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♯マテ貝を食す


 びしょ濡れになった俺と杏。

 俺は脱げば良いけど、杏の服はどうすんの? そんな事を考えたら「ロナ、よろしく」なんて言いながら、ポムもリスティールさんもマテ貝に吹っ飛ばされて飛んで来た……


 ザッパーンって目の前に着水して水飛沫を上げる2人、遠くからアクションカムで撮影してるポセイドン、満足気な表情のロナルディ……


「マテ貝掘り出来ねえだろ! どうすんだよコレ」


 巨大マテ貝がうじゃうじゃ居て、あっちこっち穴が空いてんの……

 つま先から頭のてっぺんまでびしょ濡れの杏をポムに預けてポセイドンに近付きながら文句を言ったら。


「異世界のマテ貝はアトラクションだ。襲ってくる訳じゃ無いから気にするな」


 気にするなって言ってポセイドンも打ち上げられて、ボディビルのサイドチェストっての? 変なポージングしつつ「うひょーい」って叫びながら海に向かって飛んでった……

 その後にロナルディから、この惨状を説明されたんだけど、なるほど……


「マセキコってのを食べさせると打ち上げてくれるペット扱いの貝って……」


 海の近くに住んでるダークエルフって種族のエルフさん達だと、これは一般的な遊びらしい。

 ロナルディみたいなエルフって種族だと、夏の訪れを教えてくれる風物詩みたいな遊びなんだと。


 巨大マテ貝に襲われないのか聞いてみたんだけど。


「肉食じゃ無いですし、海水からミネラルを摂取してるんで、殆どエサは与えなくて良いのですが、魔石粉を与えると普段より高く飛ばしてくれるんですよ」


 だ、そうだ。


 懐くんだろうか? 凄く疑問だ、だって貝だぞ……



 でも結局……



「うひょー! すっげー!」「すごーーーーい!」


 落下するのをロナルディに助けて貰わず、海に向かって杏を抱いて飛び込みまくってる……慣れてくると地味に楽しい。


 上手く足から飛び込めなかった時は、すげえ痛いけど……


 杏を庇って背中から着水した時はえぐかった。


「杏、あっちの小さいのに乗って1人で飛んでみる?」

「危ないだろ、無茶させるなよ」


 いつの間にかポムは白に赤の水玉模様の浮き輪を付けてて、深い所にもバンバン飛び込んでるし、リスティールさんとロナルディは1番デカい穴に住んでるヌシっぽいのに2人同時に飛ばして貰ってる。


 杏にも白に水色の水玉模様の浮き輪を渡してるし。


「爆釣、海の安全は俺が居るから大丈夫だ。杏、1人でやってみたいか?」「いいの?」


 ずっと誰かの顔色を伺って、自己主張なんかしなかった杏が……ポセイドンに向かってはにかんでやがる!


「任せたぞポセイどん、少しでも怪我させたらシバくからな!」


 ポセイドンに杏を任せてる間に、俺は小さい穴に塩を撒いて、普通のマテ貝掘り。夜飯のおかずにするんだよ。


 ロナルディやリスティールさんが「魔手(まて)貝の稚貝を食べるなんて」って驚いてるけど、コレは地球版マテ貝で立派な成体だからな。


 干潟をよく見たら棲み分けって言うの? 少し黒っぽい地面には異世界のマテ貝、少し灰色がかってる地面には日本のマテ貝が住んでるみたい。


「びちょびちょだから少し肌寒い……」


 皆が打ち上げられてピョンピョン海に飛び込んでるのを見ながら、俺1人でマテ貝取ってたら、掘るのが気になったのか皆がこっちに歩いて来た。


「タッパに入れてなかったら塩も濡れるとこだったんだからな」


 砂を撒いて、ぴょこっと飛び出して来たマテ貝を引き抜きつつロナルディにお説教。


 杏が不思議そうな顔をして、俺が取ってるマテ貝を見てる。


「杏、やってみる?」「掘って夜ご飯にしましょうか?」


 ポムとリスティールさんに両側守るように囲まれて、マテ貝掘りを見てた杏だけど。


「杏が触っても怒らない?」「怒らない。怒るどころか褒めてやる」


 ニコッてなって、しゃがみこんで飛び出してるマテ貝を指でツンツン……ポセイドンとロナルディは撮影に夢中……


 あっ、ロナルディが巨大マテ貝の穴に落ちた……


「あれ? 杏の服が乾いてる……ってかお前達全員……」


 これは……きっとポセイドンの仕業だ!


「杏が風邪をひいたら大変だろ? お前は頑丈だから大丈夫」「ひっでえ……www」


 


 俺の腰に付けてたビクも満杯になって、潮干狩りも終了。

 6人で風呂に入りに露天風呂に来た。


「貝の砂抜きはやっといてやる。貸してみろ」


 ポセイドンがビクに入った数種類の貝に、ポケットから取り出した海水……


 海水取り出しちゃったよ……


「俺的、瞬間貝の砂抜き、レベル5」


 どうやって保持してるのか分からない海水をビクにかけたら、下から砂と海水が垂れ落ちてきた……


「レベル4まではどうしたんだよ?」

「1から4は無いけどな」


 いい笑顔……歯が光っててイラッとする。


「ポセイドン様……」


 ロナルディも呆れてんぞ。


 まっ、砂抜きが終わったなら良かった。ポセイドンの事だ、バッチリ抜けてるだろうし。


「しかし、ここに風呂を作ったのは正解だな」


「だろ? 思い付いた時に、コレはいける! って思ったもん」

「突貫工事で疲れましたけど、満足のいく出来です」


 小政島の岩がゴツゴツしてる景色と、小政島の南端をかすめて沈んで行く夕日と海のコントラスト……を考えて作ったんだけど……


「もう少し日が落ちればもっと綺麗なんだけど、飯の準備しなくちゃだもんな」


 まだ4時半。だから小政島と海を眺めて、横並びに男3人、並んで浸かってる。


「ポムちゃん、リスティール。杏の着替えは脱衣所に置いてあるからな」


 ポセイドンが女湯に向かって叫んだ。


「私とお揃いのジャージにするの」


 だってよ……

 杏の服はポムとお揃いのもっさいジャージ……もっさいジャージでも、杏はめちゃくちゃ可愛いよ。


「どんなの買ってきたんだよ?」

「フリフリだな」

「ポセイドン様の好みはフリフリの服なのですか?」


 フリフリってどんなのだろ?


「何処ぞの王族にも負けない高級で可愛いドレスだぞ」

「そんなん着せんな。普通に可愛い服で良いよ」

「後でリスティと相談しながら杏の服を見繕っておきますね、ポムさんもポセイドン様も子供服のセンスはちょっとどうかと……」


 ロナルディの意見に同感。俺も探すよ、子供服のセンスなんて無いと思うけど。




 家に帰って来たら、遊び疲れたのか杏が椅子に座ったまま寝ちゃったから、ベッドに寝かせて、大人は夕飯の準備。

 3時のオヤツをすっかり忘れてて、少し不機嫌なポムだけど、貝を茹でる匂いで機嫌も治って、今は杏の隣で様子を見ててくれる。


「ポセイドン様、爆釣さん、本当に食べなきゃいけないんですか? 魔手貝ですよ?」

「酒のツマミにはちょうど良い。飯のおかずと言われたら少し疑問だがな」


 まっ、そこは調理しだいだろ? アサリ入りのクリームコロッケが今日のメインでハマグリのお吸い物とマテ貝の塩茹で、他にもデザートは多目だな。オヤツ食べてないし。


「なにはともあれ、少しずつ感情の殻が破れて来ているのは安心だな」

「笑うようになったし、声も出せるようになったもんな」


 今日は大声で叫んでたし、絶叫だったけど。


「後で写真立を用意しときますね。楽しい思い出は見える様に残しましょうよ」


 あれ? ロナルディのやつ……


「なんで世界樹(レタス)も一緒に混ぜてんの? もう治す怪我は無いんじゃ?」


 薬なんだろ? 入れると少し苦味が出るから数日前からジュースには入れてないはずなのに……


「魔物を食べるなんてお腹を下しちゃいますよ。下さないようにちゃんと飲み物を薬にしとかないと」


 なんだそりゃ?


「マテ貝ってモンスターなの?」「違うな、ただの二枚貝だぞ」



 夜飯の時間に、杏が自分で掘ったマテ貝を食べて、少し変な顔してる、バター炒めは嫌いだったかな?


 ロナルディは嫌いな食べ物を食べるように、しかめっ面でマテ貝を1口。

 マテ貝に手を付けないロナルディが、杏から「これは杏が捕まえたの、どうぞ」って、笑顔で渡されてしぶしぶ食べた……


「アレ? 普通に美味しいですね……」

「だろ? 酒の肴に最高だよ」


 ポセイドンとロナルディのやり取りを聞いて。


「これはサカナじゃなくて貝だよ」


 杏が凄く可愛い事を言うもんだから、大人5人でニヤケっぱなし。

 

「明日は何しようか?」


 杏が喜びつつ、大人も楽しめて売り上げもあるやつ……


 少しずつ元気になってくる杏を見ながら、そんな事を考えてた。



読んで貰えて感謝です。



 

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