♯雨
挿絵無し回です。
夜釣りしたり、船の修理したり、3人でバカ騒ぎしながら飯作ったり、酒飲んだりしながら数日が過ぎた。
ここ2日の間、しとしと雨が降ってて、ぼーっと外をながめながら島の拡張プランや船の魚探やエンジン関係やプロペラをどうするかを考えてる。
太刀魚を釣った次の日、ポセイドンが眠そうな目を擦りながら朝の10時くらいに起こしに来て、地獄に来て初の寝坊を体験したけどさ。
焦って飛び起きてポセイドンと寝てるポムを見て。
「遅刻なんて無いのか、焦った……」
「遅刻なんて無いな、寝坊ならあるが」
「あと5分眠らせて欲しいにゃ」
ぼちぼち起き出して、ぼーっとして、朝飯兼昼飯を用意して3人でぼーっとして、昼からのんびり釣りして。
「あまり夜遅くまで釣りすんのは止めような」なんて言って、夜に操業する漁業関係者だとコレが普通なんだなって3人でウダウタ言いながら呑んで。
なんて事があった。地獄で焦る事なんか何も無いのにさ。
「爆釣、暇ならポムの毛をブラッシングして欲しいにゃ。夏毛に生え変わる時期にゃから全身痒いにゃ」
今日のポムは朝から猫型のまんま。俺と一緒にぼけーっと窓の外を眺めながら寝転がってたんだけど、立ち上がったと思ったらブラシの入った棚の前で、そんな事を言った。
「それならゴソッとムダ毛が取れるヤツ買ってみるか? ちょっとくらい金銭的には余裕あるし」
毎日ちょっとずつポイントは増えてる。日本で生活してた時より余裕はあるんだよな。
「ふにゃ! それは先端がギザギザににゃってるブラシじゃにゃいアレかにゃ?」
「そうそう、ファー〇ネーターだったけかな? 昨日動画で見たじゃん、ゴソッとムダ毛が抜けるやつ」
短毛用のを通販アプリで購入しよ。
「革を手入れする道具も欲しいにゃ。ポムの大切にゃチョッキがゴワゴワににゃって来たにゃ」
「ほいよ。色々必要そうなもんでも一緒に注文するか」
猫型ポムを膝の上に乗せて、俺のスマホで日本製の物を、ポムのスマホでポムの故郷の物を検索。
色々欲しい物があって、見てるだけで楽しいのな。
「猫用シャンプーも買おうか? 猫型の時もシャンプーした方が良くね?」
「爆釣は恐ろしい事を言うにゃ。ポムはとっても水が苦手にゃ。人型じゃにゃいと水に浸かるのは怖いにゃ」
膝の上に乗ってるポムの毛が服にくっつきまくってる……
「でもなあ……少し匂いもヤバいぞ?」
「そうかにゃ? それにゃら我慢するにゃ。ムダ毛を抜いてから少しだけ体を洗うにゃ」
やっぱり濡れるのは苦手なのか……それなら……
「嫌ならシャンプータオルで拭くだけでもいいぞ?」
「嫌にゃから、シャンプータオルで拭くだけにして欲しいにゃ……爆釣も1度猫になってみれば濡れるのがどんにゃ気持ちか分かるにゃ」
猫になってみるか……そうだよな……
「んじゃさ、ポイント貯まったら俺用の猫型アバター買うわ。1度猫になってみないと、ポムの見てる景色とか聞いてる音とか、味覚とか感覚とかわかんないもんな」
そんな話をしながら、俺のスマホでファー〇ネーターとシャンプータオルと革の手入れ用のワックス。
ポムのスマホでうどん玉とアイスを購入して、ダンボール箱が出て来るのを待ってる。
「ポセイどんはポムの地元に行ってんだろ? 何してんのかな?」
「夜中に明日の夜まで会議だからって伝えに来たにゃ」
会議か……どんな感じの会議なんだろ?
「ポセイどんも参加しないとな会議って、何を話し合うんだ? ポムは知ってる?」
「どうせあれにゃ。美味しい物を食べにゃがら、忘年会で出す料理のお品書きを決める会議にゃ。毎年春先から決めて準備を初めにゃいと間に合わにゃいらしいにゃ」
忘年会? 今って……
「まだ4月だよ? 忘年会って……」
「日々の仕事に疲れた様々な姿の神を癒す為の忘年会にゃから、色々準備が大変らしいにゃ」
ポセイドンって……こんな所で俺達と遊んでても良いんだろうか? ちょっと心配になってくるな。
「来たにゃ。抜け毛の処理するにゃ」「ほいよ」
ちょっと大き目のダンボールがネリネリネリって床からひり出て来た。中を見たら頼んだ物は全部揃ってる。
「俺も初めてだから痛かったら言うんだぞ」
「優しくして欲しいにゃ。痛くしにゃいで欲しいにゃ」
勿論だとも。
ファ〇ミネーターでポムの体をひと撫でする毎に毛が……
「ううっ……ゾワゾワするにゃ」
「嫌なら止めようか?」
モサモサって抜けてくる。凄いな抜け毛。
「グルーミングして毛玉を吐くのは辛いから、そのまま抜き続けるにゃ」「ほいよ。無理すんなよ」
「うにゃ」だってさ。嫌なんだろうな、撫でる毎に体をビクッとさせてさ。
「止めよ。なんかやってて辛い。他の抜け毛処理用品でも探そ」
「高かったんだから使わにゃいとにゃ」
3千ポイントくらいしたけど……
「中古用品買い取りアプリで売るから良いよ。無駄にしたポイントより、気持ちよく抜け毛処理が出来る方が良いだろ?」
「うにゃ」だってさ。さっきと違って嬉しそうだ。
結局、手袋にイボイボが付いてる奴が1番良かったみたいで、全身なでなでしながら、ゴソッっとムダ毛を抜き終わったのが昼直前。
「シャンプータオルは寝る前に使うか。昼飯は猫型で食うか?」
「焼きうどん食べたいから、人型ににゃる」
出汁醤油とかつお節味のエビとイカを入れた焼きうどん、俺とポムが手軽に何か食べたい時に作るやつ。
俺がキッチンで焼きうどん作ってる間に、ポムが着替えてテーブル片してくれてる。
「ポムはご飯も食べるかー?」「ご飯はいらないよー」
別れてるコンテナハウスだから、大きな声で言わないと聞こえないのな。
「アイスは溶け掛けてるのが良いから、冷凍庫から出しといてー」「りょーかい。バニラとチョコどっち食べるかー?」
こんな掛け合いも、なんの違和感も感じなくなった。
カップのチョコアイスと出来上がった焼きうどんを隣のコンテナハウスに持って行こうとお盆に乗せて運ぼうとしてたら、入り口でポムが傘さして待っててくれてる。
「焼きうどんが濡れないようにね」「サンキュ」
む?
「なんか人型でもスッキリした感じになんのな」
肌とかツヤが……
「本来の姿を元に変化するアバターだから、本来の姿がスッキリしたら、アバターもスッキリするよ」
「なるほどな……」
心無しか髪の量も減ったみたいな……
「髪型も少し変わってんな。量が減った?」
「ふふふ……触ってみる?」
凄い機嫌良いな……
「飯食ってからな」「うん」
しとしと降ってた雨が夕方には止んで、ぼーっと過ごした1日も夕飯の支度の時間。
「夜は何食べる? 手軽なもんでも良いか?」
「レンジでチン出来るので良いかな。何もしてなくてもお腹は減るけど、いつも程じゃ無いから」
それなら……
「ピザでいっか。前に作り置きしてた奴を冷凍してあるし」
「うん。お肉のと海鮮のと半分ずつ食べたい」
夜飯の後は、リールの道糸に傷が入ってないか確認したり、ポムのチョッキを手入れしたり、ダラダラしながら過ごして。
寝る前になったら俺の上でポムがひとしきり毛布をふみふみして……
「おやすみにゃ」「おやすみ、明日は晴れると良いな」
ポムが、晴れると良いなって言った俺の枕元のダンボールに寝転んで丸くなりながら。
「のんびり出来るから雨でも構わないにゃ」
なんてさ……
「たまには良いかもな……」
読んで頂けて感謝です。
サブタイトルに♯の付いた回は、句読点や空白の修正を終了した回です。
出来るだけ修正の要らないように書いてるつもりですが、やはり見落としとはある物ですね。
話の筋は何も変えてないので、読み直す必要は無いと思います。




