3.ピクニック
「いや~。やっぱ夢じゃないのか」
飲まれて気を失い、また起きてみればお兄さんからありがたくないお話を伺いまたリバースして寝かされ手厚く看病されました。
「あれから何日、三日は経ったかな」
二日酔いもすっかりなくなり、出されるご飯もありがたくいただき何にもせず寝てまた朝が来た。
「ん? なんか声がする」
素足でベッドから降りて小さなバルコニー、いやそんな物がある自体おかしいけれど、とりあえず顔を出してみれば、いわゆる騎士様方が訓練をしているようだ。
「あ、あの人モナさんかな」
私の唯一の自慢は視力だ。
まあ、それだけじゃなくてモナさんは周りより髪の色が地味だから。いや他の人が赤やプラチナブロンドとか派手だからで、決して悪口ではない。
「気づかれた? まさかね」
急に私の声が聞こえたかのようにモナさんが振り返ってこっちを見た…ような。
「まぁ! そのお姿で」
「あっ、ごめんなさい。着替えます!」
すっかり仲良くなった侍女さんのジュリアさんに寝間着姿を注意されて急いで部屋に戻った。
そして、モナさんが振り向いたようにみえたのは偶然じゃなかった事を数時間後に知る。
* * *
「大丈夫ですか?」
「さっきよりは…」
もうお昼かな。動いてないから空かないんだよなぁと思っていたら、いきなり着替えさせられ、ジュリアさんに蓋つきの可愛いバスケットを渡され突然現れたモナさんに馬に乗せられて。横座りの二人乗りって密着がすごい。だけどドキドキ感は最初だけで、それどころじゃなかった。
お尻がとっても痛いのよ。腹筋たりないし。
「あそこにしましょう」
モナさんは、お馬さんを川近くの木につないで少しだけ離れた小さな丘のような場所を指さした。
「えっ」
スカートが長いので慣れなくてもたついたら、モナさんに手を軽く握られひっぱられた。といっても無理やりではなく、なんていうのかな、リードしてくれるのよ。すごい自然な感じで。目が合えばにっこりされた。
…爽やかすぎて眩しい。
「ご馳走様でした」
私は、ジュリアさんが用意してくれたサンドウィッチのような物と莓に似た果物をぺろりと平らげた。う~ん、場所がかわれば食欲もでるもんだ。
「疲れましたよね。よかったらどうぞ」
「あっ」
軽く押されてそのまま横に倒れた。
何処に? モナさんの膝、正確には腿だ。
いや逆じゃない?
イメージでは彼氏が彼女の腿を借りて…。
「いや、そもそも違う!」
何を言ってるの私は!
「ノノムラ様は、いつも元気ですね」
「いえ、そんな事ないっ…」
緑の瞳がみおろしていて、しっかり目が合ってしまった。顔が真っ赤になりかけて、でもそれは次に投げ掛けられた言葉で消えた。
「強いですね」
帰れないのにお気楽すぎているって事?
思わず向きを横にした。起き上がろうにもやわらかく、でもしっかり押さえられているのだ。
「朝、おみかけして誘いたくなりました。食が細くなっていると聞いていたので気にはなっていたんです。外に強引に誘ってよかった」
私は。
「…かってにこの世界にきて、しかも何かしら他から来た人は能力があるって言ってましたけど、何にもないし。なんの役にも立たないですよ」
言葉や読み書きは違和感なく話し読め、それはとてもよい事だったけど、この魔法や魔力とやらが、普通に存在する世界での私は、ただの厄介者だ。
「時には感情を外に出すのは必要なんじゃないかと思います」
風で葉がこすれる音と背中をゆっくりと一定のリズムでトントンされる感覚だけ。
──私は、この世界に来て初めて泣いた。