18.ライアンさんとグラン君
「こんなど真ん中で何をやっているのですか?」
グラン君、声が別人なんですけど。
「キャルに頼まれて姫君のエスコートだが? まぁ頼まれなくともしていたが。魔術師団長こそ持ち場を離れていいのか?」
あぁ。なんで挑発するように。
…え?
「団長…さん?」
「ああ。グランは第1の魔術師団長だ。知らなかったのか?」
ライアンさんに頷いたら、呆れた顔をグラン君に向けてため息一つと右手が伸びてきて。
「もう一度だけこのバカの話をきいてやってくれるか?」
ライアンさんの伸びてきた大きな手は私の流された髪の一房をとり、彼は、またもや片膝をおとしている。
「飽いたらメイヤーに遊びにおいで。その時は全ての煩わしいモノから守ろう。屋敷は砦から距離があるから安全だ。もうすぐフレアの花も咲く」
髪に口づけされた。
辛うじて声はあげなかった。だけどおさまったはずの熱が再度顔に。
この国の人達は皆こうなの?
キザっぽいんだけど様になっていて。本当にお姫様になったように守ってくれるように思ってしまう。
「ハハッ! また真っ赤だぞ?」
「えっ!」
やっぱり冗談か!
完全に遊ばれている!
くっそう!
私の顔色を見たライアンさんは、すぐに切り替えた。
「悪い。やり過ぎたな。ただ嘘ではない。いつでもメイヤーに来い」
立ち上がった彼に頭を撫でられて。紫の瞳は穏やかだ。あまりにも優しくて気持ちよくて目を細めてしまっていたら。
不穏な音が頭上で一発。
「気安く触れないで下さい」
グラン君がライアンさんの手を払ったらしい。頭から消えた心地よい重さがなくなり、ちょっと寂しい。
「ミライも何故そんなに警戒心がないんですか?!」
「えっ、私?」
なんで私が怒られたのか。
「あまりしつこいと今度こそ本気で嫌われるぞ」
「ライアンは黙っていて下さい」
あっ、ライアンさんイラッとしてる。そして口が悪い笑みになっています。
「ほぅ。警備を特別に替わってやろうとしたが」
「是非お願いします」
グランさん返しはやっ。
あっ、またライアンさん笑ってる。
「前に言っていた場所の結界を再度早急にかけなおしをしろ。それでなしにしてやる。行け」
グラン君は、ライアンさんに返事をせず、陛下が座っている場所に身体の向きをかえ礼をすると。
「失礼します」
そう言われグラン君に抱き抱えられた。
「ちょっ」
「早くこの場を去りたいので」
それは同感だけど!
まだライアンさんに何も言ってない!
「あのっ! ありがとうございました!」
「俺は何もしていない。またな」
抱えられながらもライアンさんにお礼を伝えれば、一瞬目を丸くした後、笑って手を振ってくれた。
なんだ、この爽やかさと艶っぽさの人は。
やっぱりカッコよすぎる。
「ミライ…」
またもや低い苛立ちの声をグラン君からもらったけど、聞こえません。私、何にも悪い事してないよ。
ああ。
この後を考えると一気に気分が下がった。
それに周囲からの注目度が半端ない。
……帰りたい。
*~*~*
グラン君は重たい私を抱えたまま悩むそぶりもなく右へ左へと進み、少し大きい扉の前迄来ると足で扉を蹴って開けた。
意外にも荒い。
「「あっ、えっ? 団長?!」」
中には剣の柄を掴んだ一人となにやら構えていた人が一人の計二人が警戒から驚きの顔に。
「転移盤を使う」
「今ですか? 失礼ですが許可は」
「後で報告する」
「事前に申請して下さらないと!」
「煩い」
なにやら不穏な雰囲気のまま足を進めていく先には怪しげな字が刻まれている石の円盤が。そこに乗る前に一瞬歩みが止まったかと思ったら。
「それ、よこせ」
「えっ、これは俺の夕食…」
「次の休み希望通りにしておくが」
「……」
無言で悲しそうな瞳の若い騎士さんが篭を差し出していた。
あっ。
「あの、書庫の時の騎士さんですか?」
金髪の頭に童顔の顔に見覚えが。
「あっ、はい」
あっ、やっぱり。ちょっと戸惑った仕草をしながら返事を返してくれた。
「あの、こんな失礼な状態ですみません。あの時助けてくれて、本当にありがとうございました!」
この人が来てくれなかったら…先を考えぶるっと身体が震えた。
「仕事なので当たり前です。俺、いえ、私がもっと早くお迎えにいけば…」
すまなさそうにしながら首を激しく振るので、少しだけ長めの綺麗な前髪の髪も一緒に動く。うう、いいなぁ金髪サラサラで。
「マントもありがとう」
優しくしてくれてありがとうを言葉にこめて、ほら、大丈夫でしょう? と笑ってみた。
あれ?
なんか騎士さんの顔が赤くなり固まった。
「ミライ、貴方とはじっくり話をしたい」
這うような声が耳元に吹き込まれた。
な、なんで?
「これから、場所を移動します。少し眩しいかもしれないので目を閉じていて下さい」
「は、はい」
光始めたので慌てて目を閉じたと同時に眩しさを感じた。でもそれも一瞬で。
「もう大丈夫です。開けて」
恐る恐る目を開けたら、ロッジのような建物の中にいた。木で組まれていて可愛らしい作り。
ただ。
真後ろを見て固まった。
そこには大きめなダブルベッドが鎮座していた。
え?
話し合いって言ったよね?




