6.賭けの始まり
「はい! オッケーです!」
停止ボタンを押し終えた瞬間、自然と大声になったほど私は興奮していた。
「良かったです! 思っていた以上にカッコいい仕上がりになりましたよ!」
私のこの盛り上がりに皆は引いていた。
「出来よりミライちゃんが怖いよ」
「「確かに」」
何で!?
この喜びが伝わっていないなんて!
皆おかしい!
「俺、なんか違う汗かいた」
「わかる! 俺も!」
「静かにしなさいよ」
騎士さん達は、慣れないからかお疲れのご様子で口々に話す。それを黙らせたのは、この場で紅一点の女性騎士キャルさん。女性らしさがあるのに鍛えた身体のラインは素晴らしく。外見だけでなく魔法や剣の腕前も凄い人らしい。そんなキャルさんが。
「大丈夫? 睡眠を削ってまでやる必要ないんだから。不眠はお肌の敵よ」
女の人にしては固くなっている手のひらで両頬を包まれ紫色の瞳で覗きこまれれば。
「やっぱり。顔色悪いし唇もあれてきちゃってる」
親指の柔らかい部分腹で唇をそっと撫でられた。そんな事人生で一度もされた事のない私。
「どうしたの?」
更に距離が近づいてきて鼻が。
「キャル」
このどうしてよいか混乱している状況を救ってくれたのは、途中席を外していたグランさんだった。目が合うといつもの穏やかな笑顔。
「んもぅ。冗談が通じないわ。私達だって話したいじゃない。ねぇ、ヴィセル」
「俺は日頃から話しているからねぇ」
話をふられたヴィセルさんは、果物を口に放り込みながら面倒そうに答えてキャルさんはふくれっつらだ。
「ミライ、作業はこれで一旦終わったんですか?」
「あっ、はい。あとはグランさんの残りの担当部分だけです」
「そうですか。じゃあ、他は解散でいいな」
私の後ろからグランさんが、皆に指示をだした。その様子をみて思う。もしかしてグランさんって偉い人? そしてにやにやしながらヴィセルさんが。
「大丈夫ですか~? 二人っきり…」
「ヴィセル」
グランさんの声のトーンが低い。私の背後にグランさんがいるから表情はわからないけど、目の前のヴィセルさんがひきつった顔に。
「あー心配して言ったのに。ミライちゃんの事になると怖いね~。じゃ我らは業務にもどりますか」
ヴィンさんは、私に意味深な表情の後にウィンクひとつ投げて皆と去っていった。
「あいつは…いや、すみません。始めましょう」
なんだかいつもと違うグランさんだ。こんなに顔に言葉に感情がでているのは初めてかも。
「ミライ?」
「えっ、あっすみません! お願いします!」
そして作業は再開された。
* ~ * ~*
そしてその夜。
時間でいえば7時頃だろうか。借りている部屋でジュリアちゃんと私は、机に置かれた手のひらに収まるサイズの五角形のクリスタルのような物を机に置き、いまかいまかと待っていた。
「いよいよですね。暗くしましょうか」
ジュリアさんがさっと部屋に置かれている数個のランプの光を弱めてくれた。
「はい。お願いします!」
「そんな力をいれなくても大丈夫だと思いますが」
それには即答した。
「いや、こればっかりは分からないですよ!」
その時、時刻を知らせる音がクリスタルの置物から鳴って、器が光を発し始めて部屋が明るくなった。
「さて、どうなるやら」
私の三ヶ月弱の努力が実るかどうか。
国を巻き込んでの賭けが始まろうとしていた。