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♯釣政丸


 ボブ食ってケツから油流出事件から3日目、お腹の調子もやっと元に戻った。


 あまり言いたくないけど、気を抜いた時に出て来そうだったから、心配になって生理用ナプキンを使ってたんだ……orz


 そんな状態でまともに釣りなんか出来る訳が無かったから、ポムと2人で桟橋で小アジ釣りくらいしか釣りはしてない。あとはアサリ掘りくらいだな。


 どっちも食べる分だけ。


「お腹大丈夫?」「うん、たぶん大丈夫」


 昨日も一昨日もポセイドンは遊びに来なくて、ポムと2人きりだったんだけど、ポムを恋愛対象として見るとか色々と考えてみて、結局の所、好きってだけで良いかな? なんてヘタレてみた。


「うっし! 昨日、一昨日の分まで稼ぐぞ」

「え〜。しんどくない?」


 しんどいかな? ……かもな。のんびりやろ。


「それなら3週間くらいでコツコツ稼いでくか?」

「うん、そっちのが良い」


 まっ仕事を頑張る前にやらなくちゃな事があるんだよな。


「昨日の夜ふと思い付いたんだけどさ、今日は少し多めに稼いで常備薬買おうぜ」


 置き薬ってやつな、なんだかんだで体調崩した時が怖いからさ。


「それなら世界樹でも育てたら?」

「なにそれ?」


 猫型ロボのアニメが創作だって知ったポムに、お互いに知らなさそうな事は教え合おうって言われて、分かんない事は聞くようにしてる。


「死んでさえ居なければ、どんな怪我も病気も食べるだけで治っちゃう野菜? かな」

「そんなのあんのかよ?」


 でも油流出は止められなさそう……だって病気じゃないから。


「そこそこ高級品だけど、買えない額じゃ無いよ?」

「俺が食べても大丈夫な物?」


 そんな話をしてたら。


「おはよう2人とも。色々と手間取って遅くなった」


 ハーパンとTシャツで、薄手のパーカー着てるポセイドンが左手に汚い船の模型を持って現れたんだ。


「おはよポセイどん。2日も何してたんだ?」

「ポセどんおはよ。爆釣のお腹の調子が酷かったんだよ、この2日」


 左手に持ってる船の模型を見てるポセイドンなんだけど、つられて俺も模型に目が行った……


 それって……


「なあ……それって爺ちゃんの船の模型?」

「模型じゃないぞ、持ち運び易くするのに小さくしてきたんだ」


 ………………………………


「なんかボロっちいね」


 近付いてマジマジと見てるポムの言う通り、ボロっちい。


「俺が生まれたくらいの頃に造られた船だからボロいのは仕方ないよ。それに爺ちゃん死んでからは、偶に掃除するくらいしかして無かったし」


 爺ちゃんが死んでから波止場に置きっぱなし、海に浸かってた部分は藻とフジツボでビッシリ。


 元々は赤に塗ってあった部分は殆ど見えてなくて、白だった所は錆で茶色に、殆どの船体が汚れで黄ばんでるんだ。


「日本で船をどうこうってなると手続きが色々面倒でな、考えていたよりも時間が掛かったが、ツテを頼って手に入れて来てやったぞ」


「なあ……ポセイどん」「ん、どうした?」


 この野郎……


「お前って最高かよ!」

「ふっ、今頃気付いたのか?」


 ホントに持って来てくれるなんてな。最高じゃねえか。




 結局、釣りなんて二の次になっちゃって、露天風呂の近くに岩を並べて、何本か木材を購入して台を作ってってやってる。

 大きさをポセイドンが変えてくれるから凄く楽に作れたよ。


 ポムは早々と昼飯の準備するって言ってコンテナハウスに帰っちゃった、スマホで料理動画見ながら昼飯作ってくれてる。


「んで、俺の居ない間にポムちゃんとなんかあったのか?」「なんで? なんも無いけど?」


 どうしたんだろ? 変わらない日常だったけど……


「あれかな? 昨日寝る前に俺の上で毛布フミフミしたからじゃね?」


「お前なあ……」


 なんかポセイドンが呆れてら……


「俺はポムが好きだ。それは認める。でも好きだからって、何かしようとは思わない」


「認めただけで今は十分か。面倒臭いヤツだな」


 船台を作り終わったのが昼前で、船を置いて固定するのは昼からにしよって相談してたら


「2人ともー。お昼ご飯出来たよー」


 ナイスタイミングでポムが叫んでるから、手を洗ってコンテナハウスに戻ったんだ。


「うしし、今日のお昼は小アジの南蛮漬けとアサリのお味噌汁ですぞ〜」

 

「おお、作業して暑かったからサッパリした物を食べたいって思ってたんだよ」


 普通に美味しそう。

挿絵(By みてみん)

         見た目はちゃんとしてるな。



「ちょっと待て爆釣……アレは……」


 ポセイドンにアレって言われた方を見てみると……


「なあポム。もしかして味付けにチュール使った?」


 ポムがによによしてる……


「私の分だけだよ。2人の分は普通に作ったし」


「なら良かった……」「ポムちゃん……チュールは調味料じゃない気が……」


 機嫌が良さそうだから、あんまり言わないでおこ。




 昼飯の感想ってさ……


「何かが足りないな」「私もそう思う」


 ポセイドンは足りないって直で言えるらしい、勇気あんな。

 ポムも認めてるから大丈夫なんだろうか。


「たぶん、玉ねぎ。サラ玉使ったろ?」


 理由は簡単。


「なるほど、だから違和感があったのか」

「サラ玉? サラ玉って何?」


 ピリッとした玉ねぎの辛さが足りないんだよ。それに、冷蔵庫の野菜室に入れてあった玉ねぎってサラ玉しか残ってなかったはずだし。


「サラダに入れたりしても食べやすいように、品種改良して辛味を抑えた玉ねぎの事な。南蛮漬けとかに入れるんだったら、ちょっと辛い玉ねぎの方が良いぞ」


「ポムちゃんの世界にはサラ玉が無いんだったな。地球産の野菜の特徴もレシピと一緒に合わせて教えないといかんのだな」


「おお、だから苦手なはずなのに生の玉ねぎ食べられたんだ」

 

 食べ物も結構違うんだよな、そこら辺は色々教えて貰わないと、ボブみたいになったら嫌だし。





「これってイラスト? それとも魔文字か何か?」


 ポムが船台に置いた船の名前を見ながら疑問に思ってら。


「それは俺の国の言葉で釣政丸(ちょうせいまる)って書いてあるんだよ。爺ちゃんの名前が魚釣 政武(まさたけ)だったから名字と名前から取って付けたんだろうな」


「チッチッチッチッ。 相変わらず爆釣は鈍いな」


 今日は手首ごと左右にふってやがんの。


「何が?」


「お前が産まれて半年後に出来上がった船でな。お前の名前と自分の名前を一文字ずつ付けたそうだ。本人から直接聞いて来た」


 あっ、そうか。爺ちゃんって死んだ後にポセイドンのとこで働いてるんだもんな。


「孫の中で、お前が唯一慣れる前から抱いても、泣き出さずに髭を引っ張って来るのが、可愛くて可愛くて仕方なかったらしいぞ」


 うちの爺ちゃん、顔がめちゃくちゃ怖いの。

 常に鬼瓦みたいな顔してたもんな、怖いのは顔だけで、顔に似合わずハムスターが大好きで、ハムスターまみれになって寝たいとかよく言ってた。


「良いなー爆釣は。私はお母さんしか居なかったからなあ、親戚は沢山いたけど」


 そうなのか……あんまり家族の話とかしない方が良いかな?


「ポムちゃんの育った世界と、爆釣の生きてた世界では危険度がまるっきり違うからな、日本だと野生の猿が市街地に現れたくらいで大騒ぎしてるだろ?」

「してるな」


「野生の猿なんて私の住んでた集落じゃ毎日見てたよ、木に生ってる食べ物とか良く奪い合いしてたもん」


 うわあ……


「私の生まれたとこじゃ両親揃ってる方が珍しいんだから気にしなくていいよ」

「野生ってのは厳しいもんだからな」


 うん、あんまり気にしないでおく。


「なあ、今日から昼間は船の修理すっから、夜釣りしねえか?」


「おお! 爆釣が夜行性になってくれる」

「夜の海に対する安全性の確保は俺に全面的に任せろ。これでも海の事なら万能なんだからな」


 あら、2人とも乗り気だな。夜も仕事とか嫌がられるかと思ったけど。


「夜釣りのエキスパートの俺に、2人は何処まで喰らいついて来れるかな」

「ふふふっ、夜でも視界はバッチリだよ私」


 何で張り合おうとしてんだよww


「お手柔らかにな」


 俺も負ける気は無いけどな。



 

読んで頂けて感謝です。


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