♯髭とイケメン 前編
隣人増えます
サワラを美味しく頂いた次の日、珍しく人の声がした気がして目が覚めた。
「まだ夜明け前だし……声?」
1人はポセイドンだと思う、聞き慣れた声だから。
でも他に2人分の声がする……
「爆釣、起きろ。ちょっと大変な事になった」
「起きてるよ。何があったんだ?」
普段なら家のドアを開けながらおはようって言うポセイドンが、挨拶すらせずに外から大声で呼ぶなんて何があったんだろ?
「すまん。ゴリ押しでねじ込まれた」
「おはようございます管理人さん」
「管理人さん、おはようございます」
すまんと言いながらコンテナハウスのドアを開けて、電気を付けたポセイドンだったけど、後ろに誰かいて挨拶された。
「うにゃ! やっぱり来たにゃ。嫌な予感がしたんだにゃ」
ポムが背中の毛を逆立てて戦闘態勢を取ってる……
「え〜おはようございます。どちら様でしょうか?」
「ふにゃ! ヤツらじゃ無いにゃ……ロナ?」
ポセイドンを押し退けて部屋に入って来そうな2人……
「ちょっと待ってください着替えるんで」
俺はパンツとTシャツ、ポムはチョッキすら着てない。寝起きだもん。
部屋の真ん中のカーテンを閉めて、ポムと2人で早着替え。俺はズボンを履いて薄いパーカーを羽織っただけ。
ポムはいつものもっさいジャージと黒縁メガネ。
「初めまして管理人さん。この地に世界樹の恵と繁栄を築く為に一族を代表して来ました。エルフのロナルディ・ゴンザレスです」
「ロナルディの妻で、ドワーフのリスティールです、初めまして。一族を代表して樹脂製の船の構造を学ぶ為に、夫と2人で突然ですが尋ねさせて頂きました。よろしくお願いします」
なんだこれ? 知らない人が順番に自己紹介とかしてら。
1人は金髪の短髪で耳が長くて、面長の顔した爽やかな感じのする鼻筋の通ったイケメン、背は俺より少し高いくらい。180cmくらいかな?
もう1人は茶色の髪は肩まででスッキリしてんのに、モジャモジャの髭が変な感じの少し団子っ鼻っぽい女の人? 背が低くてガッシリした体格の人だな……140cmあるんだろうか?
「はあ?………………」
「寝ぼけて無いで顔でも洗って来い2人とも」
その通りだよな「すまん、そうする」「だね」
ポムと2人で洗面台代わりに外に付けたステンレスの小さな流し台の前で歯を磨いて顔洗って……
その後ろを行ったり来たりしてポセイドンがキッチンでお湯を沸かして、お茶やコーヒーの用意して……
「エンジンの修理に金は要らんとの事だ。その代わりあの二人をしばらく預かってくれ」
「何があったんだよ? 朝早くにビビるだろ」
朝食でも食べながら話すだとさ。
猛ダッシュでポセイドンが朝飯用意してくれた。
「え〜と……管理人の魚釣 爆釣です。おはようございます」
「ロナは分かるよ、おはよ。ドワーフさんは初めまして、にゃん族のポムです。おはようございます」
5人で4人用のテーブルを囲んでる。ポセイドンが足りない椅子はポケットから出してくれた。
「この2人は、それぞれ親に結婚を猛反対されててな。片親は応援してくれているんだが……」
うわ……駆け落ちってやつ? 初めて見たよ。
「ロナのお父さんって種族に拘る人だったっけ?」
どうやらポムは耳の長いイケメンさんの方は愛称で呼べるほどの知り合いらしい。
「いえ、父は全く拘っていないのですが、母が……」
ふむふむ……母親が反対してるんだな……
「母が25歳で結婚はまだ早いって」「普通だよっ!」
あちゃ……つい突っ込んじゃった。
「エルフで25歳は早いかもね……」
そうなの? ポムを見たら困った顔してる。
「でも僕は真剣なんです。千年を超す寿命を持つエルフ種ですが、長い生涯で愛する人はリスティ1人と決めてるんです」
若いなあ……
「奥さんの方は……」気になるのは黙って髭の生えてない部分の顔を赤くしてる女の人の方。年齢いくつなんだろ? 若いのかな?
「私は祖父母や父は応援してくれてるんです。祖父母は親友の息子と結婚なんて素晴らしいって言ってくれているのですが……でも母が……25歳も歳下のエルフと……」
おばちゃん? え〜と……50歳? ん〜初老?
「爆釣。どっちも長命種だからな。エルフは18で成人して900を超えるまでゆっくりと老けて行き、950超えて老齢と呼ばれるんだ」
ふむふむ……なるほど、めっちゃ長生きな。
「ドワーフは15で成人、400歳くらいで死ぬ人が多いかな50歳だと、まだまだ若者だね」
2人とも寿命長いな……
「んで、地獄だよここ。こんな所に滞在しても大丈夫?」
2人ともわかってんのかな? 俺は未だに良く分かってないけど地獄らしいし…………
「覚悟はして来ました。どんな場所でも大丈夫です」
「ロナルディと一緒に居られるなら、私は地獄でも構いません」
それなら良いんじゃね?
「んじゃ採用。コンテナハウスと生活雑貨は俺が用意するから代金は立て替えとくよ。コツコツ働いて返してね」
何となくだけど爆釣センサーが反応した。
この2人は………………きっと釣りが出来る。
「爆釣……そんな犬猫を拾うような感じで……」
「あちゃー……爆釣の目がキラキラしてる……」
だってよ……応援したいじゃん。種族を超えた恋愛ってさ……………………
「よろしくお願いします」「よろしくお願いします」
「ん、よろしく。とりあえず今日は住む所用意するか。朝飯食って始めようぜ」
ポセイドンが大急ぎで用意してくれたのはトーストとコーヒーと紅茶。トーストは1人1枚ずつな、もう冷めちゃったけど。
「はいっ。よろしくお願いします」
おっこれは……
「チッチッチッチッ。いただきますだろ? 同い歳なんだから緊張すんなよ」
ポセイドンが、いつもやってる人差し指を左右に動かすヤツな。やってみたかったんだよ。
「俺のはそんなに他人を不快にさせないはずだぞ」
「爆釣のもポセどんのもあんまり変わらないけど?」
だってさww
「2人は夫婦なんだろ? ちゃんと結婚式とかした?」
「それが……まだなんです……」
トースト食いながら話し込んでる。とりあえず家をどうしようかな?
「んじゃ2人の部屋は別にする? 1つで良い?」
ちっ……2人仲良く1つでだってさ。 リア充め!
「料理は自分達でする? 一緒に食う?」
「料理は……」「私も料理は……」
ポセイドンがため息……マジか……
「僕は家事は一切出来ません」
えっ……そんな自信満々で言うこと? ってくらい胸を貼って言われた……
「私は掃除くらいなら。でも他の事は……」
どうやって夫婦生活してたんだよ……
「2人とも良いトコの坊ちゃん嬢ちゃんなんだよ」
うわあ……マジか……
「ロナは分かるよ、お爺さんが世界有数のお金持ちだもんね、でも奥さんの方は?」
うひゃあ……リアルセレブだ。
「私は……小さい頃からハンマーより重い物は持った事無いんです家事は父のお弟子さん達がやってくれてたので……」
「ハンマーより軽い物なんて幾らでもあるだろっ!」
ツッコミどころ満載じゃんよ……奥さんビクッとしてる…………
「爆釣。ドワーフがハンマーより重い物をと言ったら、鍛冶仕事しかした事ないって意味だ。箸より重いとは意味が違うぞ」
「おお。鍛冶屋さんなのか。ペラの叩き出しとかお願い出来る?」
船のプロペラが少し歪んでたんだよな。今の状態で船足を上げたら振動が凄そうだから治しときたかったんだ。ちょうど良かった。
「ペラとはどんな鉄でしょうか?」
おっ、少しオドオドしてた奥さんの目の奥がキラって光った……
「まっ、それも食ってからな。少し物足りないからもう1枚焼いてくるけど皆いる?」
全員一致でもう1枚。次は目玉焼き乗せよ。
読んで頂けて感謝です。




