夕焼けとBBQ
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海の拠点から延長コード引っ張って来て、それに結構デカい照明器具を繋げて、たまには暗くなるまで外に居ようBBQ。
バーベキューは大人数でワイワイやりながらが、やっぱり楽しい。
準備した食材は、ガーリックパウダーを塗り込んだ肉とか、ちゃんと下味付けた魚とか、砂抜きした貝とか、野菜もてんこ盛り。
余ったら明日の朝飯になるから、それぞれ大量に用意してあるよ。
「相変わらず、貝を焼く時は黙ってるんだな」
「2人とも真剣過ぎて怖いですね」
ポセイドンとポムが超真剣な目付きで貝を睨み付けてる。
肉と野菜のコンロ、魚と貝のコンロは分けてるよ。
行儀は悪いけど、皆トングを箸替わりに直接食べてる。
「あ〜ん」
杏にほど良く焼けた肉をあ〜んしてみたら。
「あっ! 歯が……」
前歯が1本抜けちゃった……
「グラグラだったもんな。痛くないか?」
「うん、痛くないよ。でもお肉が噛みきれない……」
食べやすいようにハサミで小さく切り分けて杏に肉を渡してたら、ロナルディがエリンギを杏に食べさせてる……
「1本分食べたら永久歯が生えて来るからね」
なんですと? また不思議な食べ物だ!
「歯が生えてくるの?」
抜けた歯を指で摘んでる杏にだけど、前歯が1本無いからアホっぽく見える……
「変な角度に生えないように補助するから口を少し開けて」
「うん」
ロナルディが魔法を使って出っ歯にならないように補助しつつ生えてきた前歯は、真っ白で綺麗な歯……
「すげえな、虫歯も治ったりする?」
「もちろん治りますよ。虫歯があるなら治しましょうか?」
険しい目付きで貝を睨み付けるポセイドンとポムに挟まれて、少し困ってたリスティールさんをロナルディが呼んだんだけど。
「リスティ。爆釣さんの虫歯の治療と再石灰化よろしく」
「あら、虫歯があったのですね。早く言ってくれたら良かったのに」
うがいして、口を大きく開けてリスティールさんに見せたら、口の中に指を突っ込まれて……
「熱い、にゃにほれ?」
口の中が熱いんだ……
「欠けた部分も虫歯も綺麗に治りましたよ、でも少し歯並びが悪いですね」
どうやらドワーフさんは、鉱物だったらなんでも出来るなんて種族らしくて、歯も鉱物の一種だから自由に出来るんだって。
歯医者はドワーフが片手間でアルバイト程度にやってる職業なんだと。
ちょっと熱いだけで、歯が綺麗になってるのはビックリ。
「ホワイトニングもしときますか?」
「そんなのも出来るの? お願いしていいかな?」
後で鏡を見るのが楽しみだ。
「今だ杏! ここでハマグリに貪りつくんだ!」
「杏! 今がアワビの最高到達点だよ!」
前歯が揃って魚貝類用のコンロを見に行った杏だったけど、ポセイドンとポムに捕まった……
アワビもハマグリも、その状態は熱いだろ!
「火傷しないようにフーフーしてから食べるんだぞ」
「うん!」
焼きハマグリで火傷しないようにトングで自分の皿にハマグリを乗せてフーフーする杏を見て2人が唖然としてる……
そんなので口の中を火傷させるなよって本気で思うから、アワビは俺が奪って食べやすい様にちゃんと1口サイズに切ってから杏の皿に乗せといた。
「なっ! 何をするんだ爆釣。冷ましてしまったらハマグリの美味さが半減してしまうんだぞ!」
「アワビなんて大きいのを一気にかぶりつくのが良いのに!」
まったく……
「お前達2人ならそれで良いかもな。杏の口のサイズと人間の口の性能分かってんのか? あの状態で食べたら火傷するだけだぞ?」
「迂闊だった!」「子供って猫舌なの?」
ポムは獣人型でも小さくなれるからって、子供サイズになって、熱々の貝を食べようとして目の前に持ってきて断念。
ポセイドンは自分の迂闊さを猛省中。
「バーベキューなんて美味い不味いより、楽しいか楽しくないかだろ? 食べ方なんて人それぞれなんだから気にすんなよ」
俺がポセイドンとポムに説教してたら、ロナルディとリスティールさんは青ざめてて、杏は俺に向かって。
「ポセおじちゃんも、ポムお母さんも反省してると思うの。バクおじちゃん許してあげて」
なんて俺の服を掴んで言うもんだから。
「大人もちゃんとごめんなさいは言わないとダメなんだから、ごめんなさいって言うまで許さないんだよ」
大人だって言わないとだろ。
「杏。本当にゴメンな、俺が無理を言った」
「杏の口には大きかったね。私が悪かった、ごめんなさい」
「うん。杏は気にしてないよ」
よし! それでいい。
ロナルディとリスティールさんは「神が子供に頭を下げた」とか「ポセイドン様が杏に屈した」とか驚愕してるけどさ……
「ここには身分も立場も関係無い6人しか居ないの、上下関係の無い場所に神とか人間とかどうでもいい。」
前に杏が言ってた「大人はごめんなさいって言わないんだよ」って言葉を否定できたかな?
杏に頭をなでなでされてるポセイドンが少し羨ましい……
「ポセおじちゃん怒られちゃった、元気出してね」
なんて言われながら……
ポムも頭を杏の前にやって撫でられてる……
「バクおじちゃん、もう怒っちゃダメ。2人にごめんして」
「うっ……ポセイどん、ポム、言い過ぎたゴメン」
杏に庇われた2人の勝ち誇った顔が少しイラッとした。
バーベキューの後片付けも終わって、露天風呂に来た時間はちょうど夕焼けが綺麗な時間で、小政島の南をかすめて沈む夕日と、オレンジ色の空のコントラストがめちゃくちゃ綺麗。
「爆釣、アレで良かったか?」
「うん。俺達の中で1番偉そうなポセイどんが謝ってくれたのは、凄い大きな意味があったと思う」
バーベキュー中の事な、俺が頼んどいたんだ。
「ポムも巻き込まれるとは思って無かったけど、結果を見たら、アレで良かったのかもな」
「どういう事ですか?」
俺とポセイドンが夕日を見ながら話してるとロナルディが疑問に思ったらしい。
「ごめん、ロナルディにも話しとくべきだったよな」
「さっき杏に頭を下げたのは、爆釣に頼まれてたからなんだ」
思考をポセイドンに繋げて貰って頭の中で会話するのに切り替えた。
女湯に声が聞こえたら嫌だから。
「杏はな、親に虐待を受けていた。その間にどんなに嫌な事をされても大人のやる事、大人の言うことは絶対に守らなければならないと、嫌と言ってはいけないと刷り込まれてしまっていた」
「杏って、自分で何かをしたい、自分で何かが欲しいとは言わなかっただろ? それを変えたかったんだよ」
「なるほど。次から僕やリスティにも手伝わせて下さいね」
うん。そうするって心の中で答えといた。
風呂から上がって、普段なら真っ直ぐ家に帰るんだけど、今日はもう一度砂浜に来た、だいぶ空も暗くなって、もうちょいで完全に夕日も沈む時間。
夏と言えば花火だろ?
手で持って遊ぶ花火を大量に買っといたんだ。
「ハハハッ! 杏見てみろ」
ポセイドンが両手に大量に花火を持ってクルクル回しながら砂浜を走ってる。
危ないけど凄い綺麗。
「火傷しないのかよ?」
「俺は海だぞ。海が火傷なんてすると思うか? 火には最高クラスの耐性を持ってるさ」
そうなの?
「どんな炎でもポセイドン様は全く効かないんですよ、そこは流石だと思いますね」
俺とロナルディは落下傘の入ってる打ち上げ花火を設置中。
「杏が真似したらどうすんだよ、まったく……」
「その時はポムさんもリスティも傍に居ますから、心配なんかしないで」
杏もポムもリスティールさんも、3人お揃いの浴衣姿で、手に1本ずつ花火を持ってる。
水着姿より浴衣姿のポムの方が直視出来なかったりして、少し困ってんだ。
「おーい、準備出来たぞー!」
俺の声に4人がこっちを見て、ロナルディが指先から出した魔法で、打ち上げ花火に火を着けてくれた。
真下から見る打ち上げ花火も、案外綺麗だったよ。
読んで貰えて感謝です。




