蟹
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ここ数日、雨ばっかりで、ついに梅雨入りしたかな? なんて感じの天気が続いてて、天気予報を見たら梅雨前線が島の南側に停滞してる。
農作物には恵みの雨で漁業関係者には辛い時期、収入は激減なのが普通なんだけど、元々そんなに収入があった訳じゃ無いから、あんまり変わってない。
喜んで良いのか、悔しがった方が良いのか、微妙な感じ。
最近猫に戻らなくなったポムと、寝る時は猫耳フードの付いたパジャマを着て寝てる杏を起こさないように、こっそりと準備して海に出掛ける。
「行ってきま」って小さい声で言って、俺1人朝から漁に出掛ける毎日。
「ん〜雨ぇ〜……」
晴れてれば明るい時間なんだけど、雨降ってるからまだ暗い。
「爆釣、カゴを見に行くのか?」
「おはようポセイどん。蟹カゴとイカカゴと、ついでに蛸壺もな」
ポセイドンに教えて貰ったポイントに蟹カゴとイカカゴを前日の夕方に仕掛けてんだ。蛸壺は放置しっ放し。
なんか本格的に漁師として生きる事が楽しくなって来た今日この頃。
朝飯に、昨日の夜の余り物のおかずと、ポムの作り貯めてるおにぎりを2個ずつ、俺とポセイドンの定番朝のメニューだったりする。
「リスティールに工房を与えたのは正解だったな、まさかここまで器用だとは思わなかったぞ」
「それは俺も同感」
杏が毎日少しずつ元気になって行く日々の中で、土いじりだけじゃなくて、杏の服や着ぐるみ、ぬいぐるみとか人形とか作りたいって言うから、コンテナハウス2個買って、繋げて工房にしたんだ。
「竹で蟹カゴとかイカカゴとか作ってくれるなんて考えて無かったよ」
ロナルディに畑とか果樹園とか任せっきりで、工房で制作を楽しんでるリスティールさん、作る工芸品が地味に高値で売れてるらしい。
「リスティールの祖父母も両親も一流の技術者だからな、幼い頃からハンマーしか持った事は無いと言うだけの事はある。身に付けた技術力は凄いものだな」
「それは俺も思う。何させてもモノづくりさせたら上手いもんな」
細々した物は全部作ってくれてたりする。
「ドワーフにモノづくりか……特技を活かすなら、やはり親元に帰すのが良いのかもな……」
それは……
「お前が言ったんだろ? 自分で考えてって。あれって凄い良い事言ってんなって思ったんだし、自信なさげにすんなよ」
「ふっ……そうか。爆釣は俺の信者か、それならかっこ悪い所は見せられんな」
信者……それなら……「豊漁祈願!」
手を合わせてポセイドンに向かって祈っといてやったww
「お前の祈りなんか聞いてやらん、エセ信者めww」
ひっでえww
因みに俺もポセイドンもびしょ濡れで釣政丸に乗り込んでる、もう濡れるのは慣れた。
4時間くらいで見て回れる程度しか仕掛けてないから、2人でやる程の事でも無いけど、バカ話しながらだから、コレはコレで楽しかったりする。
「お〜うじゃうじゃ居る」「毛ガニが大漁だな」
こりゃ蟹祭りだな。
帰る時間で、蟹の大きさを3種類に分けて、食べる分は足が折れてるのとか、甲羅が割れてるのとか。
「オヤツにたこ焼きでも作るか、タコは2匹しかいなかったし」
昼前には仕事も終わって、売却を終わらせたら、ちょうど杏の勉強の時間も終わってる感じだな。
「ただいま。めちゃくちゃ蟹が獲れたから、夜は蟹にしようぜ」
「おかえり、2人とも」「おかえりなさい」
10時のオヤツにホットケーキを食べながら、迎えてくれる。おかえりなさいって言われると嬉しいな。
「ロナルディとリスティールさんは? まだ帰って来てないのか?」
昨日の夕飯の時に、山に放った動物や虫の様子を見に行くって言ってた。どっちもガチャから出て来た奴で動物はつがいで、虫は1種類100匹単位で出て来た。
「タヌキとかアナグマとかが食べる木の実が足りてるか調べて来るって言ってたから、少し遅くなるんじゃないかな? お昼のお弁当も持って行ったし」
俺とポムが会話してる中で、ポセイドンは杏の隣の席をゲットして、一緒になってホットケーキを食べてる。
「大きく口を開けて、あ〜ん」「あーーん」
ちくせう……羨ましいぞ!
3時のオヤツにはロナルディもリスティールさんも帰って来て、皆でたこ焼き食べた後に、俺とポセイドンは蟹を茹でてる。
「毛ガニは分かるよ、でもこの変な蟹って何者だ?」
「それはポムちゃん達の世界の蟹で、スベスベ長毛ガニモドキツルツルヤドカリだな。美味いんだぞ」
「なんじゃそら? スベスベマンジュウガニみたいなもんか?」
長い毛が数本生えてて、甲羅がツルツルしてて、腹の部分がスベスベ。ヤドカリなのこれ?
「本来の長毛ガニとスベスベ長毛ガニの画像を探してみろ、面白いから」
俺のスマホじゃ基本的に地球側の情報しか見れないからポムにスマホ借りてこよ。
「なんかさ、異世界の生き物つっても、そんなに地球の生き物と変わんねえのな」
長毛ガニを調べたら昔の金八先生みたいな髪型してるカニが出て来て、スベスベ長毛ガニを調べたら、長い毛がまばらに生えてる長毛ガニが出て来た。
「そりゃ地球とは兄弟みたいな世界だからな。最高神が地球出身で日本育ちの世界だ、そう大きくは生き物や環境なんて変わらんよ」
「へ〜。そういや共通語が日本語って言ってたもんな、不思議な事もあるもんだと思ってたけど、そう言う事か」
蟹を茹でるなんて、はっきり言って2人で見とくほどの事も無いんだ、でも部屋に戻ると、おままごとに付き合わされるんだよ、ロナルディは犠牲になってる。
「浮気してる旦那を問い詰める妻と、男を庇う浮気相手と慰謝料請求してくる弁護士ってシチュエーションどうにかならんのか?」
あのシチュエーションを杏が理解してるかが凄く気になる……
「それは俺に言われてもだよ、ポムとリスティールさんが始めたんだから……」
「慰謝料に10億円請求します!」なんてセリフを覚えた杏を褒めてあげたい。
「茹で上がったぞー! 運ぶからテーブル空けてくれー」
「はーーい」
蟹を食べる時は無言になるのは、どの世界も共通らしくて、6人とも無言で蟹をほじくってる。
卑怯なのはポムとポセイドン。
ポムは自前の爪で殻をスパスパ切ってくし、ポセイドンは殻ごとバリバリやってる……
「ん」
俺は杏に蟹を剥いて渡す役。自分が食べる分もほじくりながら、ほとんど無言でほじって杏に渡したら。
「うん」って言われてニコってされる。それが嬉しい。
それでも、杏も自分でほじくりたいらしくて、リスティールさんが作ってくれた、カニほじり棒を駆使して身を突っついてる。
ひたすら6人無言の夕飯、蟹祭りは厳かな雰囲気のままに過ぎて行った。
「カニは美味しいけど、静かな夕飯は少し寂しいですね」
「たしかに……」「ダジャレか?」
男三人露天風呂で、ぼーっと遠くの空を眺めて雑談中。雨が止んでくれたから帰りに濡れないし助かった。
「爆釣〜、シャンプー2つ持って行ってない? こっちボディソープが2つ入ってる」
「あーちょいまち。入ってんぞー」
たまにあるんだよな、風呂道具が入ったカゴを整理した後とかに。←ダジャレじゃないぞ。
「ほれ」なんて言いながら、真ん中の壁の上からシャンプーを女湯に「あんがと」って言われながらボディソープを受け取って。
男湯と女湯の真ん中の壁はしっかり見えないように作ってあるから、手首から下は見えてない。
「覗きたいのか?」「ダメですよ爆釣さん、リスティールも入ってるんですから」
「覗くわけねえだろ! 変な事言うなよ」
まったくよう……そりゃちょっとは見てみたいよ……ポムの…………
ダメだ、ポセイドンに頭の中を読まれた……悪い顔してニヤってしてやがる!
「エロいな爆釣は」「ポセイドン様、読心術全開だと可哀想ですよ」
もしかして……
「なあロナルディ、心を読まれるのって、どうにかして防げたりする?」
「それはもちろん。読まれないようにする術もありますよ」
なんとしても手に入れてやる!
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