♯マテ貝で吹っ飛ぶ
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公園でポムの作った焼きプリンを食べた日から、ポセイドンが額にアクションカムをずっと装着して杏の動画を撮りまくってんの、俺もポムもスマホを使って杏の色々なシーンを撮影しまくってる。
ロナルディなんか何時買ったのか分からないけど、高そうな一眼レフのカメラで連写しまくってるし、リスティールさんはロナルディが撮った写真を油絵にしてる。
んで少しずつ元気になってく杏と言えば……
「コレはなんですか?」
「それは……キュウリのき」
朝ごはんを食べた後は、リスティールさんと一緒に平仮名の勉強。
先生はポムだったりする。
「なんでポムが日本語の先生やってんだ? 日本語なら俺の出番だろ?」
「僕やポムさんが住んでた地域では日本語が共通語ですから。リスティは通いで働いて居たので喋れますし、ある程度は書けますけど漢字までは書けませんし」
まっ、教えろと言われても、実は俺って字が汚いし、漢字が苦手だったりする。
自分で書いたメモが読めない時があるし……
小学4年生くらいの漢字から怪しいんじゃ無いかな?
たぶんだけど、1年生の漢字なら大丈夫だと信じてる。
「これは……え〜と……」
「ゆっくり考えて良いんだよ。間違っても大丈夫、杏が間違えたら爆釣の分のクッキーを減らすだけだから」
何故か杏が間違えたら、俺の分の10時のオヤツのクッキーが1枚ずつ減ってく。
リスティールさんが間違えたらロナルディのクッキーが減っていくんだ。
んで、俺とロナルディの減った分のクッキーは、皆でジャンケンして争奪戦を繰り広げてる。
今の所は俺の負けっぱなし、残念な事に俺はこの中で1番ジャンケンが弱いようだ。
「カニさんのか」「よく出来ました。正解だよ」
よく出来ましたって言いながら杏の頭を撫でるポム。
最初のうちは、撫でられそうになると、体が硬直してた杏だけど、3日目くらいから撫でられたら嬉しそうにしてんの。
(ポムちゃんが羨ましいな)
(だな。あの笑顔を独り占めするとかけしからん)
(笑顔の杏ちゃんも、困った表情のリスティも可愛い)
ポセイドンがロナルディの心の声と俺の心の声を繋いでくれてるから、頭の中で考えるだけで男3人で会話をしてる。
勉強中にうるさくしたら怒られるから。
まあ、アレだな。別に親って訳では無いけど、ここに居る大人5人全員が親バカってヤツ。
大事だからもう一度言う。親じゃ無いけど親バカ。
仕事しないで、ずっと杏の傍で見守ってたいけど、男3人、ボケっと勉強を眺めてたら、これまた怒られるから、仕方なくそれぞれの仕事に向かう。
「ぐぬぬ、杏と遊びたい」「爆釣、それは同感だ」
ロナルディは俺とポセイドン程にヤキモキはしてないのか?
「杏ちゃんに微笑み掛けてるリスティと2人で杏ちゃんを甘やかしたい……」
違った……1人でブツブツ言ってる……
「昼飯まで頑張っかな。昼から潮干狩りしようぜ、せっかくマテ貝掘る準備もしたんだし」
準備したって言っても撒く塩とかビクとかな。
「それは良いな。潮干狩りなんて子供が笑顔になれる事間違い無しだ」
俺とポセイドンが昼から何して遊ぶか相談してたら、自分の世界に行ってたロナルディも帰って来て……
「それじゃアレですね。用意しときます」
なんて言いながら、果樹園の方に向かって歩いてった。
「アレってなんだろ?」「さあ? 俺にも分からん」
2人でボケーっと桟橋で釣りしてて、10時のオヤツを食い忘れた事に気付いて……
「クッキー……1枚も食えんかったな……」
「俺はちゃんと自分の分は確保してきたぞ。2枚分けてやろうか?」
ぐぬぬ……ポセイドンめ、小さい籠いっぱい持って来てる癖に2枚だと……
「ケチだな」「神に本気でたかる気か?」
もちろん。だって俺が作ったクッキーじゃん。
籠から一掴み奪ってやったww
「別に構わんのだけどな。どうせ次にお前が作った時に、大量に確保しとくだけだからな」
「ポムのインベントリに大き目のダンボール箱いっぱい入ってっし、後で少し分けて貰っとくよ」
11時くらいには今日の仕事も終了、だって昼飯のおかず作らないとだし。
「たまにはチキンカツにしてみるか? 鶏肉が安いし」
「それならタルタルソースを作らんとな」
大人だけなら魚でも良いけど、子供が居るならバランスよくだな。
6人全員ワンプレートの大人ランチ&お子様ランチの昼飯が終わったら、全員で並んで皿洗い。
相も変わらず、ポセイドンがポケットから横長の流し場を出して、便利な蛇口を6個設置してくれた。
「俺のワガママで始めた事だから協力は惜しまん」だとさ。
「んで、潮干狩り行くけど、杏の潮干狩りセットを買わないとな」
「マテ貝掘りだけなら塩だけで良くないか?」
「魔石粉も必要なのでは? 塩だと不確実な気がするのですが?」
マセキコってなんだろ?
「ロナ、マテ貝は美味しい物だよ」
ポムの一言でロナルディの顔色が変わった……
リスティールさんを見てみれば、疑問符を浮かべた表情ってのになってる。
「まっ、とりあえず行くぞ。杏、肩車してやろっか?」
杏の両脇に手を差し込んで聞いてみれば……
「…………うん」消え入りそうな声だけど、まあ良いさ。
「どりゃせい! ダッシュするからしがみついとけよな」
勢い良く肩に杏のを乗せて、猛ダッシュで干潟へレッツラゴー!
腰に付けたビクが邪魔でカシャカシャ鳴ってるけど気にしない。
「うわぁー!!!!!」
頭にしがみついてる杏の背中を右手で保持して、左手は杏の左膝を抑えて走って干潟に到着。
後ろを見たら4人ともボチボチ歩いて来てる。
「とりあえず、波打ち際まで行ってから降ろすな、もうちょいしがみついてろ」
多分だけど、頭の上で首を縦に振ったと思う。
「地面にポツポツ穴が空いてるだろ? 見えるか?」
「うん……見える」
歩きながら波打ち際近くの地面に空いてるマテ貝が居るであろう穴を、杏に教えてたら……
「うぎゃー!! なんじゃこりゃ!」
「きぃぃぃぃぃいいぃ!」
とんでもなくデカいマテ貝が地面から飛び出して、一瞬で地面の中に戻って行った……何コレ? ビックリし過ぎて俺も杏も叫んだよ。
「爆釣さ〜ん。杏ちゃ〜ん。コレ使って」
ロナルディが俺に向かって遠くから投げたのは座布団くらいの厚みと広さの木の板……
「穴に被せて上に乗って下さ〜い」
なるほど、出て来れないようにするんだな……
「着地は魔法で補助しますから、思いっ切り打ち上がってくださいね〜」
直径40cmくらいの穴に板を被せて上に乗った瞬間、ロナルディにそんな事を言われた……もしかして……
「補助ってなんだァァァァァ!」「ぎゃーーーーーー!」
杏を肩車したまま、真下から突き上げられて巨大マテ貝に吹っ飛ばされた……
「ヤバい! 杏、しっかり捕まってろ……って何コレ!」
「うわわわわわわ!」
落下を始めた直後に、ブワッと風が吹いて……
「浮いてる……」「わぁ……」
「濡れても良いですか? ダメなら地面に下ろしますけど」
なんか意味わかんねえ……でも濡れたくは無いな……
「地面に頼む!」
「は〜い」
ふわりと地面に着地して、ポセイドンが笑顔でアクションカムで俺と杏を撮影してるのを見て、俺は気付いた。
「異世界のマテ貝だろ! なんてもん連れて来てんだよ」
「楽しそうで良かったじゃないか。なあ杏、もう一度空を飛びたいだろ?」
マジ? めちゃくちゃ怖かったんだけど……
「もう1回したい……ダメですか?」
頭の上で、何時もより大きな声で、そんな事言われたら……やるしかねえだろ……
「魔石粉を軽く振り撒いて、素早く板を置いて下さいね」
ロナルディから渡された袋に入ってる粉を軽く振り撒いたら、巨大マテ貝が穴に深々と潜ってった……
「杏、もう一度飛ぶから、しっかり捕まってろよ」
「うんっ!」
恐る恐る穴の上に板を置いて、板の上に乗ったら……
「ぎゃーーーーーー!」「すごーーーーい!」
さっきより高く打ち上がった……
「海に向かって誘導しますから濡れますよ。覚悟してくださ〜い」
「ふざんなロナルディ! ダメだってぇぇぇぇ」
水深1mくらいの所に突っ込んで……
俺も杏もびちょ濡れ……
「もう1回やりたい」「マジっすか……」
絶叫マシーンなみに怖いぞこれ……
読んで貰えて感謝です。




