♯髭とイケメン 後編
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目玉焼きを乗せたトーストと牛乳たっぷりのコーヒーを5人分用意して4人のとこに戻ったら、少し違和感があった。
「あっ! なんか変だと思ったらポセイどんが普通の服着てんのか」
紺色の綿パンとカーキーのニット生地のゆったりした服着てんの。
「そりゃ海に入ってた訳じゃ無いから普通の服くらい着てるさ。俺をなんだと思ってんだ」
そりゃ……「海パン」「水中眼鏡」俺とポムのツッコミにポセイドンがたじたじだな。
ロナルディとリスティールさんが、鳩豆な顔してら。面食らってるとでも言えば良いかな?
「否定はせんが、TPOくらい意識するぞ」
否定しないんだろ? 海パンじゃん。もしくはハーパン。
夫婦揃って海皇様……なんて絶句してるな。
「2人に地獄の大切なルールを教えとく。1つしか無いから覚えてくれよな」
地獄を管理するにあたって、ポセイドンから言われてたんだ。ちゃんとルールを決めろってさ。
「出された物は全部食べる。以上」
「爆釣……ちょっとおつむが足りない子みたいだよ」
「爆釣。そんなルールなんかあったのか?」
必要かな? って思って今作ったんだよ。だってロナルディが目玉焼き食べて無いんだもん。
「流石に俺でもエルフくらい分かるよ。ファンタジー人類だろ? 肉とか魚とか食わない生き物なんだろ? それでも目玉焼きくらい食べてくれよな。アレルギーとかなら仕方ないけど、牛乳飲めるんだしヴィーガンって訳じゃ無いんだろ?」
「卵は最後に食べようかと……」
ありゃ余計なお世話だったかな?
「好きな物は最後に残す派か。そりゃすまんかった」
「僕はハーフエルフですから、肉も魚も食べられます」
そういやハーフって言ってたな……
「両親はどんな種族なん?」
「母がエルフで、父は……鬼です」
鬼とエルフ………………子供作れんの?
午前中をまるっと潰して、2人の事をアレやコレや根掘り葉掘り聞いてたらポムとポセイドンから「若者の恋愛に興味のあるオバサンか!」とかツッコミが入ったけど気にしない。
「この2枚に合わせて、同じ角度に調整出来ると思う?」
「やってみなければ分かりませんが、やらせて欲しいです」
奥さんの方は、真鍮のプロペラを見るのが初めてで、そこそこ大きい3枚のプロペラを、全く同じ形に叩いて修正出来るか見てくれてる。
「んじゃお願いしようかな。修理はボチボチやってるから、あんまり気負わないでね」
んで、5人で桟橋に移動して来て、今日の昼ごはん。ポムに頼んでお握りは用意して貰っといた。
おかずは……
「何か釣って焼くか揚げるか刺身かしてオカズにすんぞ」
夫婦揃って唖然としてるな。
「今日はウルメが来てるな。サビキで良いだろ」
ポセイドンが海の中に顔を突っ込んで確認してくれた。初心者向けだな。
「オキアミとパン粉は用意しといたよ」
流石ポム様、わかってらっしゃる。慣れたもんだよ。
「ほれ、俺とポムのお下がりだけど。二人共に」
伸ばしたら2mくらいになるセットの竿な。勿論リールもセットの1480円くらいのやつ。
「頑張ります」「よろしくお願いします」
「頑張る程の事も無いだろ? でも早く釣って昼飯にしないと、ポムが不機嫌になるから、ちょっとだけ頑張ろうな」
七輪を2つ用意して、油の入ったフライパンと焼き網を置いて、片方は片栗粉付けて素揚げ。片方は焼き。
小アジやウルメをササッと開いて軽く塩して、お昼ご飯。
もちろん、俺とポセイドンで揚げ物はしたよ。
手開きはポムがやってくれた。爪でススっとね。
「ドワーフさんが鍛冶仕事が得意なのは何となく分かる。でもエルフって森に住む生き物じゃねえの?」
「僕は街育ちなんで、あまり森とは関わりが無いです。それと、生の魚を触ったのも今日が初めてです」
とりあえず2人の気になる所を色々聞いてんのな。
「地獄に来る前は、どんな仕事してたん?」
「オートバイのレースに出てました」
あ〜。なんかポセイドンが言ってたな。この世界の鬼は色々な仕事をしてて……って。
「んじゃ、一般的な労働とかした事ないんだ?」
「無いです…………」
イケメンがショボーンってしてるけど、そんな所もイケメンなんだな……
「奥さんは髭剃らないの? それともドワーフって女性でも髭を生やすのがデフォルトだったりする?」
出会った日のポセイドンよりもじゃもじゃなんだよな。
「剃っても次の日には1cmくらい生えてますから。剃るよりは伸ばして整えるようにしてるんですよ」
「それなら体毛操作だったっけ? ポセイどんが使ってるやつ。あれ買ったら?」
ポセイドンがキョトンとしてら。
「爆釣……体毛操作スキルは5千万ポイントくらいするんだぞ……人気過ぎて品薄だからな」
「それくらいなら、残してあるお年玉でどうにか出来ますね」
「ロナ、お願いしても良いかしら?」
うわっ……イチャイチャしだした……残してあるお年玉って……
「爆釣……ロナのお爺ちゃんって、ほんとに凄いお金持ちなんだよ、世界経済の一角を担うって言えば良いのかな……」
「んじゃ住む所も家具も自分達で何とか出来そうじゃん。あんまり派手な建物は止めて欲しいけど、ある程度は自由に決めて良いからな」
夜飯のオカズにする分だけ釣って、家とか家具とか注文しよ。ついでに、それなりの釣具もな。
サビキ釣りは初心者でも簡単だから、すぐ慣れてくれたんだよやっぱり俺の見立て通り、この2人は釣りが出来る。
んで夜飯。今日はちょっと早目に釣りを切り上げて準備を始めたんだ…………って何時もか。
「2人は漁業以外にやりたい仕事ってある?」
冷蔵庫に入ってる余り物を処分するのに鍋。
「僕は農業をしてみたいです」
「私もロナと一緒に農業を」
おお、ちょうど良かった。
「ならさ、ポム用に作った猫草花壇を広げてよ」
「なるほど、適材適所と言うやつだな。エルフやドワーフに漁業で生きろと言うのは酷だからな」
そうなの? よく分からん。
「ロナ。ちゃんとお肉も魚も食べなきゃだよ。リスティールさんも野菜とかキノコとかもっと食べないと」
ポムが親戚の鍋奉行化してる……
「爆釣……次からは出来るだけこんな事にならない様に注意する。悪かった」
「えっ、何が? なんか悪い事でもしたっけ?」
急にポセイドンが謝ってきたけど……2人を連れて来た事なら、別に構わんよ。賑やかになって良いじゃん。
農業してくれるって言うんならちょうど良かったし。
(そう言って貰えたら有り難い)
(急に、頭ん中に話し掛けてくんなよ。びっくりすんだよ)
犯罪者とか嫌な奴を連れて来たってんならだけどさ。悪い奴らじゃ無さそうじゃん。
「なあ、二人共よろしくな。あんまり贅沢は出来ないけどさ、焦らす気負わず、のんびりやってこうぜ」
2人に向かって左右の手で握手を求めてみた。
「爆釣さん。こちらこそ」「夫と2人、よろしくお願いします」
2人とも力つええのな……握手した手が痛い。
「2人とも自分の事は自分で出来るようにならないとね。出来るようになったら2人のお母さんの説得に協力するよ」
おお、ポムが頼りになりそうな顔してる。
普段だと飯食う時は、ゆるゆるに微笑んでる癖に、なんかキリッとしてら。
「ポムちゃんが味方になってくれるなら心強い。俺もある程度は協力するが、2人が頑張らないとだぞ」
凄い良い笑顔で二人共「はいっ!」だってさ。
「〆はうどんにする? おじやにする?」
「なんで爆釣はどっちか選ばせようとするの? 両方作ったらイイじゃん」
「それもそっか……もう1つ鍋持ってこよ」
結局夜中まで、ポムのカリカリをツマミに5人でワイワイ言いながら酒飲んでた。
もちろん次の日は寝坊と二日酔いな。
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