♯サワラ
。
雨でダラダラだった2日間が終わって、いつもの様に朝からしっかり塩サバをオカズにご飯を食べた今日。
朝飯の後に作業着を着て、修理中の船の船底部分に赤い塗料を塗って今日の作業はコレで終わり。
「綺麗になるんだね。汚れた緑色だったのに」
藻や貝が大量に付着してたのを、手作業である程度落として、18ボルトの充電式のランダムサンダーで船底全部をペーパー掛けして段差を慣らしといたのを、ローラーハケを使って赤い塗料を塗ったんだ。
使った工具は最初から車に積んであったヤツ。
殆どは日本で働いてた頃に自前で買った工具で、船底塗料とかローラーとかハケとか通販で買った。
「藻やカキを落として、ペーパー当てて色塗ったら見違える様だろ? ボロボロだったのが綺麗になってくって楽しいよな」
プロペラ周りやブリッジなんかは何もしてない。先にブリッジを切って外して、エンジンを機関室から出して修理しなきゃだからさ。プロペラ周りも同じくな。
「うっし。釣り行くか」「うん、お弁当準備してからね」
最近の昼飯は殆どお手軽に食べられる物で、丸〇屋の混ぜ込みワカメシリーズのおにぎりと、永〇園のお吸物が定番で、お湯は魔法瓶に入れて、ティーパックになってるお茶とお吸物兼用。
それだじゃ少し寂しいから、何かしらの唐揚げとか塩焼きとか、味噌焼きとかも小さい弁当箱に1口サイズのを6個2人分入れて持って行ってる。
「ふふふっ♬*.*・゜ 混ぜ込みワカメシリーズと出会えた事が幸せだなあ〜」
ポムが気に入っちゃって、全種類買ったよ。
混ぜ込んでコンビニのおにぎりより少し小さ目にして、1人3個ずつ。俺のは1個塩むすびだけど。
「ほんとに混ぜ込みワカメシリーズ好きだよな」
ゴキゲンなんだろうな、尻尾がピーンって上に立ってるし。
「うん。だって美味しいもん」
メガネの奥がによによして嬉しそう。
こんな感じの商品紹介見て全種類カートに入れてやんの。
「やっべーナブラ祭りだ!」「おーバシャバシャしてる!」
作業者から着替えて、桟橋に来てみた俺とポム。
来て見てびっくり大きなナブラ。
ナブラってさ、魚の群れがバシャバシャしてるアレの事な。
そう言えば時期だなぁ……サワラの。
偏向サングラス越しに見えてる大量の魚影は確実にサワラ、小さいと別の呼び方をする出世魚な。
「こりゃジギングだな」「おお。遂に買ったルアーを使う日が来たのか。凄い楽しみ!」
暇だった昨日一昨日、ぼけーっとフルセグで通販番組を見てたら、日本だと深夜にやってる外人さんの演じる怪しいテレビショッピングのルアーセットに心引かれて2セット買ってみたんだ。ネットで注文出来たから。
「64点セットで2980ポイント(税込み)の威力がどんなもんか」
「上手く投げられるかな?」
「竿のしなりを使って投げる様にすれば、問題無く投げられるよポムちゃん」
フィッシングベストを着込んで、まるでバスプロみたいな格好をした……
「ポセイどん、おはよ」「おはよ、ポセどん」
「おはよう2人とも。良いジギング日和だな」
サムズアップしたポセイドンが後ろに立ってて、声を掛けられて振り返ったら、ポセイドンのキラって歯が光った気がした。
んで3人でナブラの先を狙って桟橋からメタルジグを投げる事数回。
「フィーーーシュ! おお! いい引きだ」
「ごっはーーーん! 何コレ? 凄い重い! 太刀魚みたい」
「やべー! 俺にもフィーーーシュ!」
3人ともガツンガツン釣れるんだ、4〜6回投げたら1匹って感じかな。
「1度売却して、クーラーボックス空けないと入り切らん」
3人ともバンバン釣るから、2時間くらいの間にクーラーボックスがパンパン。
「お昼ご飯食べよ。お腹ペコペコ」
「俺の分もあったりする?」
それは……
「勿論用意してあんぞ。俺のと一緒でネギ味噌と若菜と塩むすびだけど良いか?」
「来るって思ってたから、ちゃんと用意してたんだよ」
作ってないと拗ねそうだもんな。オカズは作ってないから2個ずつ分けよ。
「さすがポムちゃんと爆釣だな。気が利くじゃないか」
色々世話になってるからな。地形の相談とか爺ちゃんの船とか……美味しく料理するコツとかさ。
「1kg300ポイント弱か。でも結構な量があったからいい値段になったな」
「ポセどん、ホントに良かったの? 全部売っちゃって」
今日の分は全部寄付してやるよだってさ。
お言葉に甘えて、食べる分残して全部売ってしまった。
「サワラなら、ここ最近の日本海でも漁獲量が上がっててな。日本でも時期だから良い物が安く手に入る。気にするな」
「へー。魚って徐々に減ってるっ言うけど、漁獲量が上がってんのか」
ちょっと意外。なんでだろ?
「海水温の上昇で日本海側でも増えてるんだよ、環境の変化で減る魚もいるが、増える魚もいるって事だ」
まあそっか。
「それにな、人間は漁獲量が減って困ると言うが、俺からしたら海の生き物が地上の生き物に捕獲される量が減ってて嬉しい事なんだぞ」
「なのに食って良いのか?」「釣っていいの?」
ポセイドンがキョトンとしてら。
「食わなきゃ腹が減って困るだろ? 海の生き物ってのは基本的に野生だ。弱肉強食なんだから食うのも食われるのも当たり前な」
なるほどな。
釣りも2時ごろには終わって、かなり早めな夕飯の準備。
ポセイドンのサワラ講座を聞きながら西京焼きと刺身、たまには煮染めも作ろうかって言って野菜とか山菜の煮染めも作ってる。
「サワラの身は柔らかいから、刺身を取る時に使う包丁はよく研いで切れるようにしておけよな」
「私だったら爪で大丈夫かな?」「そりゃ止めとけ」
ポムの爪は鋭いけど、キャベツの千切りも出来るけど、流石に爪で刺身は……
「よく手を洗ってからな」「うん」
なんだと…………
「ええ? 爪でいいの?」
調理器具には拘りを持ってそうなポセイドンなのに……
「住んでた世界が違えば常識も違うんだよ。猫系の獣人の爪の切れ味なら、そこらの安物の刺身包丁より切れるんだからな」
なるほどなあって関心しながら、俺とポムで刺身を作ってみた。
「う〜……身が崩れる……」「難しいな」
「爪と包丁を研ぎ直して来い。俺の包丁を見て参考にすれば良い」
そんな事を言いながら、ポセイドンが自前の柳刃包丁でスっとサワラのさくを削ぐと……
「おお! キレキレだ」「全く身が崩れないのな」
さすがだな。寿司屋で修行してただけあって、生魚の扱いが上手くて、切り口が潰れてないのな。
「こんなものは慣れだ。素人でも上手い奴だっているだろ?」
「熟年の漁師さんとか」「港町の魚屋さんとか」
「それはどっちもセミプロだろうが」
だってさww 確かに。
サワラの西京焼きをポムが1口食べてニヤリってニヤけて、ワラビとジャガイモと椎茸と人参の煮染めを箸でつついて微笑んで、サワラの刺身を3きれ食べたら……
「ふぅ……やっとお腹が落ち着いた」
「ぷッ……ハッハッハ……」
「ポムちゃん、今日は静かだなと思ってたら、そんなに腹が減ってたか?」
俺もポセイドンも同じ事を考えてやんの。
「だってずっと美味しそうな匂いだけしてさ。味が染みるまで食べちゃダメなんて……」
「ずっとつまみ食いしようとしてたもんな」
作り始めた時間が早かったってのもあるけど、煮染めに味が染みるまでコトコト火に掛けてて、いい匂いだけがしてたもんな。
「手を伸ばすたびに爆釣が注意するのが面白かったがな」
つまみ食いしようとするとすぐ分かるんだよポムって。
「だって狙いを定めたら瞳孔の形が変わるからわかり易かったんだよ。何回か止めてるうちに面白くなって来て、ついやり過ぎた……」
「ゔゔゔ……」威嚇してやんの。
「そう言えば爆釣。船のエンジンの修理は出来るやつに依頼しといたぞ。明日、小さくして外して持って行くから、外すの手伝ってくれ」
「そっか小さく出来んのか。ブリッジ全部切り離して外に出そうと思ってたから助かる」
「変な匂いの錆びた鉄の奴だよね? だったら……」
ポムは重油の匂いが少し苦手みたいだ。
「今年は鍋をどれにするか会議が早々と終わってな、ポムちゃんの地元のドワーフの偉い奴に、重油エンジンの話をしたら、俺のオススメの酒3樽で引き受けてくれるって言うし」
「おお。酒代は勿論出させてもらう。でもいいのか? 治すのに安く見積もっても50万くらいは掛かるぞ?」
「あ〜あのドワーフさん達か……なんか納得」
何が納得なんだろ?
「ディスカウント系の酒屋に置いてあるペットボトル入りの安い焼酎で十分だ、最近のアイツらはエンジンの構造を覚えるのに、バイクや車以外のエンジンを求めててな。重油を使うエンジンのレストアを頼みたいって言ったら、掴みかかって早く持って来いと迫って来たぞ」
「やっぱり……変な人達だよね」
その時は変な奴が居るもんだなとしか思って無かった。
読んで頂けて感謝です。
よろしければ、ブックマーク、ポイント評価、感想、レビュー、誤字報告など、よろしくお願いします。




