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♯ボブの唐揚げ

挿絵無しのファンタジー生物回の後編です。

お食事中に読むのはオススメしません。


 ポムもポセイドンもウキウキしながら釣りを再開したんだけど、俺は何となく嫌な予感がしたんだ。


「よっしゃ! フィーーッシュ!  いい引きだ。これはデカいぞ」

「おお。もしかして大人のヴォブかな」


 なんだろ、大人とか……出世魚みたいなもんか?


「ヤバい岩の下に逃げ込みそうだ」


 なんか楽しそ。

 縦横無尽に海中を逃げ回る魚を少しずつ引き寄せて行くポセイドン。


  大物なのか……


「タモは1番大きいので頼む。そろそろ見えてくるぞ」「1番大きいのってマジかよ」


 1番大きいタモって内径1mくらいある、しっかりした太い糸の漁網で編んだ特別製だぞ?


「大人のヴォブ!? すっごい、ごっつい」


 ポムは昨日のとは違う形の偏光サングラス付けてら、海中が見えてんのか。


「なあ……なんだよこれは。魚じゃ無いだろ」

「魚だぞ。エラ呼吸だし鱗があってヒレがある、卵生だし肉質は魚類そのものだぞ」


「唐揚げにすると凄く美味しいんだよ。私の生まれた世界では、子供の食べたい唐揚げランキングで不動のの1位なんだから。海沿いの街ではお祭りとかで食べてる縁起のいい魚だよ」


 ポセイドンが釣り上げたボブはドレッドヘアーのシー〇ンに四足歩行の動物っぽい足が付いた何か……


「地球には進化論ってあるだろ?」「おう、あるな」


 ポセイドンの奴どうしたんだよ突然。


「お前が知ってる進化した生き物なんているか?」


 俺が知ってる? そんなの……「居ないな」


「だろ。進化ってのは滅多に見れるもんじゃ無いだろ? ゆっくり変わっていく進化もあるが、突然変異の方が圧倒的に多いからな。見れたらラッキーどころじゃないぞ」


 突然変異か……


「それにな、陸地で進化するよりも、海中で進化する生き物の方が圧倒的に多いから、陸に住んでいたら見れないって理由もあるな」


 ふむふむ。


「その最たる物がコレだ。元は鯉と似たような淡水魚だった物が、海に出て深海へと辿り着き、深海に適応した特性を持って浅瀬に帰って来た」


「髪の毛は分かる。分かりたくないけど、髭が進化したんだろうからさ。でも手足があるのはなんで?」


 ポムがジタバタしてるボブを〆てくれた、エラに包丁一刺し。


「針に掛かったら外すのと、釣り上げられたら走って逃げる為でしょ? 違うの?」

「ポムちゃん、不正解」「違うのか?」


 また人差し指を左右に動かしてら。


「コイツらは、陸に適応しようとしてるんだよ。この姿は肺呼吸を得ようとする直前の姿だな」


 ほえ〜。なんか凄いな。


「簡単に言うとヴォブはカエルの先祖みたいなもんだ。このまま進化して行くと、幼体の時は水中、成体になれば陸で活動する両生類の祖先になるんだよ」


「なんか凄い物を見てるのか? 進化の過程のさ」

「難しいけど何となく分かる。魔物が進化するのと似たような感じだ」


 人面魚って言われたら納得な顔をしてる。

 まぶたが無くて手足も鱗が生えてる、そこら辺は魚類なんだよな。


「何も凄くは無いさ。より善い環境を求めて変わって行くのは、どんな生き物も同じだろ? 当たり前の事だ」

「なるほど」


「変わろうとしない生き物も居るけど、変わろうする生き物の方が多いもんね」

「人間もそうだな」


 なんか勉強になる。良いもん見れた気がしてる。


「ポムちゃんの地元がある惑星は、比較的若い惑星でな。まだまだ進化する生き物がワンサカ溢れてる。広い宇宙には色んな世界があるって事だ」


 なるほどな。


 そんな話をしてたら、俺の竿に付けてた鈴が鳴って、俺もボブを釣り上げたんだけど、ポムが釣ったボブより少し小さいやつだったくせに、スズキみたいにエグい引きで、釣り上げるのにめちゃくちゃ時間が掛かって腕もだいぶパンパンになって疲れたけど、凄い楽しかった。


「1.8kgで9千ポイント……1匹の値段がミル貝超えか」

「私のは唐揚げにしよ。すっごい美味しいんだよ」


 結局1人1匹しか釣れなかったんだけど、超楽しかった。


「2人のは売ってしまえ。俺の釣った成体のヴォブを食おうじゃないか」「いいのか?」「ポセどん太っ腹」


 甘え過ぎな気が……


「どうせ地球では店に出す事も出来ん魚だし、金なら唸るほど持ってるからな。気にすんな」


 俺も言ってみたい……けど、なんかいいや。

 そんな事言わなくても毎日ちゃんと生活出来てたら十分だろ。


(金銭的には十分だぞ、だけどポムちゃんの事はちゃんとしろよ)


 頭の中に話し掛けて来んな……ビビるから。

 ちゃんと考えるよ、だから急かさないでくれよな。


(フラれるのが怖いか? 当たって砕けるのもアリだぞ?)

(砕けたくねえよ)


 サングラスを外して、何時もの黒縁メガネに変える時のポムを見たら……笑顔が歪んでた。


 たぶん食欲が溢れてる笑顔だ。





「ボブって捌く時は3枚に下ろすのか?」

「手足は切り離して、身体は骨ごとブツ切りだな」


 鱗も残したまんまなんだよ。


「内蔵も綺麗に洗って煮ると美味しいからねっ」


 ポセイドンの釣ったボブは3.5kgくらいの大物な。


「食えない部分は毛と顔の表面とニガ玉だけだ。揚げれば中骨も丸ごと食えるぞ」


「パリパリの鱗に塩をちょっと掛けて食べると美味しいんだよ」


「なんで顔の表面は食えないんだ?」


 他の鱗は食えるのに、ちょっと不思議。


「フグと一緒で毒があるからな。顔の表面に弱い毒を持ってんだ、火に掛ければ食える程度に弱くなる毒だが、気にするだろ爆釣は」


「それなら食ってみるよ。郷に入れば郷に従えって言うしさ」


 ポムがキャベツを千切りにしてくれるんだけど、爪でスパパパパって……包丁要らずかよ。


 俺は米研いで、テーブル片して、モツ煮込のアク取りしてってくらい。


 出来上がったボブのモツ煮込と唐揚げは見た目は美味そうだよ。


「爆釣のヴォブ初体験に乾杯」「久々のヴォブの唐揚げに乾杯」「未知の味に乾杯」


 今日は3人ともビール。

 冷え冷えに冷やした銀色のヤツ。


「爆釣、食ってみろ」「最初に食べてみて」


「うっ……わかった………………うまっ」


 なんだこれ? 魚の唐揚げなんだよ。なんだけど、めちゃくちゃ濃い旨みと濃い魚の味……


「手足の生えてるヴォブが唐揚げにすると1番美味いサイズだからな」

「小さいのは煮込んで食べると美味しいね」

「納得いかないけど、めちゃくちゃ美味いのはわかった」


 ひと噛み毎に肉汁? 魚汁? ってのがジュワッと出てきて口の中が幸せな旨味で溢れてる。


「ん〜美味しい〜♪*゜」「我ながら最高の火の通し加減だったな」


 ボブのモツ煮込も臭みが全く無くて、クニュクニュしてて変な食感だけど美味い……


「爆釣、ヴォだぞヴォ。ボブじゃないからな」

「たぶん発音出来なくて諦めてる。でしょ?」


 諦めてるよ、気にしないでとりあえず食お。


「見た目に騙された。なんかコレは俺の負けだな」


「勝ち負けなんて無いと思うけど?」


「見た目なんて、ナマコの方がヤバくないか?」


 確かに、ナマコとかのが見た目はヤバいか。




 後片付けも終わって、ポセイドンが風呂に入ってから海に帰って行って、俺もポムも寝る準備に入ってんだけど……


「なあポム……お腹の調子悪くないか?」

「悪くにゃいにゃ、どうしたんにゃ?」


 これは…………バラムツを食った時を……


「もしかして、地球人はトリグリセリドを分解出来ないのかにゃ?」


「おまっ……トリグリセリドってバラムツの脂と同じじゃねえか!?」


 その後は、生分解エコトイレの便座に座って一晩過ごしたよ。


「二度と食うかボブなんて!」






読んで頂けて感謝です。

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