃんが、ポセイドンの後ろから俺達の方に向かって歩いてくる所だった。
「杏! 杏! どうしたの!」
リスティールさんの隣で漢字の書き取りをしてた杏が、スイッチの切れたロボットみたいに、動かなくなって机に突っ伏して……
「フシャーーーーー!」
ポムは猫型に戻って全身の毛を逆立てて威嚇してるし……
「風精霊の加護! 森精霊の加護!」
ロナルディは弓を構えて、魔法を使ってる所だった。
俺は訳わかんねえけど、ここで逃げちゃダメな気がしたんだ。だから……
「そんな事言ったって逃げも隠れも出来ねえだろ? どちら様ですか? 俺は魚釣 爆釣です」
「猫、エルフ、身分をわきまえろ」
俺の方をチラ見すらせずに黒髪イケメンさんがポムとロナルディに向かって怒った感じで話し掛けたら……
「ぶにゃっ!」「ぐはっ!」
何かに押し潰されたみたく、2人が地面に這いつくばった……
「なあ。こっちは礼儀を守って自己紹介からしたんだぞ、ガン無視とか何様?」
「ふっ……お前の上司だ。人間如きに名を教える程落ちぶれちゃいないから名乗らんがな」
うわぁ……偉そう……
「爆釣……偉そうじゃない……偉いんだ」
殴られて腫れ上がった顔で、泣きそうな顔をしてポセイドンが俺に話し掛けてくる。
「あー、あんたが何も言わずに無理矢理拉致して、無理矢理強制労働させてる上司か。これまでの給料くれ。無報酬で働くとか労働者舐めてんのか?」
偉そうな奴の後ろに居る日焼けしたおっちゃんは、ただ見てるだけで何も言わない。
「下郎、身をわきまえよ」
何かされてんだろうな……でもなんも起きないんだけど……
「兄ちゃん、流石にそれは俺でも看過できない」
俺の目の前にポセイドンの背中があって、普段持ってるヤスが大きくなってて……
ポセイドンが兄ちゃんって呼んだ相手に向かってヤスを構えてた。
しばらく睨み合ってた2人だったけど、その場で最初に動いたのは、ずっと静かだった日焼けしたおっちゃん。
ポムとロナルディとリスティールさんの方に向かってあるいていって、何かを話し掛けてる。
「ポセ。お前の今回のワガママで何が起きるか後ろの無知な人間に教えてやれ。それくらい出来るだろ?」
「ぐぬぬ……」
どうして良いか分からない俺はポセイドンの言葉を待ってんだけど、偉そうな黒髪のポセイドンから兄ちゃんって呼ばれたオッサンが急に声を荒らげて……
「魂の総量が変われば世界の崩壊に繋がる、正式な手続きを踏まずに魂を奪う事を、神であるお前がワガママでやって良い事だったのか?」
「分かってるさ! そんなの分かってる。俺が自分で海を選んだのも、海の神の俺が地上の生き物に手を差し伸べるのがどれだけ悪いのかも、海のバランスを保つのが俺の使命なのも分かってる!」
2人の間で何かをしてるんだろうな、お互いにおびただしい汗をかいて、ポセイドンなんか顔が青ざめてる……
「分かってても知ってしまったんだ……見過ごせ無いだろ……」
尻すぼみになってくポセイドンの声が震えてて……
「なあポセイどん。お前って海の事だったら万能なんだろ? 俺達の事なんか気にしないで、海に逃げちゃえよ」
動かなくなった杏を抱き抱えてさ。海の中なら無敵なんだろ?
「俺も杏も死ぬのは仕方ないんだろ? だったら気にすんなよ」
よく覚えてないけど、俺は1度溺れて死んでる。杏は日本に帰ったら1日もたずに死んでしまう。
だから俺とか杏の事なんか気にすんなよ。
ポムとロナルディとリスティールさんは、日焼けしたおっちゃんが守ってくれてるみたいだし、やっちゃえよ……
心の中で、そんな事を考えたら……
「今回の事は全部俺のワガママだ。責任は俺が取る」
「ほう……どうとると言うのだ?」
何してんだよ……
「コレを預けるさ。どんな意味があるのか、兄ちゃんならよく分かってるだろ?」
先が三又に別れたヤスを差し出すポセイドン……
「海の神を辞めるのか? それは地球の海そのものだろ?」
「兄ちゃんに預けとく、地球に帰った時は仕事で使うから返してくれ。普段から海である事を止めるさ」
凄い大切な物なんだろうな。ヤス1本でポセイドンの兄ちゃんの顔がほころんだ……
「そこまで覚悟してるなら許してやらんとな。なあポセ、何時までも優しい顔なんかしてないで、何時ものお前に戻れ。荒れ狂う海の神に戻るなら、今すぐにでもトライデントは返そうじゃないか」
荒れ狂う海神なの? よく分からん。
「今のままで良い。今回の事は本当に悪かったと思ってる。だからな……」
だから?
「アイツらは罪に問わないでやって欲しい」
そう言って俺達をぐるっと見回すポセイドン。
罪? 何かしたっけ? なんもしてないよな……
俺ってば田舎の造船所の従業員で、小さい頃から昭和な漁師さん達を見てて、じいちゃんの武勇伝を沢山聞いて、何度も漁師さん達の殴り合いに巻き込まれて……喧嘩っ早いんだよ……
「なんの真似だ? なあ下郎」
硬い…………
ポセイドンと話してるのに夢中なポセイドンの兄ちゃんの目の前に行って股間を蹴り上げたんだけど……
「いっでぇぇぇぇぇ!」
「爆釣! 今すぐ世界樹を食え!」
足が触れた部分が焼けるように痛くて……立ってられなくて……
「ふっ……そのまま腐り果ててしまうが良い」
リスティールさんがポケットに常備してる世界樹を口にねじ込んでくれるまで、焼けるような痛みと腐臭がする足を抑えて、のたうち回りながら……
「イケメンは大っ嫌いなんだよ!」
なんて叫んでた。実を言うと爺ちゃんにそっくりな俺は、人相が悪くて厳つい顔してて、顔だけで損してた。
イケメンとは程遠い顔をしてて、イケメンは嫌いなんだ、顔だけで得しやがって。
読んで貰えて感謝です。




